【考察】スペース・カウボーイこそが最強のSTAY HOME MOVIEだ!
こんにちは、チェ・ブンブンです。
コロナ禍によって映画業界、テレビ業界はロケが行えず知恵を絞りながら映像制作している状況が続いています。
『カメラを止めるな!』の上田慎一郎がリモートワークで映画制作することの難しさと奥深さをコメディにした『カメラを止めるな!リモート大作戦!』を発表したことを皮切りに、『よこがお』の深田晃司や『花に嵐』の岩切一空といったインディーズ監督が在宅映画制作を行い、youtubeで作品発表をしています。
そんな中、異次元から映画シリーズを発表し続けるアーティストが現れました。その名も(株)おくりバント社長 高山洋平(@takayamayohei1)だ。
(株)おくりバントの会社紹介のページをみると次のようにPRされています。
2014年設立。「得点圏まであなたを」を企業理念に掲げ、各種PR企画・PRコンサル・デザイン・CM・MV作成・楽曲制作、ライティングなどのクリエイティブ全般を得意とする広告製作会社。ナナメ上からの戦略的アプローチを行い、企業価値を高めることを目標としている。代表の高山はPCの使い方には疎いが営業力には定評があり、多数の企業・大学にてセミナー講師を務める。デザイン担当・役員の宮路は独特のクリエイティブ技術やセンスにより国内外問わず多数のファンを抱える。
【デザイン】水曜日のカンパネラ / ワンマンライブ「鬼ヶ島の逆襲」ポスター、アドウェイズ岡村陽久の「勝手にしやがれ」ポスター、「映画秘宝EX 究極決定版 映画秘宝オールタイム・ベスト10」表紙 など
そうです、映画秘宝民のある種の聖書とも言える『映画秘宝EX 究極決定版 映画秘宝オールタイム・ベスト10』の表紙を手がけているのです。
そんな会社の代表取締役社長である高山洋平が数週間前から《スペース・カウボーイ》たる短編シリーズを発表し、密かにカルト的ブームを巻き起こしています。そんな本作を1話目から追っているのですが、クリント・イーストウッドの『スペース カウボーイ』みたいな胸熱お仕事映画ではなく、デヴィッド・リンチ作品みたいだと称されるのも納得シュールで中毒性の高い代物でありました。
しかしながら、このシリーズは意図的なのか感性による奇跡なのか、非常に戦略的な傑作に仕上がっており、在宅映画の中でもトップクラスのクオリティを持っていると言えます。それこそシリーズものの肝をガッツリ掴んで離さないのです。
例えば、第1話では既に型が完成されており、観賞意欲を刺激する中毒性の高い音楽を軸としたオープニングで幕を開け、高山洋平が演じる異様なオーラを放った主人公スペース・カウボーイと、狂言回しと言えるハルちゃん(当然ながら『2001年宇宙の旅』のHAL 9000のオマージュ)を中心に、宇宙船に見立てた一室でのシュールな会話劇が展開される。映画全編に渡ってトランスミュージックが漂い、時折ブザーがなる。スペース・カウボーイはヘッドホンをし、謎のメガネをかけるのだが、その必要性はあるのだろうか?と観客に疑問を抱かせる奇怪な行動の元物語は進行していくのです。
こうした謎展開を何話か積み重ねていく。《点》の物語の面白さを定期的にアップし続け、カルト的人気を集めたところで、宇宙海賊を登場させることで《線》の物語を紡いでいく。
週刊少年ジャンプの漫画で言えば、『家庭教師ヒットマンREBORN!』に近いアプローチで物語を展開していく。非常に博打な企画、『スペース・カウボーイ』が序盤で打ち切りになってもファンをガッカリさせない作風になっており、流石は広告会社だなと舌鼓を打つのです。
さらには、新作に対するファンからのコメントには積極的に返信していくアグレッシブさ、映画と観客が対話する空間をTwitterで作り上げているところもあり、すっかり『スペース・カウボーイ』のファン、《NO SPACE COWBOY, NOLIFE》な人となりました。
さてここで、全作のレビューを書いて行こうと思います。
尚、回によってはネタバレになっているので要注意。
第1話
第1話では上記のようにシリーズとしての型が形成されている。そして、リモート映画らしく、ビデオチャットでの会話劇が中心となっている。地球では病気が流行ってしまい、ラーメン二郎はテイクアウトしかやっていないことを知るスペース・カウボーイ。しかし、テイクアウトメニュー《鍋二郎》に魅力を感じ1光年先にある故郷・地球を目指す。
それにしても、スペース・カウボーイから漂うハーモニー・コリン感、それも『The Beach Bum』感は強烈で第1話にしてカルト映画の座に座れる程の存在感を放っていますね。
第2話
電話をしていたら、ハルちゃんから告げられるオーバーヒートの知らせ。化石のように黄ばんだマニュアルを読んでいるうちに目的を見失い、脱線する様子を描いている。
『スペース・カウボーイ』の中では一番きつい作品であり、『スペース・カウボーイ』という世界線で描く意味を見出しづらい作品ではあるが、システムエンジニアとして働く自分にとってマニュアルがいかに問題解決から脱線させてしまいがちな代物かを風刺しているところに共感するところがあった。
第3話
苦手な人とのオンライン会議の地獄を描いた傑作。人の名前を覚えるのが苦手なスペース・カウボーイは柳澤さんの名前を小笠原さんだと言い、説教を食らう。なんとかして名前を思い出そうとするが、思い出せず、「お疲れ様です」っぽく「小笠原さん」と言うのだが、それもバレてしまう。
結局、名前を思い出したのはオンライン会議後だった。
人の名前を覚えられない人あるあるを風刺した大傑作。
これぞ、高山洋平によるの『君の名は。』だ!
第4話
宇宙語を使ったビジネス様子を描いた作品。世界にある言語も、どこかしらで類似があるように、音をベースとした会話では謎の言語での会話が空耳補完され、観賞者に独特の面白さを与えている。
~tin japonicaって多分、「日本のビジネスマンです。」的なことを言っているんだろうな。
第5話
お酒の残骸に囲まれたコックピットを掃除するだけのミニマムな回。掃除をしているだけなのにこれだけ面白いのは、シャンタル・アケルマンの『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』を想わずにはいられない。
何もすることがなくなると、怠の象徴のようなスペース・カウボーイだってついつい掃除してしまう人間の真理を描いた作品と言えよう。
↑『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』は大傑作なので、みんな観てね!
第6話
これまたジャガイモを剥いているだけで面白い『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』に匹敵するミニマリズムな傑作です。
コロナ禍における抑圧の中、カリーを食う自由を死守しようとする男の日常が熱い!激しいカット割りは、自由を奪う者を蹴散らす迫力がある。
それにしても高山洋平は、STAY HOMEでできることを何でもユニークに作品へ変換しているところが本当に面白い。
第7話
大傑作。リモートワークになり、プライベートが仕事に侵食されてくると被害報告が相次ぐ今に対して、できないものはできない。休むときは休むとはっきり提示するコロナ時代のプライベートゾーン確保の流儀をスマートに教えてくれる。
インスタグラムサイズ、正方形にスペース・カウボーイの体を収めることで、STAY HOMEの立派な肖像画が爆誕しました。
第8話
買い溜めはよくないと昨今言われている中、例え買い溜めしていても在庫は底をついてしまうこの世の有限性について指摘した作品。
7000カートンもあったタバコは底を尽き、絶望にくれるものの、シケモクから小さな喜びを見つけていく。絶望から希望を作り出す方法について静かに教えてくれる作品と言える。
第9話
『ツイン・ピークス The Return』が第8話を起点に停滞していたドラマが動き出したように本作も動き出す。大きな転換点だ。画面は、閉塞感を表すように正方形、インスタグラムサイズで展開され、字幕がつくようになる。そして宇宙暴走族の襲来によりスペース・カウボーイは絶体絶命の危機となる。
《点》のギャグシリーズ『スペース・カウボーイ』が《線》になろうとしている。そのタイミングと演出が鋭い重要作品である。
第10話
スペース・カウボーイと宇宙暴走族との戦いを数万km彼方から観察し、スペース・カウボーイのナレーションでことの顛末が描かれる回。コックピットの中だけの話でありながら、カメラは宇宙規模のマクロな視点で描かれる複雑な画面構造の中、ラーメン二郎が世界を救う瞬間を捉えた感動作となっている。
第11話
『クルーレス』さながら次々と服をチェンジしていくスペース・カウボーイのとある一日を追った回。パリコレもびっくりなコロナビールシャツにリプトンやJA、キリンビールのキャップを被っていく前衛的なファッション。
「ハルちゃんどう?」
という言葉に対し、
「カッコイイ」
としか言わない虚無から、AIでもいいから褒められたい現代人の闇を風刺する。尚、ただ「カッコいい」と言い主人を喜ばせているだけだと思われたハルちゃんが最後に言う「カッ、、、大丈夫です」はシリーズ屈指の爆笑ポイントである。
第12話
『情熱大陸』へ出演することを夢見て、サインの練習をしたり、コメントの練習がてら一人芝居をする回。ハルちゃんの声の変化には気付けても、自分の異常さ、明らかに『情熱大陸』へ出られない自分の未熟さに気付けない様子から、生のコミュニケーション不足により自分の世界が絶対だと信じてしまいそうになる人間の心理を皮肉っている。
井の中の蛙を象徴した作品です。
第13話
本作は、ここまでシリーズを追ってきたファンが無意識に望んでいた《あのテーマで盛り上がる》を提供してくれる回だ。国内外の音楽アーティストは無観客ライブをやったり、オンラインでバイブスをぶち上げる空間づくりに励んでいる。
中野heavysick ZEROでのオンラインクラブにトランスしていき、遂に踊りだすスペース・カウボーイの高揚感はギャスパー・ノエの『CLIMAX/クライマックス』を彷彿させます。
ただ、最後に、ボソッとリアルのクラブへの羨望を抱く。なんでもオンラインになる時代であるが、リアルの良さはリアルにしかないことを訴えかけている。
ブンブンも、映画館や音楽フェスへ行きたくなってきました。
第14話
宇宙の彼方にいながら地球の流行を果敢に取り入れることで、シリーズものの強みである社会と積極的に関わっていく要素を世界観に搭載していく。しかしながら、どうぶつの森をやったことがある人なら分かるが1株119をなりゆきで300買うのはクレイジーすぎだ。そこからもスペース・カウボーイの豪傑さが伺えます。
第15話
『2001年宇宙の旅』を始め、宇宙船生活を舞台にした作品は健康不足を解消する為に運動するシーンがある。そんなSFあるあるにスペース・カウボーイが挑戦する。過酷なトレーニングと、食への欲望をトレーナーによる言葉の圧で粉砕していく様子がコミカルに描かれている。
見ているだけでその過酷な訓練が分かる。スポ根映画さながらの熱いトレーニングに観ている側もカロリーが消費できそうな逸品に仕上がっている。
第16話
長編映画における孤独描写を、短編シリーズでフル尺使って描いた作品。地球が恋しいスペース・カウボーイが酔い潰れながら過去を語る。何もない作品かと思わせておいて、《メルヘンランド》が重要なキーワードとなってくるので侮れません。
第17話
シリーズ重要作にして、実は最終回の直接的な伏線回。在庫の棚卸をするスペース・カウボーイ。米粒と思われる代物を数える、20,034粒数えたところでブザーがなり、段々とサイケデリックな渦が彼を取り囲む。スペース・カウボーイは永遠と粒を数える地獄に今いることを知らない。我々は、永遠に閉じ込められた彼の行く末を指咥えて待つしかないのだ。まさか、これが最終回の感動へ繋がっているとは思いもよりませんでした。
尚、この回は大変重要な為、事前に告知が行われていました。
第18話
通常、宇宙船というとロシア語や英語が公用語のように見えるがスペース・カウボーイのレンタル宇宙船はギリシャ語が公用語らしく、船のメンテナンス時には"Παρακαλώ(パラカロ)"と言わないといけないマニアが疼く要素を盛り込んだ作品。
SF映画の萌え要素である、メンテナンスシーンだけを集めることでSF映画とは何かを考察するゴダールもあまり手をつけていない映像哲学を魅せてくれます。
尚、"Παρακαλώ(パラカロ)"とはギリシャ語で「お願いします」という意味です。
P.S.『真夜中のカーボーイ』の邦題が都会感を出すために《COWBOY》ではなく、《CAR-BOY》にしたそうだが、スケボーで宇宙を飛び回るスペース・カウボーイは《COWBOY》なんだろうか?それとも《CAR-BOY》なんだろうか?
第19話
宇宙をテーマにしたSF映画にとって最も緊張する場面は、船外メンテナンスだ。ブンブン調べによると、宇宙船の外に人が出ると99%の確率で大惨事に見舞われます。しかし、ここはスペース・カウボーイ。自分の船を愛しているので、華麗に宇宙船の外側で遊びまくる。そこへ例のブザーがなることで、絶妙な緊迫感が生まれる。宇宙船外というニッチな側面にユーモアを見出した傑作である。
第20話
もうすぐ、スペース・カウボーイは地球へ着く。オデュッセウスはトロイア戦争勝利からの凱旋に10年の歳月を要したが、スペース・カウボーイも長い長い旅の終焉を迎えつつある。ここに来て伏線が回収される。第11話で紛失したあのメガネが発掘される。そして第5話のお掃除回をリメイクしていく。まるで『ツイン・ピークス』がラスト数話で急激に一つの方向に爆走していくようにスペース・カウボーイも地球を目指す。今までこのシリーズを追って来た者にとっては寂しさやカタルシスが全身を覆い泣けてくる。そうです、本作はシリーズ屈指の感動作だ。
最終回
"さみしいです"
感傷的な最終回は、我々は長い間スペース・カウボーイと共に旅をしてきた。しかし、映画の世界は我々観客にとってフレームの内側で起こったことしか把握できない。どんなにその世界観が好きでも、現実に進出することはできない。スペース・カウボーイは傑作だろうが駄作だろうが映画の中でしか生存できない。高山洋平社長は映画の外側に出られても、スペース・カウボーイやハルちゃん、宇宙暴走族は映画の中でしか生きられないのだ。
それを円環構造に閉じ込めることで、宇宙という広大な世界に漂う切なさが木霊し、涙が出てくる。
ジャック・リヴェットの『セリーヌとジュリーは舟でゆく』や『ツイン・ピークス The Return』が大好きな私にとって最高のクライマックスでした。
ありがとう。
Ευχαριστώ πάρα πολύ.
そして、さようなら!
Αντίο!
最後に
何かに取り憑かれたようにここ数週間、スペース・カウボーイを楽しませていただきました。素晴らしいセンスに毎回感動しっぱなしでした。そして、当記事は、SELECKさんのnoteで紹介されました。企業系noteから初めて引用されて個人的に嬉しかったです。
(続編、ちょっと期待しています笑)
【お詫び】
てっきり、高山洋平が監督していると思っていたのですが、それは誤りとのことです。お詫び申し上げます。
【続編:ファイヤーラード】
続編『ファイヤーラード』も評を書きました!よかったら読んでね!