『医療の世界はギリシア語でできている…No.4:ギリシア語“λόγος”(ロゴス)由来の接尾辞“-logy”(ロジィ)と医療分野への広がり』
タイトル:『医療の世界はギリシア語でできている…No.4:ギリシア語“λόγος”(ロゴス)由来の接尾辞“-logy”(ロジィ)と医療分野への広がり』
現代の医療用語には、ギリシア語の影響が色濃く反映されています。その中でも、ギリシア語“λόγος(lógos; ロゴス)”に由来する接尾辞“-logy(ロジィ)”は、学問や研究の分野を表す言葉として、医学領域でも頻繁に用いられています。“λόγος”はもともと「言葉」や「論理」「理性」を意味し、古代ギリシアでは物事を論理的に説明し体系化する際の基盤となる概念でした。この“λόγος”の概念に基づいて造られた接尾辞“-logy”は、特定のテーマについてさらに掘り下げる学問や体系的研究を指す単語語尾を提供してくれています。本シリーズでは「語源分析」という表現によって、それぞれの医用英単語の成り立ちを語源的にできるだけ正確を期して解析すべく、それを図式化・パターン化するよう試みています。例えば一つのまとまりある接尾辞としての“-logy”というパーツも厳密に解説すれば次ぐのようになります。“-logy”という英語の接尾辞は、元はギリシア語の接尾辞-λογια(-logia;ロギア)= 語根λογ-(言葉、学問)+ 接尾辞-ια(名詞を作るための語尾)に直接由来していて、それが英単語の造語法に直入される形で、語根log-(言葉、学問)+ 接尾辞-y(名詞化の為の接尾辞、名詞を作る語尾)の如くに合理的に「語源分析」という手法で理解できることになります。とは言え、“-logy”は一つのまとまりある「学問」を意味する接尾辞として理解しておけばよいのです。
医療分野における“-logy”の展開
“biology(バイオロジィ;生物学)”は語源分析して「bi/o(生命、生物)+ -logy(学問)」→「生物の学問」→「生物学」と理解できます。“psychology(サイコロジィ;心理学)”は「psych/o(魂、心、精神) + -logy(学問)」→「心や精神の学問」→「心の理(ことわり)に関する学問」→「心理学」となります。このような一般的な学問名だけでなく、医学分野ではより専門的な分野に関する学問領域に“-logy”が用いられています。例えば:
Cardiology(心臓学)
ギリシア語の“καρδία(kardía;カルディアー:心臓)”と“-logy”から成り、「心臓の研究・学問」を意味します。現代の循環器内科に相当する分野で、心臓の疾患や機能の診断と治療に焦点を当てています。改めて語源分析してみると「cardi/o(心臓)+ -logy(学問、研究分野)」→「心臓に関する学問分野」→「心臓学」と理解できます。この分析においてギリシア語由来の“cardi/o”は「心臓」を意味する語根“cardi-”に連結母音“-o-”を付けた形で「連結形」と呼びます。ここでちょっとラテン語やギリシア語を基にした造語法において使われる専門用語について補足的な解説をしておきます。医学用語や科学用語においては、ギリシア語やラテン語からの造語がきわめて多く、その中で「連結母音」(-o-や-i-)が頻繁に使われています。特に“-o-”が最もよく用いられています。この「連結母音」なるものは単なる音声的な接続ではなく、語源的な構造の一部として理解することが重要です。ここでの例で明らかなように、“cardiology(心臓学)”という単語において、「cardi/o(心臓)+ -logy(学問)」と記述することで、「語根」の“cardi-”と「連結母音」“-o-”とを結び付けて“cardi/o”と明示することで“cardi/o”が「連結形」としてとの他の造語要素と結合できる形になっていることが理解されます。語源分析によって医用英単語を覚えるコツの一つが「連結形で覚えておく」ことなのです。<「心臓」は“cardi/o”(カルディオ)>と覚えておくことです。Neurology(神経学)
ギリシア語の“νεῦρον(neûron;ネウロン:神経)」と“-logy”の組み合わせです。語源分析すると「neur/o(神経)+ -logy(学問)」→「神経に関する学問」→「神経学」となります。脳や脊髄、末梢神経を含む神経系の構造や機能、疾患を研究する分野で、脳卒中や認知症、てんかんといった多くの疾患を対象とした学問領域を指しています。<「神経」は“neur/o”(ニューロ)>と覚えておきましょう。Dermatology(皮膚科、皮膚科学)
ギリシア語の“δέρμα(dérma;デルマ:皮膚)”に“-logy”を組み合わせた言葉です。語源分析すると「dermat/o(皮膚)+ -logy(学問)」→「「皮膚に関する学問・研究領域」→「皮膚科、皮膚科学」となります。皮膚に関する研究や治療に特化した専門分野のことです。この分野ではアトピー性皮膚炎、メラノーマや皮膚癌などの疾患の診断・治療に取り組んでいます。実はギリシア語で「皮膚」を意味する“δέρμα(デルマ)”に由来する造語要素としての連結形には上記した“dermat/o”(ダーマト)の他にもう1つ“derm/o”(ダーモ)があります。用例としては皮膚表面を詳細に観察するために用いる“dermoscopy”(ダーモスクピィ)があります。カタカナ語で「ダーモスコピー」と和訳されています。語源分析すると「derm/o(皮膚)+ -scopy(スコープを使って観察すること)」→「ダーモスコピー」となります。“-scopy”は「見る検査;スコープ(鏡や光学機器)を使って観察すること」の意を示す接尾辞として覚えておけばいいのです。Pathology(病理学)
ギリシア語の“πάθος(páthos; パトス:苦しみ、病気)”と“-logy”から構成されています。病気の原因や病理過程を研究する分野で、診断に欠かせない解剖学的知識と分析力が要求されます。ちなみに“-logy”でおわる専門領域の専門家を表す単語は、“-logy”を“-logist”に換えれば作れます。例えば“pathologist”(パソロジスト)は「病理学の専門家」→「病理学者」ということになります。念のために、“-logist”をさらに語源分析してみると「-logy(学問)+ -ist(専門家、スペシャリスト)」→「その学問領域の専門家、スペシャリスト」→「〜学者」と理解できます。<“-logy”は「学問」で“-logist”は「その学問の専門家」>と覚えましょう。
人間の知識欲と“λόγος”
“λόγος”が示す「言葉」や「論理」といった意味は、人間が未知を理解しようとする普遍的な探求心を象徴しています。医療においても、病気のメカニズムを解明し、健康を維持・向上させるための学問を体系化してきた歴史そのものが、“λόγος”の概念を反映していると言えるでしょう。
今回はギリシア語“λόγος”(言葉、論理)に由来する接尾辞“-logy”(学問)の利用範囲についての実例を見てきました。
“-logy”に引き続き次回は、医療用語に広く使われている“-path(パス)”や“-pathy(パスィー)”という接尾辞に注目し、その語源と現代医学へのつながりについて考えてみましょう。