「茨の騎兵強いから! 100枚買え!」4枚しか買っていない私の言葉は軽かった。
ウィザーズが新しい公式フォーマットであるパイオニアを発表したのは、2019年10月21日のことだった。
環境初期という響きがたまらなく好きな私は、街灯に引き寄せられる蛾のように新しいデッキについての構想を練り始める。
しかしパイオニアの蓋を一度開けてみれば、そこには夢を追う理想郷の姿などなく、現実を敵に回した鉄火場が、どこまでも広がっているだけだった。
クソデッキが回らない原因の押しつけ先
フェッチ禁止自体は英断だったと思うが、
ショックランド以外の友好2色アンタップイン土地がこれでは……。
環境初期は青黒一日のやり直し(これはクソデッキではない)を回していたが、勝率5割ちょいでトップメタに弱かったデッキに見切りをつけ、オリジナルクソデッキの開発をいよいよ本格化させる。
しかし、そんな私に待っていたのは、リーグ0-5という烙印だった。
リーグを50戦して10勝40敗ペースだった期間もある。
早い話、私の作るデッキは環境に対して不適格だったのだ。
しかし、捨てる紙束あれば思いつくアイディアあり。
転機は2019年11月4日の禁止改訂だった。
フェリダー、ニッサの誓いの禁止に関しては特に思うところが無い。
あー、禁止になったんだー。それだけだった。
モダン一歩手前みたいなスピード感だったよ
しかし、豊穣の力線の禁止。
これは当時一般的だったマナクリを用いた高速ランプの瓦解を意味する。
そもそもランプというデッキは干渉をあまり行わない性質を持つ。
相手のカードに対して丁寧に対処していたらフィニッシャーの枠が無くなり、土地を大量に並べて死んでしまうのだ。結果、ランプ系統の別のデッキと比べて遅いランプは、紙束の烙印を押される。
2019年11月14日。
豊穣の力線が禁止された。
私は新たなランプ戦略のデッキを作り始める。
狙うのは、力線デッキの立ち位置の乗っ取りだ。
私はランパンを用いたランプ戦略にそれを求めた。
豊穣の力線禁止後がパイオニアにおける茨の騎兵最古の採用実績
ランプデッキ作成最大の動機
スタンの強カードである茨の騎兵。
CIPは土地加速であり、スタッツはアグロにとって無視できない5/6到達であり、死亡誘発はマスカンの水増しである。捨てるところがない。
若干防御的に見えるこのカードが一番強く使えるのは、土地加速型のランプであることは想像に難くない。結果的に、その判断は間違っていなかった。
……間違っては、いなかったと思う。
「○○を最初に使い始めた」という言葉に自己満足以上の意味はない。
あえて言うのであれば、「自身の観測範囲に○○を使っている人は居なかった」というのが自己満足性をできる限り廃した自己満足的な物言いになる。
私がこの結果について言えることは、以下の一文だけだ。
茨の騎兵を用いたランプ戦略で、MOリーグ5-0一番乗りは私であった可能性が高い。
結局、こんなものは自己満足でしかなくて、そのうえ今更書くことがはばかられるほどの、もう終わった話でしかないのだ。
1.これ、最強でっきなのでは?(最強じゃなかった)
ランプ戦略最強のデッキが消えた。
しかし、ランプという立ち位置自体は魅力的なままである。
私はデッキを作り始めて、荒削りなリストを作った。
デッキが61枚。
土地が24枚。
1、2マナ域は1スロット(+バリスタ)だけ。しかも2マナ域のカードは加速に貢献しない。
このリストを作った奴は荒削りという言葉を免罪符だと思っているらしい。
まあ回してみるまで分からないので、とりあえずリーグに放り込もう。
1戦目。対緑単アグロ。当時のトップメタの一角。
ウラモグ、ウギンが働いて2-0で勝利。
ヨシ! 最強デッキや!
環境初期の京町杯(ローカルな大会)はワイのもんやな!
無事1没しました❤ 死にたい❤
多少の不運はあった。
そうだとしても、自分のデッキの不安定さが目立った試合だった。
サイド後、ダブマリ相手に勝てなかった時点でナニカがおかしいのだ。
2. 見所はあったので、そこを殺さないような改善を
京町杯での感触を裏付けるかのように、初期構築の緑単ランプはリーグで2-3を二連打する。
敗因は速度不足かつランプの枚数不足であった。
初期構想では、ニッサの勝利は草食獣で失ったアドを回復するためのベストカードになるはずだった。
こいつらデキてるでしょ
あれ? おかしいな?
爆アドコンボのはずなのに、ニッサの巡礼と大差なくね?
1枚で出来ることを2枚に分解して何がしたいんだ?
そんな単純なことにどうして気がつかなかったのかって?
アドレナリンで作ってると割と気がつかないんだよね。
でも回して対戦リプレイ見てると冷静になってきてね……。
ハハハマジでふざけてんじゃねーぞ! 10チケ返せ!
草食獣では(デッキに土地が24枚しかなかったので)マナ加速出来るか否かが不安定だったが、それを改善するためのカードをわざわざ積むことは間違いだった。(てかもっと土地を積め)
しかし、ランプデッキはマリガンをそれなりに考慮するデッキだ。
軽量マナ加速を枚数への負担が大きい草食獣に頼っていては、マリガン後の動きに不安が残る。
とは言え、1マナの加速自体はランプを最速デッキに間に合わせるためには必須。
必要なカードは、他のカードを必要としない軽量のマナ加速。
というところまで考えると、あら不思議。
これが求めてるものだった……?
1マナのマナクリーチャーは自己完結していてデッキの負担にならず、草食獣のように余分な土地を要求してこないためマリガンにも強い
思わぬ(ようでいて当然に見える)結末に脳がバグりそうになったが、求めているカードはどうやらこれらしい。
半信半疑で、マナクリランプを回してみる。瞬間、音が聞こえた。
それは、デッキ速度がパイオニア標準に追いついた音。
マナクリ→ランパン→茨の騎兵
3ターン目に飛び出す5/6到達はアグロの攻勢を押しとどめ、コンボ相手には無視できないクロックとして働いた。
茨の騎兵を100枚買えと言ったのはこの頃だろうか。
緑単ランプはミッドレンジ~コントロールに対して特に強かった。
もちろん、ミッドレンジ帯のデッキに負けることはそれなりにあった。
ランプは引きムラの影響を強く受けるデッキである。
だから、それが当たり前だと思い、深く掘り下げなかった。
「このデッキ、オーコとハンデスがきつくないですか?」
twitter上のフォロワーのつぶやき。
私がその言葉へ耳を傾けることは、結局最後まで無かった。
3. パイオニア神挑戦者決定戦
11月23日のパイオニア神挑戦者決定戦に、私は緑単ランプで出た。
デッキリストは下記の通り。
難題の予見者はネクサスがトップメタになるとの判断からサイドに4枚積んだ。決して有利な相手ではないが、ランプの割には勝っていたはずだ。
(ちなみに、ランプデッキは本来、メインプランと噛み合わない難題がサイドに4枚必要な時期に回してはならない)
結果は6-3だった。
スゥルタイオーコと黒単アグロそれぞれに1-1。
あとひとつ、何に負けたのかは忘れてしまった。
シミックネクサスだったかもしれない。
少なくともネクサス相手に1つ勝ったことは覚えているが、簡単に2-0、3-0出来るようなマッチアップでは無かったことだけは確かだ。
当時はパイオニアリーガル
ミッドレンジ相手には滅法強い。
そうでなければ、トーナメント目線でランプを握る理由は無い。
対戦成績を纏めたところ、スゥルタイオーコは五分だった。
茨の騎兵は(コントロールを奪われるゴロスほどではないが)オーコに弱かった。スカラベの神にも弱かった。
「いや、ハンデスからのオーコは確かに強いけど、対戦成績見ればそこまで負けてないですよ?」
他の緑単ランプユーザーにそう強弁していた私だが、そもそもランプVSミッドレンジは「だいたい勝っている・稀に負ける」でなければならない。
ちなみに当時のトップメタはシミックネクサスである。
デッキに還ることでデッキを作ったFOIL
結局、オーコ・ネクサスが息している環境でランプを回すのは物好きでしかなかったのだ。
そう諦め、私は別のクソデッキを作り始めた。
程なくして12月下旬。あるフォロワーが言った。
「茨の騎兵、めっちゃ高騰してるんだけど」
……えっ? マジで?
4. 「最初に使った」? お前、勝てなかったじゃん?
2019年12月16日 パイオニア禁止改訂
王冠泥棒、オーコ 禁止
運命のきずな 禁止
緑単ランプは何に負けていたのか。
黒単アグロ? それには茨の騎兵が働くので時々負けつつ勝っていたし、相性差をそこまで悲観していなかった。
やはり、スゥルタイオーコとシミックネクサス。
この二強が苦手目ではあった。
この禁止改訂によって、そいつらがいなくなった。
回してはいたが、私は既に緑単ランプに見切りをつけていた。
本質が救いようがないクソデッカーなので、おそらく他のクソデッキを回したかったのだろう。なにぶん昔のことなので記憶が曖昧である。
クソデッキの例(こいつは勝率5割前後だったのでまだマシな方)
最大瞬間風速60チケ
値段のグラフを見て驚いた。本当に高騰してやがる。
私は40チケぐらいで茨の騎兵を利確した。
買ったときは5~10チケットぐらいだっただろうか。
4枚売って、120チケットを手に入れたことになる。
4枚?
私は茨の騎兵を、100枚買えとまで言ったカードを、MOですら4枚しか買っていなかった。
オーコ、ネクサスが禁止になっても、茨の騎兵のことを信じていなかった。この120チケットの持つ意味はそれだけだ。
売り払って手に入れたのは、30枚の銀貨×4だった。
蛇足になるがこの120チケット、私はクソデッキを乱造しリーグで0-5連打することでしっかり食い潰して足が出た。
しばらくして、パイオニアはコンボ全盛期を迎える。
ランプがぶん回ったので4ターン目にウギンを出しました。
コンボが普通に回って4キルしました。
そんなやりとりが日常茶飯事となってしまえば、そこにランプの居場所はない。茨の騎兵もやがて値下がっていき、インバーターやブリーチ、ケシスやヘリオッドバリスタといったコンボデッキが禁止される直前になると、数チケットあれば4枚揃うカードとなっていた。
2020年8月30日の禁止改訂にてそれらコンボデッキが去ったあと、私はパイオニアにてもう一度茨の騎兵の世話になるのだが、それについてはまた今度書くつもりである。
5. オーコ禁止後のリストと、私のリストの相違
同じデッキを使うほど、調整能力の差を痛感する。
誰しもそんな経験があるはずだ。
私は過去に何度も痛い目を見ている。
おそらくマジックを続ける限り、一生痛い目に会い続ける。
思い込みが強い割に、細かい部分を詰める能力が低いのは事実だ。
オーコとネクサスの禁止後だが、緑単ランプの構造自体は変わらない。
最後に、茨の騎兵が一番高かった12/29頃のMO上のリストと私のリストを比較してみようと思う。
(比較対象)
(私の12月下旬の頃のリスト)
メインボードで異なる点は、
差違1. 土地基盤
差違2. 1マナ域の構成
差違3. ランパン中型クリーチャーの内訳
(クルフィックスの狩猟者ーバリスタの枚数差は環境、緑カウント、見ている相手の明確な相違のため言及はしない。サイド含め私の構築の方が地上アグロに対して強い……はず)
の3つである。
私が2枠目の中型としてゴロスを採用したことは、おそらく大きな間違いだった。
1. 土地基盤
MO上のリスト 土地27 森11 緑カウント15 無色カウント12
私のリスト 土地26 森15 緑カウント18 無色カウント8
土地の合計枚数の差は、おそらくメインの草食獣の枚数と関係がある。
まあ枚数自体は大差無い。
それよりも内訳の方が問題となる。
無色カウント8というのは、エルフの再生者を考慮しても難題を運用出来るギリギリ(アウト)の枚数と言える。
一方MO上のリストは無色カウントを12枚(+再生者)を取ることで、サイドに軽量除去である次元の歪曲を取れるようになっている。
難題なら余裕を持った運用が可能な枚数だ。
MO上のリストではギャレンブリグ城を4枚採用しているのも差のひとつで、これにより6マナのカードの運用が楽になっており、後述する差違3にて差が生まれている。カードパワーを優先した選択が可能になっているのだ。
私のリストでは、ギャレンブリグ城は重ね引きしたときに加速の貢献しないという理由で3枚にしていたのだが、1枚も引かないことだって普通にあるのでつべこべ言わず加速土地は4枚取るという姿勢の方が多分正しかった。
2. 1マナ域の構成
MO上のリスト 草食獣4 マナクリ4
私のリスト 草食獣1 マナクリ8
草食獣は重ね引きが弱いから1枚だけ積む。
小賢しい判断だが、土地7枚以上なければ2マナ出ない無色土地が4枚デッキに入っていることを忘れてないか?
(土地が1枚少ないぶん)1マナ域が1枚多く、速度、マリガン耐性という意味で完全に劣ってると思わないが、土地を並べるデッキであるということから考えると、9枚目の1マナ域は余計かもしれない。
ちなみに、60枚のデッキにおいて、7枚の初手にある1マナ域の枚数の期待値1枚以上となる最低の採用枚数は9枚である。7枚の初手にある土地枚数の期待値が3以上となる最低の採用枚数は26枚である。
3. ランパン中型クリーチャーの内訳
MO上のリスト 緑騎兵3 ハイドラ1 忘却撒き2
私のリスト 緑騎兵4 ゴロス2
ゴロスより、ウルヴェンワルドのハイドラと忘却撒きの方がカロリーが高い。
私のゴロスは1→3→5の終着の5~6枚目としての採用だったが、結果として破壊不能であることだけが取り柄のゴミみたいな無色土地を1枚採用せざるを得なくなっているし、そもそも伝説であるため並べられないという小さくない弱点を背負っている。
一方MOのリストでは、複数ランパンになりうる忘却撒きやサイズが大きいゴロスであるウルヴェンワルドのハイドラが4積みのギャレンブリグ城から出すことを念頭において採用されている。
ここが私の構築で一番劣っていると感じた部分だ。
まあオーコ全盛期ならサイズはどうせ3/3だと割り切ってゴロスにする手もあったとは思うが、オーコ禁止後もゴロスにしておく強い理由は無かった。
いや、そもそもゴロスはオーコのマイナス5で取られるので、対オーコですら劣っているのである。
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