バイオマスからの光触媒的水素生成

光触媒反応は、光照射によって引き起こされる酸化還元反応である。光触媒に光を照射すると価電子帯の電子が伝導帯へと励起される。このとき、価電子帯には電子の抜け穴が生成する。これを正孔と呼ぶ。つまり、光触媒に光を当てると励起電子と正孔が生成する。励起電子は還元反応を正孔は酸化反応を引き起こす。

このように、光触媒に光を当てると酸化還元反応が進行する。これが光触媒反応である。

光触媒反応を進行させるために必要なのは光照射のみであり、圧力をかける必要も、加熱する必要もない。それゆえ、光触媒反応を使ってバイオマスを水素へと変換することができれば、従来の改質反応の問題点(枯渇資源が原料である、高温高圧じゃないと反応が進行しない)を解決できる。

従来の水素の製造方法については前の記事を読んでいただきたい。

バイオマスを原料にして光触媒反応によって水素を製造する。このような研究の先駆的なものとして、1980年に川井と坂田によって報告された論文がある。

T. Kawai and T. Sakata, Nature, 1980, 286, 474–476.

彼らはこの論文を報告した後も、光触媒反応を使ってセルロース、デンプン、死んだ昆虫、廃棄物など、さまざまなバイオマスからの水素製造を検討しており、非常に注目された。

M. Kawai, T. Kawai and K. Tamaru, Chem. Lett., 1981, 10, 1185–1188
T. Kawai and T. Sakata, Chem. Lett., 1981, 10, 81–84.

光触媒に照射する光の光源として、もちろん太陽光も利用できる。つまり、太陽と植物から水素を得るという究極の反応と言える。しかしながら、問題点もある。それは水素の貯蔵の難しさである。せっかく水素を製造しても、これを貯蔵するのは困難であり、極低温に冷却して高圧をかける必要がある。貯蔵が難しいので、使用する直前に水素を生成するのが理想であるが、太陽は昼しか登っていないし、雨の日は光触媒反応を行えない。

次の記事では、これを解決するための技術について記述しようと思う。

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