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モン・サン・ミッシェルから雨の道中で出会った塩キャラメルと蜂蜜酒の余韻

修道院の見学を終え、レストランでのひと騒動を乗り越えた僕たちは、次の目的地「Maison Pèlerin(メゾン・ペルラン)」へと向かった。しかし、本来であればこの後、モン・サン・ミッシェルから車で1時間ほどの場所にある港町サン・マロを訪れる予定だった。

モン・サン・ミッシェルの修道院からの眺め
2014年に完成した橋により、奥に見える川からの流れがせき止められず潮の流れが回復し、島周辺に堆積するようになっていた砂の蓄積が抑えられ、環境保全と景観維持の問題が解決されてとのこと

サン・マロは、その美しい城壁や海に囲まれた歴史ある街並みで知られ、ブルターニュの魅力が詰まった場所だ。

しかし、天候はますます悪化し、空はどんよりと曇り、冷たい雨が強く降り始めていた。この状況ではサン・マロをじっくり楽しむのは難しいと判断し、急遽予定を変更してメゾン・ペルランへと向かうことにした。

モン・サン・ミッシェルの駐車場を出発し、車で約10分。ワイパーを最大にしても前が見えづらいほどの雨の中、なんとか目的地へ到着。車を降りると、しっとり濡れた石畳と、店から漂う甘いキャラメルの香りが迎えてくれた。

塩キャラメルと地方の味覚を求めて

メゾン・ペルランの店内は、ブルターニュの風土を感じさせる温かみのある空間だった。入るとすぐに目に飛び込んできたのは、店内に並ぶキャラメルの数々。

看板商品の塩バターキャラメルは、フランス産の発酵バターとゲランド産の海塩、蜂蜜を贅沢に使った逸品で、とろけるような舌触りが特徴。

店の中央には試食コーナーが設置されており、並んでいるキャラメルはすべて自由に試食できる状態になっていた。カルヴァドス(リンゴのブランデー)入りや、ラム酒風味、ショコラ、ミント、そばの花の蜂蜜を使ったものまで、多彩なフレーバーが揃っており、どれを選ぶか迷うほどだった。

「こんなに自由に試食していいの?」とS氏が驚く。

「全部試してから決められるのは嬉しいね」と妻。

僕も一通り試してみたが、特にラム酒入りのものが気に入り、お土産用にいくつか購入することにした。

お酒の試飲と蜂蜜酒との出会い

キャラメルを存分に楽しんだ後、店の奥にある試飲コーナーへ。ここでは、ブルターニュ地方の名産であるシードル、蜂蜜酒(シュシェン)、そして地元産のウイスキーまで幅広く揃っていた。

「どれでもお好きなものをどうぞ」と店員が勧めてくれる。

せっかくなので、30分ほどかけてほぼ全種類を試飲することにした。最初に口にしたのは、軽やかでフルーティーなシードル。リンゴの甘酸っぱさと爽やかな発泡感が心地よく、まさにこの地方ならではの味わいだ。

続いて試したのが「シュシェン(Chouchen)」と呼ばれる蜂蜜酒だった。

ブルターニュ地方で古くから親しまれてきたこのお酒は、蜂蜜と水、酵母を使って発酵させた伝統的な醸造酒で、アルコール度数は11.5%から15%。甘美な香りと、濃厚な蜂蜜の風味が特徴で、冷やして飲むのが一般的だという。

はちみつと白い花の香りが織り混ざったような香りが特徴で、熟成したシュナン・ブランの印象もある

「これは絶対うまいぞ」とS氏。

一口飲んでみると、まろやかな口当たりと蜂蜜の自然な甘さが広がり、ほのかに感じる発酵の深みがクセになりそうだった。あまりに気に入ったので2本購入。そのうちの1本は、S氏が日本に帰国する際に空港まで送ることになっていたため、パリに住む友人へのお土産用として用意した。

試飲しているうちに、僕はお酒の特徴や感想を店員と話し始めた。すると、店員がどんどん気分を良くしてくれたのか、「これも試してみて」と次々と新しいボトルを開けてくれる。「この人、飲むのが好きなんだな」と思われたのかもしれない。

結果的に、シードル、蜂蜜酒、ウイスキーと、豊富な種類を試飲し尽くし、最終的にシードルも数本購入した。

ちなみにこれらシードルは、1月6日に自宅近くのパティスリーで購入する予定のガレット・デ・ロワと一緒に楽しむつもりで買ったものだった。新年を祝う伝統のガレットとブルターニュのシードル。

これは最高の組み合わせになりそうだ。

雨の中の帰路は慎重な運転

メゾン・ペルランを出る頃には外はますます雨脚が強まり、視界も悪くなっていた。ワイパーを最大にしても前方が霞むほどで、慎重にハンドルを握る。

フランスでは、ビールやワインならグラス一杯、ウイスキーなどの蒸留酒もグラス一杯までなら運転は違反にはならない。ただ、もちろんアルコール摂取量には気をつける必要がある。

試飲とはいえ、何種類も口にしていたので、いつも以上に注意して運転することにした。

とはいえ、正直なところ、仕事終わりに疲労困憊の状態で30分かけて自宅に戻ることが日常の僕。

夜の高速道路を走ることも日常的で、自信があるとは決して言えないが、疲労困憊の後に運転している状態よりかは、2時間の運転に関しては支障は無い。

ただ意識をしっかり集中させ、慎重に運転することに変わりは無い。

車内ではS氏がキャラメルを口に放り込みながら、「いやー、いい買い物したね」と満足げだった。息子は後部座席でぐっすり眠っている。疲れもあったが、旅の終わりにこうした美味しい思い出を持ち帰れるのは嬉しい。

19時を回り、ようやくアンジェのアパートメントホテルに到着。荷物を整理しながら、ふと買ったばかりの蜂蜜酒の瓶を眺める。

「今日は本当に充実した1日だったな」

キャラメルの甘さと蜂蜜酒の余韻を感じながら、旅の締めくくりに相応しい夜を過ごすことになりそうだ。

Chef Ichi

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chef ichi
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