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2-2 下僕、馬上で意地悪される 小説「女主人と下僕」~敗戦奴隷に堕ちた若者の出世艶譚~
マーヤはディミトリが座る鞍の前に載せられ、片腕でディミトリに抱かれている。
ディミトリはもう片腕で手綱を握って、マーヤが落ちないよう安全な速度で、馬をゆるゆる進ませていた。
「あの!ちゃんと抱き寄せて下さいませ!」
「いやその、こんな敗戦奴隷の首輪をつけた男があまり馴れ馴れしくして...もし変な噂にでもなったら...」
「ああそうですか。そんな支え方でわたくしが落馬して大怪我してもどうでもよろしいと仰るんですね?わたくし、本当に運動神経が悪いので、とっても怖いんですけど?」
マーヤは、こどもっぽい大きなおでこと丸顔であるし、上品な長い黒髪、垂れ目気味の黒目勝ちの瞳といい、どこからどう見ても男に歯向かわなさそうな非常に柔らかい見た目だが、そんな柔らかい見た目から繰り出されるキツイ態度には変な破壊力があった。
「いやその、申し訳ないッ」
焦ってディミトリが抱き寄せるがやはりおっかなびっくりでやや心もとない。
ようするに、マーヤはいじけていた。
「ディミトリに嫌われた、脈がない」と信じ込んでしまって、ふだんの、マーヤ特有の、歳若いくせにどこか母性的な、包み込むようなやさしさが消えてしまい、奥底に隠している、きつい気性の部分ばかりが悪い感じに前面に出てきて、自分でも嫌だと思いながらもつい嫌な態度を取ってしまっているのだ。
するとディミトリも、今までにないマーヤの態度におっかなびっくりになって、ふたりのあいだに、へんな緊張が走っているのだった。
「もっとしっかり!思いっきり、抱、い、て、下さいませ」
険のある口調のくせに、マーヤは妙に積極的にディミトリの腕を自分の腕で絡めるように鷲掴みにしてぐいと自分の身体に巻きつけた。しっとりと白いマーヤの腕がディミトリの腕をぴったりと絡まってきて、マーヤのひんやりとした小さな掌が、細い滑らかな指が、ディミトリの肘を、太い腕を、しっかりと掴んで離さない。
その結果、ディミトリは、マーヤのどこもかしこもぷよんぷよんにやたら柔らかい肉質の身体を手綱を持ってない方の片腕でガッチリ抱きすくめさせられる事になり、乳房のふくらみが自分の腕にやや当たっている感触まで感じたので、ますます動揺したが、マーヤは気にせず更にぐいぐいやった。するとディミトリの大きな掌もマーヤのあばらだけでなくたゆんたゆんのふくらみの横側をやや触ってしまっているような状況になってディミトリはうろたえにうろたえた。
「ひ、失礼!」
「あの、本当にちゃんと支えてくださる気、あります?」
ディミトリは声も出なくなって、緊張を悟られぬよう上を向いて必死で息を殺して、揺れるたびに掌に伝わるマーヤのやたらと全身ぷよんぷよんに柔らかい身体の感触にうろたえていた。
一生触れることも出来ないはずの、高貴のひとの身体。
だが前方を向いて抱かれているマーヤにとっては、そんな脇のちょっとしたぷよぷよごときは、そんなもの乳房ではなく胴体ですっ、程度の認識なので、何の気にもせず、アンニュイな表情で馬上からのいつもとは違う景色を遠い目で見ていた。
むしろマーヤは、ディミトリの腕の熱さ、筋肉質な固い感触、胴体に回されたディミトリの腕の、身体の芯にまで伝わるような熱いほどの温かさにひたすら心打たれていた。
(温かいわ...これが私がずっと大好きな殿方の腕...でもこの腕は本当は私なんぞではなく、いつか誰か他の方を抱く腕なのよ...こうやって抱かれるのは今日のいまが一生で最初で最後ね...)
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マヨコンヌの官能小説『女主人と下僕』
昔々ロシアっぽい架空の国=ゾシア帝国の混血羊飼い少年=ディミトリは徴兵されすぐ敵の捕虜となりフランスっぽい架空の敵国=ランスで敗戦奴隷に堕…
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