新年狂歌
今日は新年最初の古典語りということで、お正月にまつわる狂歌をご紹介。
特に注記がないものは、小学館の新編古典文学全集の解説を参考にしています。
まずは、元木網の作品。
※解説
こちらの元ネタ(本歌)は「開けて悔しき玉手箱」ということわざです。最近ではあまり聞かないような気がしますが、ご存じ『浦島太郎』からの言葉で「期待して開けてみると、中身がなかったり、期待はずれで、落胆すること」という意味だそう。
「年が明ける」と「玉手箱を開ける」が掛かっているんですね。
そして、本来は「開けて悔しき」という言葉である前提が大事。
「年が明けて、またひとつ年をとってしまう(のは本来は「悔しい」ことなんだけれども)、それでもやはり元日の朝というのはやっぱり「嬉しい」ものだ」という意味。
と、元日ってとにかく嬉しいよね! というハッピー狂歌です。マイナスの意味のことわざを反転しているのが狂歌らしいポイントであり、新年にふさわしい明るい感じでいいなあと思います。
次は酒上不埒の作品。この方は、『金金先生栄花夢』という黄表紙作品を書いた恋川春町というペンネームの方が有名ですね。
※解説
本歌は、「昨日こそ早苗とりしかいつのまに稲葉そよぎて秋風の吹く」という古今和歌集の歌(詠み人知らず)。本歌の方の意味は、「早苗とりをしたのはついこの間なのに、いつの間に稲葉がそよぐ秋風の季節になったんだろう」、という歌。季節の流れ早すぎない? みたいなニュアンスですね。
その本歌の意味合いを踏襲しつつ、年末年始の慌ただしさに変換したのがこの狂歌になります。
狂歌の方は、「昨日新年を迎えるために煤掃(大掃除)をしたのに、巷にはいつの間にか門松が立って、年の瀬の風にそよそよと音を立てているなあ」という意味。
現代的感覚だと、「昨日ハロウィンしてたと思ったのにもうクリスマスかよー!」に近いかもしれません。
元ネタ→狂歌を参考にして、現代でも意外と応用できるかも。
同じ作者でもうひとつ、「初夢」にまつわる狂歌。
本歌は「一富士二鷹三なすび」という初夢で縁起がいいと言われているものですね。
・「知ろしめしたか」→「知る」の尊敬語「知ろしめす」の変形と「鷹」
・「ふじ」→「不時」と「富士」
・「旅をするが」→「旅をする」と「駿河」
・「門出なす」→「為す」と「茄子」
と、ふんだんに掛け言葉を使っています。言葉遊び的な要素が強いかな。
意味は、「夢の中の出来事としてお知りになったでしょうか、そんな筈はないですよね、今日私が突然に富士の山のある駿河への旅に出立するのを」というもの。
友達への旅立ちの挨拶として、縁起の良い言葉で狂歌を作っているセンスが光ります。
最後は、花道つらねという人の狂歌。これは卯年の歌なのですが、今年はその前の年なので予習ということでひとつ。
※解説
本歌(漢文の場合正確には「本文」)は「虎ノ尾ヲ踏ミ人ヲ咥ズ」という恐ろしいことを例えることわざ。
ことわざの中の「虎」を利用して、詠まれたもの。「年の暮れは借金の返済や、春を迎える準備と大忙しで、何かとバタバタして気の揉める日々が続くけれど、年を越えて、それもどうやら乗り越えることができてのんびりしたお正月がやってきた〜」という感じの意味。
寅年→卯年の動物のイメージもあいまって、より年末から年始への気持ちの変化がわかる狂歌になっています。
というわけで、年始の狂歌、いかがだったでしょうか。
年末はバタバタしてたけど、お正月はのんびり! 楽しい! みたいな歌が多いですね。お正月が楽しいのは江戸時代も共通だったようです。
今日から仕事始めで大変だった……という方も多いと思いますが(かくいう私もその一人ですが……)、お正月の楽しかったことを糧になんとか頑張っていきましょう……!
とか言いつつ、三が日と言わず松の内は祝日にしてほしい! と思う皐月あやめでした。
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