学パロで『新撰髄脳』⑤〜両方とも出来ない時の裏技編〜プレバト夏井先生との共通点
前回はこちら。
ともにえずなりなば、いにしへの人おほく本に歌まくらを置て、末に思ふ心をあらはす。
(古典文庫『公任歌論集』より引用)
と、いうわけで、今回は、「心も姿も両方出来ない時の具体的対処法」です。
正直公任さんがここまで解説してくれてるのは予想外でした。
「AとB両方兼ね備えているのが良いよ。まあ、両方が無理ならAを優先してね。Aが難しかったらBだけでもいいよ」というところまででも、「Bだけでもいいよ」があるのが優しいなと思っていたんですけれども。その先、「両方できなかったら、こういう技があるよ」という、裏技まで教えてくれるわけです。
それが、「上の句のどこかに歌枕を置いて、下の句のどこかで『心=言いたいこと・テーマ』を入れること」。
「いにしへの人おほく=先人の多くは」とあるので、これは公任さんが先行文献等を調査して和歌を研究した結果、得られた法則のようなモノかと。
私は和歌は専門外なので、当時からこういうセオリーがあったのかは分かりませんが、セオリーがあったとしても、知らない人にそれを教えてあげるのはだいぶ親切かと。
歌壇で認められれば、天皇に気に入られるし、貴族の中でも評価されます。つまり、歌人同士は、同じ道を行くもの同士ながら、ライバルでもある。実際、もうすこし時代が進んで俊成やら定家やらの時代になると、歌の流派や家同士の論戦であったり政治的駆け引きであったりが結構あったりする。
だから、自分の経験や勉強で得た知識は、普通だったら人に教えなくてもいいはずです。その方が、自分や自分の子孫だけ評価されるかもしれない。けれども公任さんは本当に和歌が好きだから、若い人や苦手な人にも和歌の作り方を教えることでこれからの時代も和歌が発展していくことを願っていたんじゃないのかなあ、と思うのです。
「ケチな性格じゃない」とも言う。
ところでまたしてもプレバトの話ですが、「上の句のどこかに歌枕を置いて、下の句のどこかで『心=言いたいこと・テーマ』を入れること」という教え方って、夏井先生が昔番組で小さい子でもできる俳句の作り方を教えてくれた話に似ています。
どういう話かというと、俳句の5・7・5の最後の五字のところに「たのしいな」を置いて、自分では5・7の上五・中七の部分を考えるという作り方です。
そちらについては、こちらのブログで紹介されているのが詳しいので、参考にリンクを貼らせていただきます。
何が似ているのかというと、最初から上から順に作るのではなくて、上の句と下の句、どちらかを固定してから残りを考えるという部分が似ていると思いました。
公任さんの示している作り方を私が実践しようとするなら、「先に下の句におくテーマを考えて、そのテーマに似合う歌枕をいくつか考えて上の句に入れる」または、「先に上の句に入れる歌枕を考えて、その歌枕から考えられるテーマを考え、下の句に使う」という2パターンの作り方が考えられます。
詠みたいことはあるんだけど……とネタがあれば、それに歌枕を添えれば立派な和歌になります。
また、歌会でテーマが決められていたり、旅行先で和歌を詠むことになったりすることもあります。そういう時は、場にふさわしい歌枕を先に考えて、その歌枕から想像を膨らませる。
夏井先生は「たのしいな」の部分を季語にすることによって俳句を作りました。この「季語」に近いのが公任さんの「歌枕」なのではないかと、皐月は考えました。和歌も俳句も専門外なので、捉え方が違ったらすみません。あくまで素人の感覚として感じたことです。
「歌枕」というのは、景観が美しかったり、語感が面白くて和歌に引用されることが多い地名です。漫画の例では「逢坂の関」を出しました。
「歌枕」は公任さんの時代より前の、『古今和歌集』に採用された有名和歌にも引用されていることが多いので、歌枕を見た(聞いた)瞬間に、デキる歌人はその歌枕を使った和歌が脳内でずらっと出てくるわけです。そのため、歌枕に含まれる情報というのは、地理や役割など場所の知識・語としての情報・他の有名和歌、これらのことが含まれます。
一言で言葉以上の意味を含む、という点で、俳句の「季語」と共通しているのかな、と思いました。
俳句も元を辿れば和歌に行き着くはずなので、やはり共通の何かがあるんじゃないかなとも思います。
というわけで、今回は具体的な「これをおさえりゃハズさない和歌の作り方!」という感じの内容でした。
次回、明日もすこし続いて、「最近の流行を踏まえる際の傾向と対策〜ここもおさえりゃ間違いなし編〜」と言う感じの内容です。
今回紹介した「公任さん直伝和歌の作り方」については、また改めて記事にできたらいいなあとも思いました。
追記:次はこちら