引き金 -Trigger- ✎
※新選組副長土方歳三のお話です
初めは照れくさい感じのあった洋装にもすっかり慣れた。
当たり前のように結っていた髷も落とした。
ザンギリ頭の自分の姿は、自分で言うのもなんだが…なかなか様になっていると思う。
古参の連中には頑として着物と袴を脱がない奴もいる。
だが、若い連中を中心に洋装や銃を受け入れる奴は多い。
(近藤さんが見たらなんて言いやがるだろうな…)
独りごちると俺は手を腰の辺りにやった。
服装が変わっても、腰に使い慣れた刀があるのは変わらなかった。
この刀とは一心同体、俺の分身と言っても良いだろう。
柄頭にあった手を、俺は上着の中に滑らせる。
そこには硬い鉄の塊が収められている。
拳銃と言う名の鉄の塊は、まるで他人の持ち物の様だ。
お前は知っているか?
コレを俺の物にする術を?
俺は今、その鉄の塊を手にしている。
銃口は見知らぬ男へと向けられていた。
そしてその男も、俺に向かって銃口を向けていた。
男の手は酷く震えていた。
その震えは俺に対する恐怖心なのか、不慣れな銃を手にしているせいなのかはわからない。
考えがまとまらない。
何故なら、俺は自分の手の震えを抑えるの事で精一杯だからだ。
男は「動くな!」と叫び威嚇しながら、俺から離れようともがいている。
一見俺が有利に見えるが、それは間違いだ。
目の前の男が引き金を引けば、訳のわからない高揚感を感じながら、俺を嬲り殺すだろう。
先に撃った方が勝ち。
そう頭の中ではわかっているが、俺も引き金を引かれずにいた。
パーン
爆発音が耳を劈く。
頬に熱と痛みを感じた。
俺は咄嗟に狙いを定め、引き金を引いた。
パンッ
目の前の男の体が弾けた。
俺はもう一度引き金を引いた。
気がつけば目の前には屍が横たわっていた。
俺の手にある鉄の塊は熱を帯び、燃えた火薬の匂いを発していた。
(俺が殺った…)
手の震えはもう無かった。
(あぁ…そうか)
お前はただの鉄の塊から、ようやく俺の物になったのか。
俺はゆっくりと銃に口づけを落とした。
「頼むぜ…相棒」
ꔛ𖤐
※アメブロに掲載しておりましたSSを加筆修正して再録いたしました
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