【episode33】二人を諦めたくないのに
ツイン君がSFへ行ってから、現地の暮らしぶりを伝えてくれるようになって
Independence Day の花火の写真を送ってくれたり
休みの日にヨセミテに行った話など
他愛のない日々の会話ができることが嬉しかった。
私もプレッシャーのかかる仕事の話や報告をしながら、マイレージのキャンセル待ちは動かず、航空券の予約をするかどうかを決めなければいけなかった。
私たちはこれまで何かを決める時、各々で全体の枠組みやスケジュールや日程を自分なりに描いてみてから、最終的に決める段階になって、これでどう?とだけ相談する。相談というより確認をする感じだ。それまでの過程や心の動きは伝えないけれど、会話は少なくても、何となくわかっていた。
「日程これでいい?キャンセル待ち動きそうにないからLA経由で予約するよ。」
「いいよ、1日2日は会社に行くけどいい?」
「もちろんいいよ。」という感じで日程も決まり、航空券を予約した。
SFで私が一人でいる時間があっても、海外暮らしが長いから大丈夫だという前提があってのことだと思う。
そして、私が毎日仕事に励んでいることをわかっているからこそ
「仕事、置いてきてね。」とツイン君に言われてトキめいていた。
「リアルに何か日本から持ってきてほしいものある?」と聞いて買いに行ったり、出発までにびっしり仕事を詰めて、体調も整えながらダイエットにも励んだ。起業して以来、不規則な生活を続けて太り気味だった私は、この時4ヶ月で8キロ痩せた。
二人きりで過ごせる時間はこれからの人生でもうないかもしれない。
二人を諦めたくない。
この想いだけが、私を突き動かしていた。
いよいよ出発まであと1週間になった日
仕事中にツイン君からメッセージが届いた。
「時間がある時に、電話で話せる?」
この日のことは、今でも鮮明に覚えている。
(めずらしい。電話なんて緊急なこと?)
ザワザワする胸騒ぎを抑えながら、仕事が終わってからSFへ電話した。
「父親が倒れて危篤状態らしい。日本に明日帰ることになったから、こちらに来る話はキャンセルしてほしい。チケット代は俺が出すから。」
「お父さん・・・ツイン君は大丈夫? チケット代はどうでもいいから。」
「帰ってみないと何とも言えない。ごめん。」
「謝らなくていいよ。お父さんのことは辛いけど、早く帰ってあげて。でも、私は諦めたくないし諦めない。日程をずらしてLAに行って向こうで待ってる。」
「え・・・」
「ツイン君は今はお父さんのことだけ考えて。」
「わかった。また連絡する。」
「わかった。気持ちをしっかりね。」
「うん。」
電話を切った後、私はしばらく呆然としていた。
こんな、ドラマや映画みたいなことが実際に起こるだろうか。
今回もまた私たちは一緒にいられないのだろうか。
やっぱり私たちは一緒に過ごすことさえ許されないのだろうか。
一緒に海辺を歩くだけでもダメなのだろうか。
夢物語で終わってしまうのだろうか。
彼のお父さんが止めにはいったのだろうか。
彼のお父さんはそれまで元気だったのに。
それでも諦めない、って間髪入れずに言った自分の発言にも驚いていた。
そして2日後にツイン君は帰国し、九州の実家へ向かうとだけ連絡が入った。