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クリスマス・イヴ[2-2]

「本当にごめんね。」

そう言ってまーくんは、何度目かの謝罪をしてくれているけど、わたしは聞こえないフリをしてホットワインに口をつける。

「僕が悪かったって。」

本当に自分が悪かったことを分かっているのだろうか、この男は。


だってありえないじゃん、クリスマスイブのデートの約束を忘れるなんて。

1時間待っても連絡がないから、事故にでもあったのかと冷や冷やしていたら「今起きた」だって。こんな、代名詞が"恋人の日"、みたいな日にデートだっていうのを、一体どうやったら忘れられるのか、逆に教えて欲しい。

「明日がクリスマスイブってことは知ってたんだよ。

で、24日がデートの日ってことも、もちろん覚えてた。

でも、24日がクリスマスイブで、24日が明日ってことを、どういうわけか忘れちゃってたんだ。ごめんね。

でもほら、こうして今一緒にクリスマスマーケットに来れてるんだし、許してもらえないかな。」


ほんと、どうかしてる。

こんな"嘘でしょ"って思い込みをしちゃう、おっちょこちょいな人だってことも、そんな人がわたしの彼氏だってことも、こんだけ誤ってるんだし、なんか可哀想になってきたから、もう、許してあげようかって思ってる自分も・・・全部全部どうかしてる。


「もう、わかったよ。無事だったんだし、いいよ。」

「本当?ありがとう!今日楽しもうね!」

もう本当ずるい。そんな子どもみたいな笑顔で言われちゃったら全部、まぁいっかって思えちゃうじゃん。

分かってる。これだから離れられないんだよ。

惚れた弱みってやつだよね。


「じゃあまーくん、お詫びになんか買ってきてよ。」

「いいよー。好きそうなものいっぱい買ってきてあげるから、待ってて。」

そう言って、ルンルンと、今にもスキップし始めそうな足取りで人混みの中に消えていった。こういう、良くも悪くも、ふわふわしてて忘れっぽいというか、切り替えが早いまーくんを羨ましいと思う。

私は考えすぎちゃうのに、その10分の1も表に出せないせいで、考えてるうちにその話題が過ぎ去っていくことがしょっちゅうだから。

まーくんみたいに、すぐ気持ちを切り替えられたら、みんなについていけなかったとしても落ち込まないかもしれないし、そもそも、みんなに置いていかれることもないかもしれない。



まーくんはいつだって、台風の目なんだ。

本人はずっと穏やかで変わらないのに、まーくんの周りにはいつも、まーくんのその、不思議な雰囲気に吸い寄せられて集まってきた、たくさんの人がいて、まーくんが動けば何も言わずともみんなもついていく。

本人は気づいてなさそうだけど、まーくんの影響力はすごい。

だから、まーくんと直接会ったことがない、ましてやわたしが彼と付き合ってることを知らないはずの学部の友だちから、まーくんの話題が出たときには、流石に驚いた。

まぁ、わたしが一番、その魅力の虜になっちゃってるか。



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