「結びます〜人と人、時代と時代」 イベントスペース結水荘(ゆうみそう) オーナー 田中智美さん
海外生活から感じた、国や文化を越えた根源にある「懐かしさ」を共有したい。そんな想いを持って活躍されている、T'sネットワーク代表で神戸市垂水区の古民家イベントスペースオーナー・翻訳家の田中智美さんにお話を伺いました。
田中 智美(たなか ともみ)さん プロフィール
出身地:大阪府
活動地域:神戸市
経歴:小学校にあがる年から5年半ほど南米ベネズエラのインターナショナル・スクールに通う。中学校3年間を日本で過ごした後、高校でアメリカへ留学。神戸市外国語大学卒業。有限会社T'sネットワーク代表・翻訳家(英語・スペイン語)
"日本っていいなぁ"と思える心を育てていきたい
記者:夢やVisionを聞かせてください。
田中智美さん(以下、田中 敬称略):生まれは日本ですが、海外で生活してきて、外から日本のことを見る機会に恵まれました。その中で、他の国との比較で見れば、日本にも日本独自の「らしさ」があるのに、それを明確に意識していない日本人が多いと感じてきました。その原因の一つに、歴史が長くて、時代による変化が多かったり、地域ごとの特性があったり、「日本らしさ」って一意的に決まらないこともあるのですが、日本のことをまずは日本人が分かっていないともったいないと思いました。日本人がもっと自分の国のことをよく知って、海外の人にも良い所を伝える手助けができたらいいなという思いで、日本語・英語・スペイン語の翻訳をしています。
ただ、翻訳って、どうしても限られた人たちしか使わないので、子育てしていく中で、子ども達にも日本のことを知って欲しいという想いも膨らんできました。
大人になってから知るのでは間に合わないこともいっぱいあって、小さいうちからそれを知る場所があったらいいなぁと。それに、海外の人達に気軽に日本のことを体験してもらえる場所があったらいいなぁと思っていたところにちょうどこの建物(結水荘)に出会いました。
この建物を維持しつつ、子どもたちも大人たちも、海外の人にも、生活に根ざした所から、日本人の文化に触れる場所をつくる。日本人としてのアイデンティティを形成するには、子どものうちからそれをいいなぁ〜と思える心を育てておかないと。そんなことができる場所にしたいと思っています。
記者:どんなきっかけがあったのでしょうか?
田中:海外の教育の仕方、特にインターナショナルスクールは、それぞれの国のアイデンティティをしっかり持たせる教育をするので、行事でも「インターナショナル・デイ」といって、自分の国のことをみんなに紹介したりする場があったりします。そうすると、自然と自分の国のことを考えるし、お互い「自分の国はこんなに素敵なのよ〜」と自信を持って発信ができるんですよね。それに、自分に自信が持てると、相手のよいところも素直にいいなぁ、と思えるようになると思うのです。
それに、私は帰国子女なので、日本に帰国したら「行ってた国はこんな所で、こんな面白い所があって、こんな美味しいものがあって」というのを話すことが求められる。それがとても当たり前だったんだけれども、その当たり前だと思っていたことがけっこう日本人はできないと感じるようになりました。日本にいるとなかなかそういう機会もないし、日本人が海外に出た時に、「日本ってどういう国なの?」と聞かれた時に、ほとんどの人が答えられないのが現状なんですよね。そこがもったいないなぁと。大人になってテストに出るから的に勉強しても身につくものじゃなくて、やっぱり小さいうちから世界の中にいる日本という考え方で、いつも自分のことを振り返っておかないといけないと思います。
国や文化を越えた懐かしさの共有
記者:AI時代にどんな美しい時代を作りたいですか?
田中:漠然としていますが。地理的にとか社会情勢的に、今は昔に比べて、自分のおじいちゃんやおばあちゃんと一緒に暮らして、同じ仕事をしてっていうのは難しいかもしれません。けれども、その分いろんな人とオンラインで繋がりやすくなったでしょう。国境もなく世界中の人と瞬時に繋がれる。血縁のおじいちゃんやおばあちゃんだけじゃなくて、世界中のおじいちゃんやおばあちゃんが自分のおじいちゃんやおばあちゃんの代わりになれたらって思います。
多分、ひと昔前だったら地理的に限られたコミュニティ内の人としか繋がれなかったし、発信する範囲もごく限られてしまうから、自分のおじいちゃんやおばあちゃんにしか頼れなかったけど、今の時代だからこそ、いろんな人がいろんな人のおじいちゃんやおばあちゃんの代わりになることができるのかなぁと思っています。
「文化」というと、歴史的な建物や美術品など目に見える形のものもあれば、伝統芸能や衣食住に関わる、はっきりとした形がなく、代々、人から人へと継承されて来たものもあります。その形のないものを継承する原動力というか、根源にあるのって、懐かしさなのかなぁと思っています。その懐かしさの象徴がおじいちゃんやおばあちゃんなのかと。国や文化を越えてよその国の文化であっても、どこか懐しいっていうのがあるのは、その懐かしさはみんな共有できるからなのかもしれないと感じています。
結水荘に来てくださる外国人のお客様は、日本の文化には自分の文化にはないものがあって興味深いとおっしゃる方がほとんどですが、自分の文化にはなくても、どこか根源に理解できるところがあるから興味を持ってくださるのだと思います。茶道の所作をお教えしていても、なるほどね〜!と理解していただくことがほとんどです。
逆に日本人の私たちがフランスの田舎風な暮らしに憧れたり、北欧のシンプルなデザインを好んだり、アフリカの太鼓のリズムに心踊ったりするのも、新鮮で衝撃的!というより、共感できる、理解できる、という気持ちが強いのではないでしょうか?その気持ちって、懐かしいって気持ちと似ていませんか?地理的、時間的限界に捉われずに、その懐かしい!という思いを持った人がその文化を喜び、楽しみ、受け入れていくことで、文化はより豊かに継承されていくのかもしれません。
記者:AI時代に必要とされるニーズは何だと思いますか?
田中:AIで色々なことが便利にはなると思います。手に入る情報量も、一人の人が行える活動量も格段に増えるでしょうね。その中で必要なのは自分を見失わない力でしょうか。あと、情報を取捨選択する力。たくさんの情報の中で効率よく、不要な情報に惑わされないようにするには、自分の価値観がしっかりしていること、人間としての芯がしっかりしていることが必要だと思います。先程述べたアイデンティティも、その価値観を築く大切な要素だと思うんです。
それから、もう一つ絶対に必要なのが、柔軟性。周りに流されるのではなく、しなやかに自分を保ったまま、周りに合わせ、周りを受け入れていくこと。そういった力がないと、せっかくこれからのボーダーレス時代、もったいないですよね?せっかくいろんな世界に触れられるのに、自分自身に受け入れる器がないなんて。
AIが発達すればするほど、人間も機械のように無機質になるかと心配されていますが、もしかしたら、本当はAI時代の恩恵を存分に受けてこの時代を巧みに生き抜いて行くのは「自分」がしっかりありつつ、応用力や柔軟性に優れた「人間力」を持った人なのかもしれません。
記者:本日は貴重なお話を聞かせていただき本当にありがとうございました!
▼結水荘については、結水荘ホームページから。
【編集後記】
インタビューをさせていただいた阿部です。「結水荘」の名前の由来は「結(むすぶ)」という字は人と人の縁が結ばれる。昔と今が結ばれる。バーチャルじゃない世界で人と人が会う。「水(みず)」は垂水の「水(み)」であり、垂水には海もあるし「水」との繋がりを。さらには人との縁を大事にしたい、昔の人の思いを今に繋げたい思いが込められているそうです。英語読みすると「youあなたとmeわたし」となるなるのも、国や文化の境界線をほどいて人と人・時代と時代を結んでいく結水荘にピッタリな名前ですね。田中さんの益々のご活躍をこれからも応援しています!!
この記事は、リライズ・ニュースマガジン “美しい時代を創る人達” にも掲載されています。