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【episode46】悲しみと怒りと苦しみが押し寄せた日

NYへ行く日と飛行機の到着時間を少年夫へメールした。
「わかった。」とだけ返信があったことで
メールを読んでいることだけはわかった。
連絡が取れにくくなって4ヶ月、LINEは未読のまま連絡が途絶えて1ヶ月。
待つだけの時間は辛い。


私はNYへ出発する前日もイベントに登壇していて笑顔の写真が残っている。
周りに悟られないように元気でいなければいけない、
そのイベントの前は特に憂鬱だったことを覚えている。
出発する日もクライアント同行の仕事をして終わってから空港へ向かった。
ストレスを軽減するようなリラックスできる漢方薬などをスーツケースに詰め込んで10日間程滞在できるよう仕事も調整していた。


この日のことは長く封印していたので、当時の日記を掘り起こしてみた。


今日はNYに来て4日目。
少しずつ悲しみが深まっていく。
気持ちの移り変わり、感情を1日目から日記に残していきたいと思う。

◆7月13日(土)晴れ
初日のことは辛すぎてなかなか筆が進まない。
LINEでの連絡が途絶えて1ヶ月。

11時着の飛行機とメールをしていたけれど、1時間待っても姿は見えないので、そのままタクシーで家に向かった。
家の近くまできてLINEが届く「何時に着くの?」と。
LINEは通じてたってこと。ただ見ないようにしてたってことなんだ。
「もうすぐ着くよ」とだけ返して、ピンポンを押す。

鍵が開き、少年夫は少しバツが悪そうに立っていた。
「何時の飛行機だったの?」
「11時着ってメールしてたよ」
「あ、そう・・・」

そして一緒にベッドルームに行って寝転がった。

「どうしたの?どうして連絡取れなかったの?
病気じゃないかと心配してたよ。大丈夫?」
と聞いても黙ったままだ。

「え?何々?好きな人でもできたー?」と
寝転んでいる状態で顔を覗き込むように冗談半分に聞いた。


私はバカなんだな。
バカ正直にウツになっているんじゃないかと
それくらい彼のことを信じていたと思う。


「うーん・・・」とバツが悪そう。

「え???そうなの???好きな人ができたってこと?」


よく状況が飲み込めない。
彼が何を言いたいのかわからなかった。

「浮気したってこと?イギリス行くんだよね?」

「う、うん・・・」

「え?浮気したの???」

「う、うん・・・」

「え?でもイギリス行くし別れるよね?」

と聞きながら体から力が抜けた。


「わからない・・・」

「わからない??」

「子どもができたかもしれないんだ・・・だから・・・」
と弱々しい声が聞こえた。

「え!?・・・だから??」

「だから、別れたい・・・」

全身から力が抜け、目の前の現実を受け止められない。


この人何を言ってるんだろう???
人間が放つ言葉なんだろうか???
そんなこと認められるんだろうか???

「ごめん、状況が飲み込めない・・・
もともとその人と別れるつもりだったんじゃないの?」

「子どものことは関係なくて、
それがなくても、あなたとはもう無理かなって・・・」

「え?じゃあ、その女性と結婚するってこと?」

「いや、それはわからない・・・」

「ん?わからないってどういうこと?」

「彼女のことも子どものことも関係なく、別れたいんだ・・・」

「いや、関係ないわけなくて関係あるよね?? 
この前まで一緒にいたじゃない。5月にも私NY来たじゃない。
2月には薔薇持って空港まで迎えに来たじゃない。
どれくらい前からなの?」

「3、4ヵ月くらい・・・」

「え? でも別れたいなら、GWに日本来た時に私に言えば良かったじゃない? だからうちの本とかを捨てたの?」

「イギリスへのビザが取れたら、日本に帰って伝えるか、イギリスに行ってから話そうと思ってた。あなたがNYに来るとは思わなかったし・・・
次に会うのはロンドンだって言ってたじゃない?」

「いやいや、そう思ってるなら自分から話をしに帰ってくるのが誠意ってもんじゃないの?連絡を断つようなやり方じゃなくて、そんなのズルいでしょ・・・」

「ごめん・・・」


彼は泣いていた。

なんでこの人泣いてるんだろう。

私は裏切られた悲しみと怒りでパニックになっていた。

そして、謝りもせず、こちらに非があるような言い方。

すごい・・・こんな裏切りってあるんだ・・・



そこから何時間話しただろうか。

ずっと彼は泣いていて、ずっとわからないと言っていた。
しかも、子どもができたと言われたのは今日のことらしい。
相手はNYで働いている日本人で、ビザ更新のため日本に帰国中。
検査薬の段階なのか、病院なのかもわからない。

そして私のことを、仕事が大事で自分のブランディングのためにNYに通っているのだろう、と責めてもきた。

「GWに帰った時、もう東京の家には住まないかなって思った・・・」

「え?あそこ、あなたの家だよね?
あなたが買いたいって言って買った家だよね?
NYと行ったり来たりして乗り切ろうって言ったから
私は家を守ってたつもりだったんだけど
NYに行く前もあんなに大変で、ようやくここまで来て
家売ってNYに来てもいいねとも話してたよね?
そんな言い方ってある?
私の20年を返してよ・・・」



そんなひどい言い草ってあるんだろうか。

「ひどすぎるでしょ…..そんな…..」

わなわなと震えることってあるんだな。
私は苦しくて涙が止まらなくなった。

「ごめん・・・」

「私とやり直したい気持ち、少しはあるんだよね?」

「わからない・・・」

「わからないってなに??」

「いや…..だって100%俺が悪いじゃん….」

と言って苦しそうに笑った。

「そうだね、友達に頭殴られるくらい100%あなたが悪いね。」

そこから少し空気が変わった。

自分が悪いことをしたことはわかっていて
申し訳ない気持ちでいっぱいで
感情がわからなくなっているらしい。

少年夫は結婚指輪をしていなかった。



そして突然、停電になったのだ。
真夏のNYで、初めてのことだった。

スタバに行ってみようということになった。閉まってた。

途中、二人で泣きながら歩いた。


ある建物の回転ドアの前で「あ、涼んだよね、ズルイ」と言ったら笑いが起きた。そして、「ほら、ここで涼めるよ」と言いながら、私が涼んでいる姿をみて、泣いていた。

何を思ったのだろうか。
緊張が解けたような気がした。
そして停電という緊急事態に少し場がほぐれた気がする。

川の方に行ってみようと歩いてみた。
その後ベンチに座っても涙が出た。

エレベーターが止まっていて、マンションの部屋まで階段を歩いてのぼらなければいけないので、励まし合いながらのぼった。

そして、家に帰っても、真っ暗な中ベッドに横になってまた泣いた。

なかなか眠れなかった。


*


初日の日記はここで終わっている。

一気に悲しみと怒りと苦しみが押し寄せた日。

「私の20年を返してよ!」と言い放った自分に
そう思っている自分に気がついた日。

サレ妻という表現は好きではないけれど
サレ妻になった日だった。



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