和歌を即レスできないときの対処法
貴族A「ちょっと聞いて」
貴族B「なになに?」
貴族A「それがさー、この前、宮中で上司もいるところで、女房に突然歌を詠みかけられちゃって、すっごい気まずかったんだよね」
貴族B「あー、たまに空気読めない女の子いるよね。下手に断ると、『あいつには即レスする歌才がなかった』とか言われかねないし」
貴族A「それな。それに返歌したらしたで、『何を公衆の面前でいちゃついてんだ』って、チャラいやつだと思われちゃうかもしれないし」
貴族B「女房ネットワークこええんだよなあ」
◇◆◇
千年前、このような貴族たちの会話があったかもしれない。
平安時代、歌を詠みかけられたら、返歌するのがマナー。特に、男女間の恋歌を返歌しないのは、現代で言えばLINEの既読スルーに近いかもしれない。送った側はやきもきするし、周囲も「それはないわ……」みたいな感じになるのである。顰蹙を買う、という表現が近いかもしれない。
とはいえ、上記のように、すぐにお返事できない状況というのも、当然あります。
今回は、「そんな貴族に教えてあげたい! 古典に載ってる【歌を詠まれたが即レスできない! そんなときの対処法】!」
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◆
まず、ご紹介するのは『無名抄』から。
『無名抄』は、教科書でよく見る三大随筆『方丈記』の作者鴨長明が書いた歌論書である。歌論書というのは、普通「よい和歌というものは~」みたいなことを論じている本なのだが(※公任さんの『新撰髄脳』も歌論書)、この本は和歌に関する説話が多く載っており、説話集に近い。
ちなみに『無名抄』にあるエピソードは面白いものが多く、過去記事でもも紹介したことがある。
本題に戻そう。「対処法」の話。
勝命という鴨長明の父の友人が語ってくれたことを、鴨長明が書き残している。
★☆★
勝命「TPOをわきまえない女が歌を詠みかけてきて、こちらとしてはどうしようもないということが、宮中ではよくあるのだ。しかしな。それには昔からのシキタリがある」
【対処1】
「聞こえませんでした」ととぼけて、何度も聞き返す。
【会話例】※皐月オリジナル
貴族「聞こえませんでした。今なんとおっしゃいましたか」
女房「え? ええと、ですから…」
貴族「え? すみません、お声がよく。もう一回いいですか?」
女房「えっ、ええ、やだ……そんなに何度も(恋歌を言い直すのは)恥ずかしいわ……」
勝命「最終的に女は恥ずかしがって、ハッキリと言わなくなる。このやりとりをしている間に、よい返歌を思いついたらそれを言えばいい。思いつかなかったら、そのまま聞こえないふりを貫けばよし」
【対処2】
魔法の言葉「まさかそんな風にお思いではないでしょう?」
【会話例】※皐月オリジナル
女房「かくとだにえやはいぶきの」(私の恋は実方モードなの♡いとしのあなたなら、この歌の一部だけで、私の気持ち、わかってくれるよね☆)
貴族(やべえ、その歌よく知らないわ。何だっけ……)
女房「かくとだにえやはいぶきの?」
貴族(あ、無理。思い出せないわ)
貴族「……まさか、そんな風にお思いなわけではないでしょう?」
女房「えっ!? え、そんな…確かにたわむれに言いましたけれど、私は、本当に……」
貴族「そうですか。それは驚きだな(セーフ)」
勝命「男でも女でも、ふざけたヤツらが『添えこと』と申して、こちらが知らない歌の一部を言ってくることがある。知っておれば対処できるが、知らん場合は『まさかそんな風にお思いではないでしょう?』言っておけばいい。これは、どうとでもとれる言葉で、どの意図にも反しない。
①あなたを深く思っていますよ。
②あなたの心がつらい
③冗談でしょ?
相手は、この3パターンのどれでも解釈できるのだ」
◆
以上が、『無名抄』勝命直伝、「和歌を即レスできないときの対処法」である。
二番目の「まさかそんな風にお思いではないでしょう?」は、現代なら「まっさかー!」「え、本当に?」ってニュアンスですかね。
私はなかなか現実的なテクニックだと思いました。
それこそTPOによるけれども、「やばいっすね」「マジですか?」みたいな軽いノリでもいけるかもしれない?
(※効用は保証できません)
「突然和歌を詠みかけられたとき」なんてのは現代では絶対にないシチュエーションだけれども、その対処法に学べることはありそうである。