幻のような、あの夏の数日間
視界を遮ることのない透明なブルーの空、
肺に飛び込む澄んだ森の匂い、
灼熱の陽射しが降り注ぐ田んぼ道、
井戸水で冷やした採れたての西瓜。
私は幼い頃、夏休みを新潟の親戚宅で過ごしていた。夏の田舎町に流れる時間は東京のそれより遥かに穏やかで、確かに美しかった。
早朝、まだ朝靄の濃く掛かった山を背に私は大きく息を吸った。朝の匂いと湿度を全身で浴び、驚く程の寧静に包み込まれる。
日中、雪解け水が育んだ透明な川で水遊びを堪能する。大きな浮き輪に掴まって、私は広い空を仰ぐ。
夜、静寂で包まれた畦道に寝転がり夜空を見上げた。溢れんばかりの星と、真っ直ぐ私に降り注ぐ流れ星を前に、願い事が底を尽くという不思議な体験をした。
小学生の私にとって新潟で過ごした夏の数日間は、永遠のように長い冒険であったし、幻のように儚い夢のようでもあった。
大人になった私は今でもずっと恋焦がれている、新潟で過ごした幻のようなあの夏の数日間を。