ウイルス講義

ウイルスとは何か、現代のパンデミック視点で。

今、ウイルス憎しの機運があらためて高まっているこのタイミングで、相変わらず「空気を読めない」自分の性格に呆れつつ、やっぱり冷静になって物事を学んでみたいです。ウィルスって悪いヤツ?そもそも生き物なの?あいつらは何のために僕たち人類を殺すの?そんな庶民の声からスタートしてみましょう。ちなみに、自分でも二度まとめています。今回は近年のパンデミックの事例から迫ってみます。
※冒頭画像は、下記の夢ナビから借用しました。非常に面白い講義です。

ウイルスと生命の平穏な関係を見出したのは人類

ウイルス、細菌そして真菌(カビ)などは、僕たちの日常生活のいたるところに潜んでいます。もちろん、彼らが隠れているわけではないのですが、僕たちから見えないので、そう感じるわけです。最近僕が買った大幸薬品の『クレベリン』は、新型コロナ対策品として注目を集めていますが、そんな同社のサイトにも、ウイルスや感染症について整理された内容が書かれています(下記リンク)。さて、野生動物はそもそも、様々なウイルスや細菌などの微生物と共存しています。彼らを自然宿主とし、病気を起こさせることもありません。しかし、人が野生領域に立ち入り、それらに感染してしまうと、たまたま病気になってしまうことがあります。人類の生息域も多様で、日常的に野生動物と交わる種族・部族はありましたが、従来は家族内・部族内で留まるのが大半だったと想定されます。ゆえに、病原体の遠隔地への拡散も起こりにくかったと言えます。

ウイルスと細菌_大幸薬品

ウイルスのグローバル化

ところが、現代文明はグローバルを志向し、つながる範囲も拡大、交通量とスピードも飛躍的に上がりました。その結果、病原体が都会に運ばれてくる可能性も高まり、かつその都会は人口密集地です。爆発的な流行に至ってしまいます。その恐ろしさを目の当たりにしたのは「エボラ出血熱」です。ギニア国境の2歳男児が黒い血液を流して死んだことが発覚し、その後、その家族が相次いで亡くなりました。葬儀に参加した人へも感染が広がったようです。9ヶ月後の2014年8月、WHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を発表。翌月には累計感染者が3500人、死者1900人(ギニア、シエラレオネ、リベリアの三カ国)にも拡大していました。さらに、地域大国のナイジェリアやセネガルにも感染が広がり、一部の国ではウイルスへの敗北宣言とも言える発表がなされました。国際協調が機能し始めたのは10月、ようやく流行者数が鈍化を始めました。それから終息宣言がなされるまではさらに一年かかったのです。2016年1月の集計では、感染者数計2.8万人、死者1.1万人。あらためて、エボラウイルスは、致死率が高いことを思い知らされました。ちなみに、エボラは、チンパンジーやゴリラにも感染するようです。そして致死的な症状を呈するのだそうです。

ウイルスを見つける力

直近では新型コロナウイルスの感染力の強さが話題になっています。一方、エボラウイルスの感染力は低いのだとか。患者の体液や血液の接触が感染経路とされ、飛沫感染がないようです。また、潜伏期間中には感染しない点でも安心で、症状をもって警戒すればいいのです。ただし、排泄物や血液などで汚染された防護服経由でも感染するらしく、医療従事者には高度な警戒が求められます。対岸の火事にはできないと考えた日本政府は、同ウイルスに対してバイオセーフティーレベルを最高に設定しています。しかし、本書では興味深い情報が記載されていますが、せっかく警戒度を高めても、それを検査する高度な研究所が設置できなかったそうです。なぜなら、その研究所の存在を近隣住民に認めてもらわなければならなかったからです。日本では国立感染症研究所村山庁舎がそれに当たり、2015年8月、武蔵村山市の同意を何とか得ることができ、レベル4の国内初稼働となりました。

インフルエンザには新型がいっぱい

「新型インフルエンザ」という言葉があります。ついつい「新型コロナ」と混同してしまいそうですが、前者はいわゆる鳥インフルエンザなどがその代表です。毎年冬に発生するものとは異なります。そもそも鳥のインフルエンザ(H1~H16型)は弱毒性でした。しかし「H5亜型」と「H7亜型」は、養鶏場などでの感染を繰り返すうち、突然変異によって強毒に変わったそうです。その結果、鶏の大量死につながりました。鳥インフルエンザが鳥を殺したのです。宿主を殺してしまい、何の得があるのでしょうか。おそらく、養鶏場のような特殊な環境は自然界にはなかったはずです。つまりウイルス自身も予期せぬカタチで、宿主を死なせたのかもしれません。その結果、(少々飛躍した論理ですが)ヒトへの感染という道が開けてしまったのではないでしょうか。

鳥インフルエンザ

動物からヒトへのハードル

新型インフルエンザでは、スペインかぜが一番大きな被害をもたらしましたが、それでもこれは弱毒型です。致死率2%。今日新型コロナでも2%前後と「比較的高くない」そうですが、実はかなり高い数字です。1957年のアジアかぜ(致死率0.5%)、1968年の香港かぜ(致死率0.1%)ともにパンデミック(地球規模の大流行をもたらす感染症)に至っていますが、致死率は高くないです。「パンデミック」の深刻さは、個々人の健康被害に留まらず、社会機能や経済活動を破綻に陥らせることです。それゆえに国際機関が主導し、各国が連携するという必要も出てきます。ウイルスの観点から見た時に、野生動物からヒトへの感染を実現するためには、細胞表面のウイルス受容体がヒト型に合っていなくてはなりません。また、増殖するための温度もヒトの体温に適していることも必要です。変異のスピードが速いのか、人類の対策措置が先なのか、一刻を争う状況が続いています。

中国は、ウイルスが伝播する揺りかご

中国発の感染症としては、もうひとつの鳥インフルエンザ(H9N7型)も、日本政府の監視対象になっています。本書でも、まるまる一章さかれて記述しています。2013年、上海に隣接する安徽省で発見されたのが最初です。毎年流行しているインフルエンザで、しかも弱毒型ではあるのですが、基礎疾患のある患者に関しては高い致死率を示でした。また「H9N7型」は、患者の大半が年齢層の高い(平均58歳)点では、乳幼児と高齢者に重症者の多い季節性インフルエンザや、90%を年少者が占める他の鳥インフルエンザとは一線を画しています。こんな具合に、調べば調べるほど、様々なウイルスの名前や色々な特徴が挙がってきます。これらのウイルスはすでに社会に蔓延しています。突然変異が、ウイルスの複製回数に応じて起こることを考えると、恐ろしい話です。

H7N9(鳥インフルエンザ)

SARS、MERSについてはここでは触れません。すでにたくさんの情報がインターネット上にあるからです。SARSは、コウモリを宿主とし、ハクビシンを通じて、ヒトに広まったとされています。中国南部での、野生動物を食材として扱う風習が招いたものと言われています。MERSについては中東の風土病であり、日本人の警戒心もそれほど強くありませんでしたが、お隣韓国で、バーレーンから帰国した男性を皮切りに院内感染が爆発。のべ1.2万人が隔離されましたから、日本でも大騒ぎになりました。両者はコロナウイルスと呼ばれていますが、RNAを遺伝子とし、表面に大きなスパイク状の突起が並びます。イヌ、ブタ、ネコ、ウシ、ラクダ、ニワトリなど、さらにヒトも含めて宿主とし、これまで十数種類が発見されています。ヒトでも、普通のカゼの中に5%以上は、コロナウイルスが含まれているようです。SARSにて初めて大問題となり、MERSがこれに続きました。MERSはラクダから感染しますが、従来は幼少期に初感染し、それぞれの村落でワクチンのような役割を果たしていたとされます。しかし、成人になってもラクダと接触しない人々の数が都会に増えたため、一説には、大人になってから感染した時の極端な免疫反応が人々を重篤化させると言います。

ウイルスは細胞から独立した?

最後に、壮大なまとめになりますが、ウイルス研究はキリがないくらい奥が深いものです。生命(細胞)が誕生した頃から、ウイルスとの関わりがあったのかもしれません。ウイルス研究の第一人者・中屋敷教授曰く「大雑把なイメージをつかんでもらうために、真菌はわれわれと同じ多細胞生物、バクテリアはその体の一つの細胞が飛び出して独立して生きているもの、そしてウイルスは、その細胞の中の遺伝子が細胞から飛び出て“独立”したようなもの、と説明しています」。ウイルスも、生命とともに存在し、僕たちと関わり合っている存在です。ただし、現時点でウイルスは生命ではないとされていますから、生命が進化してくる過程で、細胞外に存在し、遺伝子の変化を様々に助長している存在と定義しておくのが近いのかもしれません。もし、病気そのものが、みずからの遺伝子を進化させるための、絶え間ない刺激と考えるなら、ウイルスとは、それを執行する役割なのでしょうか。


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