守護聖ゼフェルの不機嫌な理由 ~アンジェリーク③~ ✎
鋼の守護聖である俺、ゼフェルは以前育成に参加した二つの大陸を眺めていた。
エリューシオンとフェリシア。
現女王陛下とその補佐官が育てた大陸だ。
初めは女王試験に協力する事も、女王候補生の二人と関わりを持つことも嫌で仕方がなかった。
そもそも鋼の守護聖として目覚めた事自体が、俺自身に強い嫌悪感を与えていたからだ。
『こんな力なんか要らねぇ』
ずっとそう思っていた。
アイツと出会うまでは…。
「ゼフェル様、フェリシアにお力をお貸しください」
女王試験が始まってから数日後、サファイア色の瞳を持つ青い髪の女王候補生がオレの部屋に来た。
「やなこった」
「でも今のフェリシアには鋼の加護が必要なのですわ」
開口一番で拒否したが、青い髪の女王候補生は引き下がらない。
「うるせぇ!協力したくないもんはしたくねぇんだよ!」
「まぁ!職務怠慢ですわ!」
「はぁ?おめぇ誰に物言ってやがる?!」
「私の依頼は正当です。ゼフェル様は鋼の守護聖として大陸の育成の依頼を受ける責務があるはずですわ」
バンッ
突然執務室のドアが開き、ルヴァのおっさんが慌てて駆け寄ってきた。
「あ~ゼフェル、育成の依頼はちゃんと受けないと~」
「うるせぇ!やらねぇったらやらねぇよ!」
「あ~ロザリア…すいません。私から良く言い聞かせておきますから…今日のところは」
「私は諦めませんわ。今日のところはこれで帰りますけど、また伺いますから!」
ロザリアはぷぃっと不機嫌な顔をして執務室を出ていった。
「二度と来んな!」
「ゼフェル!」
俺はルヴァにこってりと絞られたのだった。
ある日、俺は全てをボイコットして公園の東屋で昼寝をしていた。
(まさかルヴァの奴も、堂々とこんな所でサボってるなんて考えもしねぇだろ)
陽射しが若干眩しいが、悪くはない。
風が気持ちいいし、何よりも木々の擦れる音が心地よい。
「ゼフェル?あ~こんな所で何をしているのですか~?」
「げ?!ルヴァ?」
「まぁ!目上の方を呼び捨てにするなんて」
何故か公園にルヴァとロザリアが一緒にいた。
「はん!女王試験放棄してデートかよ」
「ゼフェル!今日はロザリアに飛空都市の案内をしてるんですよ~」
皮肉を言えば、またルヴァが怒りだす。
「それにですね~彼女の育成は順調です。ただ…」
「ただ?なんだよ?」
「育成具合に偏りがあるのですわ…」
ロザリアの顔に影が走る。
「だから今日はルヴァ様にご相談に伺いましたの」
「ふん…そんなもん、所詮大陸にたくさん家を建てたもん勝ちだろ」
「それは…」
何か言いかけたもののロザリアは口を噤んだ。
「オスカー辺りに声かけて、どんどん家建てれば良いんじゃねぇの。アイツ女好きだから親密になれば馬鹿みたいにサクリアを貢ぐぜ、きっ…」
言葉は最後まで紡ぐ事が出来なかった。
ルヴァが俺に平手打ちを食らわせたからだ。
「ゼフェル…一度大陸の様子を見に行ってご覧なさい。貴方が女王候補生らに力を貸さなかった末路がどんなものか、その目で見てきなさい」
ルヴァの手は震えていた。
「なんだよ…」
「ロザリア、行きましょう」
ルヴァはロザリアの手を取り、公園を後にした。
俺は次の日曜日に王立研究所に向かった。
癪ではあるが、大陸の様子を見に来たのだ。
二つの大陸にはいくつかの家が建っていた。
「なんだよ…順調じゃん」
そう呟くと研究所の責任者である、龍族のパスハがため息を零した。
「そう見えますか?」
そう言って二つの大陸を指差す。
俺は大陸の様子を覗いた。
「んだよ…これ」
そこはまるで原始の時代の様だった。
「ゼフェル様、貴方の司る鋼の力が足りぬため、文明が発展しないのですよ。今はルヴァ様から与えられた知恵で上手く生活をしている様ですが、それも長くは続かないでしょう」
「俺のせいだって言うのかよ?」
「………」
沈黙は肯定だ。
「くそっ!」
俺はヤケクソになって二つの大陸に向かって力を放った。
「鋼が持つ器用さ、今二つの大陸に与える。ありがたく受け取りやがれ!」
あの日俺が与えた力で、二つの大陸には『文明』と言うものが生まれたらしい。
らしいつーのは…依頼もないのに俺のサクリアを発動させた事を光の守護聖であるジュリアスに咎められ、俺は謹慎処分を食らったからだ。
「ったく…サクリアを使わなけりゃ怒られる。使えば怒られる。不条理極まりないぜ」
謹慎処分が解けた今日、俺は久しぶりに執務室いた。
廊下を渡る靴の音が響く。
やがてドアをノックする音が部屋に響き
「ご機嫌よう」
青い髪の女王候補生が顔を覗かせた。
「ゼフェル様、今日はフェリシアに鋼の力をたくさん送って欲しいのですわ」
あの時と同じく自信満々で高飛車な物言いが癪に触る。
だが、不思議と悪い気はしなかった。
「しょーがねーな…受けてやるよ」
「有難うございます」
ロザリアは一礼をして執務室を後にしようとした。
「おい…待てよ」
「どうしましたか?」
「その…」
「はい」
「困った事があれば俺が相談に乗ってやるからよ…その…ちょっとは頼りやがれ!」
サファイア色の大きな瞳が大きく見開かれ
「有難うございます!ゼフェル様」
花が咲いたように満面の笑みを浮かべた。
「おっおぅ…」
正体のわからない感情が俺の心に生まれた瞬間だった。
ꕀ꙳
書きたいシーンまで行き着かなかった_(:3」 ∠)_
なので気まぐれ更新でしばらく続きます
よかったらお付き合いくださいませ(⁎ᴗˬᴗ⁎)