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映画と美術#19『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』オリエンタリズムに染まる
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▷キーワード:ポール・ゴーギャン、ポスト印象派
ゴーギャンがゴッホと共同生活し、その中で決別。最終的にゴッホが耳を切り落とした事件は有名である。ゴーギャンはマルティニーク島やタヒチでインスピレーションを受けていることから、てっきり身分の差による軋轢が原因かと思っていたのだが、実はゴーギャンも貧困で苦しんでいた。
確かにポール・ゴーギャンは株式仲介人の実業家として成功したものの、文明病を拒むように画家へ転向した。ゴッホが死後に評価が高まったのと同様にゴーギャンもまた死後に評価され、生前は貧困に苦しんだとのこと。
ではタヒチでの生活はどうだったのか?
『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』を観ると、彼の心理的な側面がわかるであろう。アンドリュー・グレアム=ディクソン「世界の美術」によれば、ゴーギャンは裕福な生活から拒絶するように画家になったように読み取れる説明がなされているが、実際にはパリ株式市場が恐慌に陥ったことがゴーギャンの人生を変えることとなる。株式だけでなく、絵画の価値も下落する中、仲間からタヒチへの逃亡を勧められる。金やはるか遠くの地へ移ることへの不安を抱えつつ、ゴーギャンはタヒチへと身を潜める。
美しくプリミティブな生活なタヒチ。そこで現地人と親密な関係となりミューズのような存在となる。彼の作品がゴリゴリのオリエンタリズムに支配されていることが暴かれていく。異国情緒のロマンの花を自らに宿しながらも、金が底を尽き、女はもちろん、雑貨屋の男からも蔑視の眼差しを向けられ、内なる闇と対峙せざる得なくなってくるのだ。
映画はタヒチのアトリエと自然を往復する中でゴーギャンの心象世界を表現していく。
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実際に彼がタヒチ時代に描いた「マナオ・トゥ・パパウ(死霊は見守る、死霊が見ている)」を鑑賞してみると、タヒチのマジック・リアリズム的な側面を捉えつつ、死の香りが漂う作風となっている。左側に映るフードを被った女性の不気味さ、死霊が時を待っているかのような眼差しと、その空間に漂う不穏さが凝縮された作品となっているのである。
『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』Gauguin - Voyage de Tahiti(2017)
製作国:フランス
上映時間:102分
監督:エドゥアルド・デルック
出演:ヴァンサン・カッセル、マリック・ジディ、ツイー・アダムス etc
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