MTGで知ってるとトクする数字の話
カードゲームと確率は、切っても切り離せない関係にある。
私は小学生のころ、デュエルマスターズで友達と遊んでいた。
小賢しい小学生だったので、
「デュエルマスターズのデッキにシールド・トリガーを5枚積んでいれば、半分以上の確率で1枚シールドに埋まっているだろう」
と考えていた。
デュエルマスターズのデッキは40枚。
シールドは5枚。
シールドトリガーを5枚積めば、特定のシールド1枚にシールド・トリガーが含まれる確率は5/40
5倍すれば、25/40。
順列・組み合わせといったものを扱う知識を当時の私は持っていなかった。
期待値が0.5を超えていれば50パーセントを越えるだろうと、ぼんやり考えていた。
高校に入ってからしばらく。
当時の友人がデュエルマスターズをやっていたので、私は復帰することにした。
「デュエルマスターズのデッキにシールドトリガーを5枚積んでいれば、約半分の確率でシールド・トリガーが埋まっている」
当時の私は小賢しい高校生だったので、関数電卓を持っていた。
シールド・トリガーが眠っていない確率を計算し、1から引いて求めた。
計算式は1-(35C5/40C5)
値は0.5066...
ギリギリ50パーセントを越えていた。
MTGをやっていれば、
「初手で4積みのカードを握っている確率は約40パーセント」
というのを聞いたことがある人が結構居るだろう。
では、初手で、特定のカードがダブっている確率は?
2パーツのコンボパーツが初手に揃っている確率は?
概算する方法はある。
難しいものをざっくり簡単に求める方法はある。
もちろん、テストの答えとしては間違っている。
それでも使いやすい。
正確な数字が知りたいなら、自分で手計算した方がいい。
これは面倒くさがり向けの話だ。
1.期待値
期待値は計算が一番簡単な指標だ。
(積んだ枚数)×(見る枚数)÷(デッキ枚数)
これだけでいい。
四則演算が脳内で出来れば、実戦中でも使える。
横着に慣れると、事前構築でもこれしかしなくなる。(懺悔)
例えば、デッキが60枚で、初手7枚に4枚積んだカードの枚数の期待値は、
4×7÷60 = 28/60 = 0.4666...
つまり、デッキに4枚積んだカードは、平均すると初手に0.47枚引く。
ここで大事なことは、期待値≠確率であること。
ここで求めたのは引く枚数を試行回数全体で均したものだ。
期待値=n枚引く確率×n(n=1~無限)の合計
デッキに積んだカードが初手に来る確率は、ダブったり、トリプったりする確率のぶんだけ期待値より小さい確率になる。
だから、カードゲームで散らしシャッフルはイカサマなのだ。
ダブる、トリプる確率を下げるシャッフル方法は、期待値は変わらないが確率を有利な方向に操作してしまう。
「コンボパーツを8枚詰めればデッキになる」
という話を聞いたことがあるだろうか。
MTGの60枚デッキにおいて、あるパーツを8枚積んだ時に初手にある期待値は、
8×7÷60 = 0.9333...
デッキに8枚積んだカードは、平均すると初手に0.93枚引いている。
つまり初手に1枚見当あることになる。
毎回初手に引いていることになり、それはデッキだ。
……と間違った直感を抱かせるのが期待値の悪いところだ。
前述した通り、初手に来る確率は、ダブったりトリプったりする分だけ、期待値より小さくなる。
そもそも期待値が1以上になる枚数積んでも、引かないときは引かない。
ノーランドマリガンをしたことは、誰にだってあるはずだ。
2.確率
確率は、期待値に比べて難しい指標だ。
特定のカードを引いている確率を求めるだけでも、一筋縄ではいかない。
一番簡単な方法は、
(1-特定のカードを引いていない確率)
だと思う。
例えば60枚のデッキで、デッキに4枚入っているカードを引いている確率を求めるとする。
特定のカードを引いていない確率を求めて、1から引けばよい。
期待値での目分量ではなく、正確な値を知りたい。
ざっくり言うと、特定のカードを引いていない確率は
(特定の4枚以外しか引いていない組み合わせの全て/初手で引くカードの組み合わせの全て)
で求められる。
計算式は(56C7/60C7)となる。
56C7 = 56×55×54×53×52×51×50/1×2×3×4×5×6×7
60C7 = 60×59×58×57×56×55×54/1×2×3×4×5×6×7
ごめんなさい。
ここを直感的に分かりやすく表現する方法が思いつきませんでした。
分からなかったら、「はえーそういうことなんすねー」と読み飛ばして欲しい。
私もこんな計算を手でやりたくない。
だから関数電卓にブチ込んで計算する。
(56C7/60C7)= 0.6005...
引いてない確率はおよそ60%
つまり、
(1-特定のカードを引いていない確率)=40%
となる。
もう一つの求め方は、
(1枚引いている確率+2枚引いている確率+3枚引いている確率+4枚引いている確率)
となる。
ざっくり言うと、特定のカードを引いている確率は
{(1枚引いている組み合わせ+2枚引いている組み合わせ+3枚引いている組み合わせ+4枚引いている組み合わせ)/初手で引くカードの組み合わせの全て}
で求められる。
計算式は、(4C1×56C6+4C2×56C5+4C3×56C4+4C4×54C3)/60C7
関数電卓にブチ込んで計算する。
{ (4C1×56C6+4C2×56C5+4C3×56C4+4C4×54C3)/60C7 } = 0.3994...
4枚積みの特定のカードを引いている確率 = 40%
確率は、求め方によって数値が変わることがない。
変わるとしたら計算か考え方のどちらかが間違っている。
次に、デッキに8枚積んでいるパーツを引いている確率を求めてみよう。
(1-特定のカードを引いていない確率)
= 1-(52C7/60C7)
=0.653...
つまり65%だ。
例として今回は、マジックで覚えておくと得するかもしれない数値の2大巨頭を求めた。
60枚デッキに4枚積んだカードが初手にある確率=40%
60枚デッキに8枚積んだカードが初手にある確率=65%
ここで期待値で求めた値について思い出してみる。
4枚積んだカードが初手にある枚数の期待値は0.47枚だったはずだ。0.07枚どこに消えたんだよ。
8枚積んだカードが初手にある枚数の期待値は0.93枚だったはずだ。0.28枚どこに消えたんだよ。
ダブってんだよ。
3.期待値ー確率=ダブり確率
期待値と確率の差はどうして発生するのか。
初手に特定のカードを2枚引いたときについて考える。
確率では「カードを持っている」「カードを持っていない」の2つの選択肢で考えていたため、2枚持っていようが100枚持っていようが「カードを持っている」ものとしてカウントされていた。
一方期待値は、「カードを持っている枚数」をカウントして平均化したものだった。
1枚持っているハンドは1カウント。2枚持っているハンドは2カウント。
期待値だけでデッキが組めない理由がここにある。
なら、初手に4枚積んだカードがダブっている確率は?
直感的に、デッキに4枚または8枚しか積んでいないカードが3枚、4枚と初手に来ることはレアケースだと考えられないだろうか。ここでは無視してみることにする。
そうすれば初手に特定のカードがダブってる確率は、
4枚積みの場合:0.466... - 0.399... = 0.067...
8枚積みの場合:0.933... - 0.653... = 0.280...
だと推測できる。
厳密な確率を計算してみると、
4積みがダブっている確率
={1-(1枚も引いていない確率+1枚引いている確率)}
=1-{(56C7+56C6×4C1)/60C7}
=0.0632...
=6.3%
8積みがダブっている確率
={1-(1枚も引いていない確率+1枚引いている確率)}
=1-{(52C7+52C6×8C1)/60C7}
=0.2318...
=23.2%
4積みの場合は0.4%、8積みの場合は4.8%の誤差がある。
積んである枚数が少ないほど、誤差は小さくなるようだ。
個人的には8積みの場合でも十分使える範囲の誤差だと思う。
4.両方引いている確率 = 確率×確率
初手に、デッキに各8枚積んだ2枚コンボのパーツが両方揃っている確率を考えてみる。
直感的に考えて、パーツAを引いている確率×パーツBを引いている確率で求められれば、これほどありがたいことはない。とても計算が楽になる。
(デッキに8枚積んでいるパーツを引いている確率)の二乗
=0.6535...×0.6535...
=0.427...
43%だと推測できる。
では、実際に値を求めてみる。
両方引いている確率
={1-(コンボパーツ片方もしくはコンボパーツ以外だけを引いている確率×2ーコンボパーツ以外だけを引いている確率)}
=1-{(2×52C7-44C7)/60C7}
=0.4064...
=40%
3%ほどの誤差があるが、それなりに正確な値が出た。
偶然ではあるが、40%という値は4積みのカードが初手に来る確率に近い。
4積みのカードが初手に来る確率
=各8積み2パーツが両方初手に来る確率
=40%
で覚えておくと、デッキを組むとき楽になる。
5.必要な土地枚数? 期待値の出番だな!
4積み、8積みのカードが初手に来る確率を求めたあとに待っているのは、「デッキの土地枚数を何枚にするか」という問いに対する答えである。
言い換えると「このデッキは何ターン目まで連続して土地を置きたいのか」
ここでは、「4ターン目まで連続して土地を置きたい」という前提で考えてみよう。
まず、期待値ピッタリの枚数を積むことを考えてみる。
4ターン目までに、先手なら初手7枚とドロー3枚が手札に加わっている。
期待値が4枚となるには、60枚デッキでは24枚の土地が必要になる。
では、60枚中24枚の土地で、先手4ターン目まで連続して土地を置き続けられる確率は?
マリガンをおこなわない漢のMTGをする前提で考えると
山札の上10枚に土地が4枚以上ある確率
=1ー山札の上10枚に土地が3枚以下である確率
=1-{(36C10+36C9×24C1+36C8×24C2+36C7×24C3)/60C10}
=0.631...
=63%
実戦ではマリガンを行うので、土地を必要な枚数引く確率はもうちょっと高くなる。
しかしマリガンは少なければ少ない方がいいのも事実。
また、63%という値はマッチ中1回程度は土地が3枚以下でストップすることを示している。
なら(期待値+1)枚積んでみてみようか。
具体的にはデッキに30枚の土地だ。
山札の上10枚に土地が4枚以上ある確率
=1ー山札の上10枚に土地が3枚以下である確率
=1-{(30C10+30C9×30C1+30C8×30C2+30C7×30C3)/60C10}
=0.850...
=85%
これなら漢のMTGをしていても、2マッチに1回土地が止まる程度で済む。
……土地枚数、ちょっと多すぎないか?
ぶっちゃけ、現在のスタンダード構築では裏面土地を含めた枚数でこれくらいの枚数を取ってもいいとは思う。余った土地枚数の分、裏面土地をスペルとして使えばいい。理屈上はそうなる。
しかし、いつもいつもマナフラッドを受けられる環境であるとは限らない。
なんのために4連続で土地を置きたいのか?
4マナの強いスペルを唱えたいからだ。
強いカードをいっぱい使って勝ちたいからだ。
デッキに多すぎる枚数の土地を積むことは、ゲームが長引いたときにカードの枚数で損をすることになる。
さて、ここで問題がひとつある。
初手は7枚だ。
8~10枚目のカードが何であるか、見てからマリガンすることが出来ない。
マリガンの判断は、初手でのみ行える。
初手にあって一番うれしい土地の枚数が3枚であるとする。
デッキに積む土地の枚数の期待値が手札1枚あたり3/7枚であるのが、マリガン判断的には一番ありがたい枚数だと言える。
60×3/7 = 25.7...
つまり、デッキに26枚。
3ターン目まで土地が置ける見通しが立ち、呪文の枚数も十分あるハンドをキープしたいのであれば、この枚数になる。
6.実践編
期待値ベースでのコンボデッキの作り方については、以前私が書いた赤単異形化ドラゴンワンパンの記事がある。
このデッキはMTGAのBO1用のデッキであった。
MTGAのBO1はクッソ汚いイカサマ散らしシャッフルで均一化された後の初手でマリガン判断が出来るため、コンボでの悪用が可能だったのだ。
BO1で土地0ゴミハンドを押し付けられるよりはマシだろうという心遣いだったのだろうが、カードゲーマーはそういった善意を悪用するものと相場が決まっている。
それはさておき、厳密な確率を計算しなくとも、期待値ベースで考えただけでコンボデッキを作ることが出来たのは確かだ。
期待値の利点は、簡単に計算が出来て取り回しがいいことだ。
続いて、現行スタンのマナベースを期待値で概算して作ってみよう。
現在のスタンダードは、
・裏面土地
・3枚目以降でアンタップインする2色スローランド
・両面2色土地
・2枚目までアンタップインする単色ミシュラランド
(イニ影ランド? 知らない子ですね)
といったように、頭を使ってマナベースを組む価値のあるカードが揃っている。
直近のスタンダードで、私が期待値での概算を使ってマナベースを作ったデッキがこれだ。
①土地26(棘平原2を含む)
つまり、初手3枚見当だ。
②2ターン目までのアンタップインランドが16枚
色は赤10・白9・青9
先手2ターン目までのアンタップイン期待数が2.13枚であり、赤マナは1ターン目の期待数が1.17枚だ。
これはギリギリ2ターン連続でアンタップイン可能であり、かつ棘平原・火遊びを1マナのスペルとして運用することも出来る。(安定しているとまでは言えないが)
③全体的なカラーバランスは赤18・白15・青13
1ターン目にスローランドのタップインを許容する場合、先手2ターン目に白い土地が手札にある期待数が2枚。(欲しい枚数+1)枚あるため、2ターン目に安定して白が出る。また、先手3ターン目までに青い土地が手札にある期待数は1.95枚。(欲しい枚数+1)枚あるため、3ターン目に安定して青が出る。
④ダブルシンボルのカードは赤のみで、赤赤3
(錬金術師の計略は3ターン目に撃つカードじゃないので除外)
アンタップイン数を増やすために両面2色土地をフルで採用した関係で、3マナ以下のダブルシンボルはほとんど出ないマナベースになる。青、白に関しては必要なターンまでに土地枚数の期待値が(欲しい枚数+1)枚となっているため、余った両面土地で赤を5ターン目までに2つ出すことは可能だろう。
また、赤マナのシンボルが余るのであれば、1マナ除去を余ったマナで撃つことが可能になる。
シンボルに余裕があるときの両面土地は基本的に赤で置くべきだ。
白、青でダブルシンボルを必要とするカードがないため、おおむね可能だろう。
続いてアルケミーで組んだコンボデッキである、研究体シュートのマナベースについて言及する。
……初見だと「なんだこれ?!」ってなると思う。
①土地33(裏面土地11を含む)
クッソ多いな?
一応だが、カズールの憤怒はコンボパーツなので土地カウントはしない。
ダブったときには置けるが、それ以外のときで置くとだいたい負ける。
赤い土地がハンドになくとも、置かない方がいいことが多い。
ダブったカズールの憤怒だけ置くとすると、このデッキはおよそ土地30枚見当。
つまりデッキの半分が土地ということになる。
②2ターン目までのアンタップインランドが13枚
先手2ターン目までのアンタップイン期待数が1.73枚であり、1ターン目はタップインすることになるが、2ターン目のアンタップインには余裕を持った枚数のアンタップインランドが積まれていることになる。
棘平原は2ターン目にサリアを焼くためのカードだ。
③全体的な土地のカラーバランスは赤21・緑17・青17
赤はカズールの憤怒4を除くと17であり、均等マナベースとも言える。
このデッキは
2ターン目に青・赤(緑はタップインランドに出来るため最低限)
4ターン目に赤赤
フィニッシュターンに赤緑緑緑青青青
が必要なデッキだ。
……本気で言ってんのか?
とはいえフィニッシュターンまでに4マナ域のマナ加速2種のうち、どちらかを唱えていれば、青青青緑緑緑のうち2つは解消出来る。
ドローソースで山札を掘るデッキでもあり、シンボルに関しては余裕を持った運用が出来ている。
また、霊媒者でカズールの憤怒を軽くした場合、フィニッシュは赤緑緑緑青青青の7マナが必要になる。
一方、4ターン目に赤赤が必要になるデッキでもある。
赤マナがひとつぶん余るのは良くないことだ。
この歪みを解消するため、デッキに赤含みのスローランドを6枚取ることにした。
これは4ターン目までに期待数が1枚となる枚数である。
本当はもう1~2枚多い方がいい。
赤緑両面土地を1~2枚ほど赤緑スローランドに変えることも出来るが、これはあくまでブン回りをカードで否定しないための処置であり、開幕2ターンの連続タップインを起こしては元も子もない。
このデッキは赤を必要数出せる状態になったら、両面土地を青または緑で置き続けることになる。
ブン周りを否定することになるので、赤単色しか出ない土地を2枚並べることには慎重になるべきだ。
④シンボルは最大赤赤・緑緑緑・青青青
③で言及した通りである。
4マナの2マナ加速が2種あるので緑と青については余裕がある。
土地30見当+マナ加速9が入っているデッキなので、このシンボルは土地のセットの仕方さえ間違えなければ捻出可能なのである。
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