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ボン・ジョヴィを聞くと思いだす、おじいさん その①
10年前の前の会社の話です。
山の中にある住宅街。
1本道の奥にあるお客さんのガス交換が終わり、Uターンをして住宅街を抜けようとしたら、1番手前の家のおじいさんに呼び止められた。
聞けば、この住宅街の道はおじいさんちの私有地との事。
今後は、コンクリートを痛めるからガスを積んだトラックは入ってくるなと叱られました。
ので、仕方なく、次回からは住宅街の手前にトラックを停め、坂道を汗だくになりながら、プロパンガスを台車に乗せてゴロゴロと登っていた。
3か月ぐらい経ったら、お客さんに、「なんであんな所に停めてやってんの?」と聞かれたので事情を説明したら、「あぁ…別にこの道は、ここに住んでいる20世帯みんなの私有地だから、次からはトラックで来ていいよ」と説明された。
ちぇ……なんだよあのじいさん……。無駄な労働させられたよ……。
1か月後、奥のお客さん家までトラックで行き、ガス交換が終わった帰り道に例のおじいさんに呼び止められ、「コラァー!!」叱られた。
「ここはみんなの私有地だそうです」と、ちょっと得意げに説明した。
なのにおじいさん、「そんな事はない!! 俺の土地だ!!」と言ってきた。
その事を会社に相談し、当時の営業所長とか巻き込み、他の住人とかにも相談し、あーじゃないこーじゃないがあり……うんにゃらまんにゃら、あって、結論を言うと、
『そのおじいさんを無視して良い』と会議で決まりました。
会社公認の『シカトしも構わないおじいさん』が誕生しました。
—――シカト第1回目―――
配送が終わり、おじいさんの家をすり抜けようとしたら、「おいっ!!コラァー!」と怒鳴られた時、つい反射的に顔を向けてしまい、目が合ってしまった。
その瞬間しまったぁ!! と思った。
街中でティッシュ配っている人とか、キャッチセールスをしている人ならば無視も出来るが、会社のトラックに乗って制服を着ている心が仕事モードの時は、無視という非人情的な態度が出来なかった。
おじいさんは僕の顔面に『罵りとツバ』をいっぱい浴びせ、居間の茶ダンスの上にあった鳩サブレ―の缶を引っ張り出してきて、その中にあった土地の権利書を見させてきました。
何が書いてあったはあまり覚えていないです。
ずっとその缶の中身の通帳やら実印とかに目が行ってしまいました。
この鳩サブレ―の缶の中身は、この家の全ての大事な物が入っているらしい。
それが気になって、気になって……。
—――シカト第2回目―――
母が他界した。
告別式から何から何まで済ませて、最初の仕事の日。
あまり親孝行できなかったなぁ……。
トラックを走らせて、おじいさんの家の横を通る。
(あっ…そうそう、母は普通に今も生きてます。元気ビンビンです)
『身内が死んでシリアスなモード』で通り過ぎてみようかと……。
おじいさんが怒鳴っている。
母も病気さえしなければ、今頃ああやって元気にしていただろうなぁ……。
僕は涙目でおじいさんを見つめながら、うんうんと頷いて、通り過ぎた。
孫の顔、みせてやりたかったなぁ……。
僕は次の現場まで、トラックを走らせた。
赤身がかった夕焼けに向かって……。
ってどうよ!!
上手くいったんじゃない!!
ヨシッ! やったぁ! なんかつかめたかも!!
ちなみに先日、皆でご飯を食べていたら下の娘が飲み物をぶっから返し、母の上着にかかってしまいました。
あんまし怒らないでくれた。
普通に孫の顔を見ています。
生きてます、母。
続く。