さいとうなおきさんの炎上から感じる「絵師」への違和感とその正体
初めてnoteを書きます。
いろいろつたない部分があるとは思いますが、よろしくお願いいたします。
導入
いきなりですが、さいとうなおきさんが炎上しましたね。
動画の内容を超ざっくり要約すると「イラスト生成AIによりイラストの上手さ(技術的な部分)の価値は下がった。これからの時代は、イラストの上手さだけでは活躍するのが難しいので、自分にしかできないことを見つけよう。」といった趣旨の動画になっています。
さいとうなおきさんらしい、「プロとして生き残り続けるためにはどうしたらいいのか」という視点で熱く語られており、なかなか面白い内容だったと思います。
しかし、蓋を開けてみると大炎上という現実。
これが大炎上するのかという事実にも驚きましたが、前から疑問を抱いていた「絵師」とよばれる人たちの実態にもなんとなく理解ができたので、まとめてみようかなと思った次第です。
言わずもがなですが、このnoteは僕の勝手な意見です。納得するもしないもあなた次第とだけ書いておきます。
また、この記事では「生成AIは悪かどうか」といった不毛な議論は行いません。悪しからず。
バックグラウンド
いろいろ内容を書く前に、僕のバックグラウンドを書いておきたいと思います。
僕は今、都内の理系大学に通ってる学部4年生で、大学の研究では生成系AIに関わる研究室に所属しています(しかし筆者の研究内容は生成系AIでもないし、そもそもAIでもない)。
一般の人よりちょっとは生成系AIの理論的な部分は理解しているつもりですし、ChatGPTをはじめとする生成系AIはよく使っています(イラスト生成AIは使っていませんが)。
アルバイトでは、ソフトウェアエンジニアとして勤務をしており、普段からLLMの恩恵を受けています。
このような記載をすると、ポジショントークをするんじゃないのかと思われるかもしれませんが、そのあたりは気を付けて書きたいと思います。
肝心のイラストに関しては、趣味でお絵描きをする程度。
pixivでもまぁ100いいねついたりするかどうかって感じの、本当に趣味でやっている人間です。
さいとうなおきさんの問題点
さて、バックグラウンドが長くなりすぎてもアレなので、今回の炎上の問題点について軽く整理をしたいと思います。
生成系AIを半ば認めるような発言を行った
生成系AIのデータはいずれも望まない形で学習されているという事実に言及をしていない。
これから育つクリエーターを潰しにかかっている
まぁこんなところでしょうか。
確かに、こう並べてみるとなかなかキツイことをやってしまったのではないかと思いますね。
界隈の第一線を走っているプロがイラストレーター泣かせのAIを活用しましょうなんて言ったら、こうなるのもうなずけます。
問題点の記述はこの程度にして、次の話題に移りたいと思います。
クリエイターとはそもそも何か
いきなりですが、クリエイターとはなんでしょうか。
コトバンクによると、
創造主
創造的な仕事をしている人
とあります。
なんの変哲もないことですね。
しかしながら、重要なのは「仕事である」ということです。
創造的なことを仕事にするというのは、自分の作りたいモノを作ってお金にする。ということでは一切ありません。
ここを勘違いしている人は物凄く多いように感じます。
プロのクリエイターとは、「クライアントの要望を自らの技術力によって実現する人達のこと」なのです。
これを踏まえたうえで、次の話に行きたいと思います。
イラストレーターはプロのクリエイターである
このタイトルを見て、こいつは何当たり前のことを言っているんだと思ったかもしれません。
しかし、Xを見ているとこれを理解できていない人が多いように思えます。
それはなぜか、イラストレーターをアーティストだと勘違いしている人が多いからです。
先ほども述べた通り、クリエイターというのはクライアントの要望に沿ったモノを作るお仕事です。
決して、アーティストのように自分の世界を表現すれば金になるわけではありません。
気に入らない要望が来ても、自分の主義に合わなくてもクライアントの要望にはできる限り答える。これがクリエイターとしてのプロであり、イラストレーターだと僕は考えています。
これについては、さいとうなおきさんも似たようなことを発信なされています。
「絵師」と呼ばれる人たちへの違和感
さて、タイトル回収に入ってきました。
僕が「絵師」と呼ばれる人たちに感じる違和感について話していきます。
ずばり、その違和感の正体は「自分たちをクリエイターだと思い込んでいる」ということです。
どういうことか説明していきます。
先述の通り、クリエイターとはクライアントの要望に沿ったモノを作る仕事だといいました。
しかし、現実はどうでしょうか。
プロのクリエイターとして働けているのはごく少数であり、大半はクリエイターモドキなのです。
身もふたもない話をしてしまえば、ほとんどが素人であるということです。
そして、素人はプロの意見を理解できない(通じ合わない)という現実があります。
これについて詳しく書きたいと思います。
素人とプロは分かり合えない
先ほど、"素人はプロの意見を理解できない(通じ合わない)という現実があります。"と書きました。
これはどういうことでしょうか。
具体例として野球選手のイチロー選手を挙げてみましょう(野球知識は少ないので間違っていたらゴメンナサイ)。
彼は、プレーでのパフォーマンスを一定にするため食事やトレーニングルーティンを徹底しています。
とにかくノーストレスでプレーができるようバットの置き方にまで注意を払っていたとのことです(凄いですね)。
彼(プロ)からしたら、結果を出すためにできることは全力でやる。
彼らからしたら当たり前のことなのかもしれないですが、素人の僕にはとてもじゃないけどできないですし、理解するのにも厳しいものがあります。
そしてこれは、イラストの世界でも同じだということです。
イラストの世界は流行りの画風がコロコロ変わったり、生成AIをはじめとした脅威など、その環境は目まぐるしく変化しています。
イラストレーターとして生計を立てているプロの人間にとってはこれらの情報を常にキャッチアップし、自分の力にできないかと考えるのは至極当然のことだといえます。
だってそうじゃないといつ自分がオワコンになるかわかったもんじゃないですからね。
置かれている立場の違い
先述のように自分がいつオワコンになるかわからない状況で彼らは日々戦っています。
そうなれば、チャンスをつかめる隙が少しでもあればそれに食らいつくのは当たり前です。
そうでもしないと、自分の家族や食い扶持をどうするんだって話になりますから。
ここで今回の炎上の件に戻りますが、さいとうなおきさんを叩いていた層でイラストレーターとして生計をたてられているプロはどれくらいいるのでしょうか?
おそらく1割もいないんじゃないかと思います。
大半は中高生のお小遣いから大学生のアルバイト程度のお金しか手に入っていないと僕は踏んでいます(実際の人に聞いていないので偏見ですが)。
中には金儲けが透けて見えて、それが気に食わないなんて言っている人もいます。
いや、金稼げなかったらどうやって生きていくねんって話で、インターネットに暇があったらお絵描きを書いて承認欲求を満たそうとする素人と自分の生活がかかっているプロを比較するなってことなんですよね。
さいとうなおきさんの発言について
ここで、さいとうなおきさんの発言について考えてみましょう。
一番最初にも要約を書きましたが、話の流れをもう一度振り返ると
上手さの価値は年々減っている。これは、上手い人たちが増えているのはもちろんだが、生成AIにより一般的に上手いとされる絵が量産できるようになったから。
今までは技術で売っていた人も差別化が図りにくくなっているので、自分のアイデンティティを出せるような活動をしていく必要がある。
という内容でしたね。
今回のこの内容、"生成AIを容認しているのではないか、それをプロがやってどうする!"というところにフォーカスが当たっていますが、これは先述の素人とプロは分かり合えないの典型例だと僕は考えています。
このように、さいとうなおきさんは既に食われている側であり、自分の絵柄がいつ消費期限になるか焦っているように僕には見えます。
消費期限になって捨てられたら彼の家族は、彼自身はどうするのか。
そうならないよう、自分ならではの武器を身に着けようとアナログにもチャレンジをしています。
さいとうなおきさんに限らず、プロとして活動している人は生き残るのに必死なんですね。
そして、さいとうなおきさんの動画は見ればわかりますがその内容のほとんどが「プロのイラストレーターとして食べていけるにはどうしたらいいのか」というのをコンセプトとしています。
もちろん、彼だってAIに思うことはたくさんあるでしょう。
有象無象の金も稼いでないようなアマチュアで責任もなにもなく好きに絵を描けるような人間が指摘するところなんてないくらいにはAIの被害が出ていると思いますよ。
そして、これからの世界で生き抜くためには生成AIを使いこなしつつ、アイデンティティやある種のタレント性も持ち合わせることが重要だと彼の中で結論付けて動画にしたのだと思われます。
そんな人に対して、自分はもう崩れない位置にいるからこういった発言ができる。ただのポジショントークだみたいなことを言っている人が多いのだから不思議なものですね。
「プロ」という言葉の重み
さて、ここまで素人とプロは分かり合えないと言ってきましたが、それにしても「プロ」に対してもう少し理解やリスペクトがあるべきなんじゃないかと不思議に思うでしょう。
ですが、これができない理由があると僕は踏んでいます。
それは「イラストレーターは名乗れば誰でもプロ(モドキ)になれるから」です。
現在のイラストレーターを示すような言葉はいくつか種類がありますが、どれもプロとアマチュアがごっちゃになっています。
そんな状況では「プロ」になれることのその重み、理解できるわけがないですよね。
いきなりですが、ヒカルの碁という漫画があります。
この漫画は、若干12歳ながらにして天才棋士として名を轟かせている塔矢アキラと、平凡ながら天才棋士の霊(佐為)が宿りつき歴代最強の実力を急に持った進藤ヒカルが主軸となっている漫画です。
物語の序盤、ヒカルは碁なんてじいちゃんが打つようなものだ、真剣にやるのはバカバカしいという感じから始まります。
そこで、アキラと出会うわけですが、アキラはその時代の囲碁界トップの息子として生まれており、囲碁に命を懸ける少年として描かれています。
当然、アキラとヒカルでは囲碁に対する情熱は天と地ほど違い、ヒカルは佐為の力があればプロなんてちょっと頑張ればいける、なんて軽々しく発言してしまいます。
それに対しアキラは
ブチギレです。
まぁ当然ですよね、その時代の囲碁界トップの親から生まれているわけで普段から散っていく人を目の前で見ているわけですから。
さて、何が言いたいのかというと本来プロとはなりたくてもなれない人が多い、尊い領域なんですよね。
芸術なんて特にそのはずで、音楽はもちろんのこと美術なんて完全に才能の領域なわけです。
ですが、イラストは違います。
名乗りを挙げれば、Xでアカウントを作れば、その時点でプロ(モドキ)になれるのです。
辛酸をなめることもなく、結果を求められる弱肉強食の世界に身を置かなくてもプロになれてしまうんですよ。
そんなんじゃ、今回のように素人と一線級のプロとでは見える世界が違いすぎるのなんて言わなくてもわかりますよね。
イラスト界隈は厳密にプロの定義を決めるべきだと、僕は思っています。
それでも優しい嘘をついてほしい
先ほどまで厳しい言い方をしていましたが、昨今メンタルの問題を抱えている人は珍しくありません。
特にイラストを描いている人には、イラスト以外これといった特技もなく、学歴や年収など世間一般で評価されやすいパラメータが優れているわけでもないので自己肯定感を得るのが難しいという方が多い印象を受けます。
自己肯定感が低いと現実を直視したくないですよね、その気持ちは物凄くわかります。
さいとうなおきさんはイラストレーターとして食べていけるためのノウハウや技術を提供していますが、その内容は優しい嘘、つまり現実をあまり見せつけないようにしていることが多いようにみえます。
あわよくば自分もイラストレーターとして大成したい!そんな方にとっては物凄く耳障りのよい言葉が多いですよね。
そこで今回の爆弾投下なわけです。
まぁ炎上するのは当たり前だったかもしれません。
これはまるで、VTuberに対し疑似恋愛をしているオタクのように僕には見えてしまいます。
絶対届かない高嶺の花に少しでも触れるような体験をさせてくれる、そんな罪深いコンテンツがイラスト制作そのものなのかもしれません。
結論
さて、気が付いたら5300字程度書いていました。
最後にタイトルの回収をもうちょっと行って締めたいと思います。
結構前に絵師の違和感の正体は「自分たちをクリエイターだと思い込んでいる」と記載しました。
しかし、これは少し条件が少ないですね。
なんでかというと、Xでイラストを投稿しているような人たちはクリエイター気質というより、アーティスト気質な人が多いからです。
「自分の好きな絵でバズりたい」「好きな絵でお金が稼げるようになりたい」そういう風に見える人が多いように見えます。
そんな人にとって、徹底的にビジネスチックで結果を残すことに意識を置いているさいとうなおきさんは相性が最悪です。
僕の感じていた違和感はここにありました。
実際はアーティストになりたいのであり、そもそもクリエイターになりたくはないんじゃないかというところです。
プロに対する解像度の低さもそうですが、そもそも目指しているものが違う。
だからこそ、こんな炎上になってしまったのではないかと僕は考えています。
あ、でも生成AIのデータセット問題を最初に言及しなかったのは確かにマズイ部分ではあったと思うので、そこは反省点だと思っています。
さてさて、こんな長文をここまで読んでくださった方はいらっしゃるのでしょうか。
noteに記事を書くのは初めてなので、見にくい部分が多々あると思いますが許してヒヤシンス。
ということで、お疲れ様でした~