6月10日(月) 事情を聴いてもらう
パジャマから着替え、レインコートを羽織り、自転車で警察署に向かう。
強めの雨の中、動揺する気持ちをどうにか冷静に保つよう。事故にあわないように気をつけなくちゃ。今は警察署に向かうことに集中して、すべらないように。つぶやきながらペダルをこいだ。
「倉田さんですか?電話をくださった。大丈夫ですよ。話を聞きます。」
電話をとってくれた警察官の女性だった。
ホッとして涙ががでた。
私の姿は濡れた犬そのものだった。
アウトドア用でない、簡単な雨をよける身幅のある、おしゃれレインコートがだらしなく肩からさがり、雨水で足首にまとわりつく。
お風呂で乾かさず無造作に束ねた髪はボサボサだった。
案内された部屋で、対面に女性刑事と男性刑事
2畳にも満たない部屋で経緯を聞いてもらった。
できるだけ、時系列でスマホので日時を確認しながら。
3月の下旬インスタグラムのダイレクトメールでコンタクトをとってきた。
私は異国の人と軽いコミュニケーションを楽しんでいた。
いずれ、LINEでコミュニケーションをとるようになり、
世界情勢の不安から暗号資産への投資を進められた。
4月上旬しつこさと交際をほのめかすこともあり
暗号資産に興味が無かったわけでもないので少額ならと思い始めた。
6月9日(日)突然の口座が凍結になり、多額の手数料を取引所から要求され、怖くなり相談したと話した。
起こったことの輪郭が徐々にクリアになり、「被害」のコントラストを強めていった。
「私は心配していることがある。このSNSのGavin(蘇 景浩)は詐欺師として、取引所(Aurorax)は本物で、私はこの手数料を払わなくてはいけないのではないかと思っている」
男性刑事「いいえ、これは取引所も含め明らかに詐欺です。もし、まともな会社であれば予告なく凍結することはないし、督促が来てから対応すればいい。日本の裁判所で正式な手順を踏んで、倉田さんに督促を送ってもらい、それが届いてから対応するで問題ない。恐らく来ない。とにかく、もう一切振り込まないでください」
大きな安堵に包まれた。
「こちらの、振り込み口座は直ぐ凍結します。」
えっそうなの。だって一般人の口座かもしれないじゃん。
もし、私の口座が突然とめられたら、混乱するけど。
私はまだ、どこが詐欺でどこが詐欺でないのか、線引きができていなかった。
というか、Gavin(蘇)も取引所も振り込み口座全部詐欺だった。
女性刑事「ところで、被害届だされますか?」
私は躊躇した。
「すみません。すこし時間をください」
「わかりました。いつでも出せますし、どちらでも警察のすることに変わりはありません。いただいた情報をもとに捜査は進めますし、口座凍結します」
時間は夜中の3時になっていた。
110番してよかった。
話を聞いてもらえてよかった。
出勤までのあと4時間、少し寝れる。
警察署の入り口に立ち、こんな大雨のなか、警察署に向かったのか。
寒さに震えながら、家路についた。