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8-4 真面目そうな女性と致す時に一番大切な男の心構えとは 小説◆女主人と下僕




(そういえば…!!)

極度の興奮の中でありながらも、ディミトリは昨晩のザレン爺の言葉を思い出していた。

ーーーーー

昨晩。薄暗いランプの灯りだけのザレン爺の書斎。

「ディミトリよ。きっと、マーヤは、相当に、上手い」

「フアッ!ザレン様、またまた非礼な事を…そもそもあの方はその、床上手もなにもホンマモンの処女…だと仰ってましたよ?」

「処女なのは解っとるよ?処女なのは…なんとなく…爺になると…気配で解る。だがな。あれの、うまい、へた、は、経験人数じゃない、ひたすらセンスだ。あいつはきっと…処女だろうが何だろうがとてつもない」

「だとしてもですよ?ザレン様は何をもってマーヤ様がそのう、床上手と決めつけるんですか!いいがかりもたいがいになさいませ」

「動物」

「はあ?」

「あの子は犬猫を慣らすのが異常に上手かろう?この館の猫どもも、マーヤを見るとすっ飛んできてマーヤの足下だけにまとわりつく。犬も、馬も。下手するとこの窓からなァ、小鳥どもまでがマーヤめがけて寄ってくるんだぞ?パン屑を貰いにな」

「はぁ…だから何なんすか」

「つまりマーヤは、言語外コミニュケーションの名手であり、自分と違う身体の構造を持つ相手の気持ちを汲む力に異常に長けている」

ザレン爺は無駄に嬉し気に脂っこい濃い顔をにやにやとほころばせて葉巻の煙をふうーーーっと吐いて続けた。

「動物を触って喜ばせる行為とは、床で男の一挙一動をよく確認しながら、自分と違う身体をもつ男なるものの快感を丁寧に丁寧に見つけ出して増幅させる事と原則的にはほぼ同じ作業だ。だから、賭けてもいい。絶対、あいつは、とんでもなく、上手い」

「はぁ…」

「しかもあの子は文学少女だろう?古今東西の恋愛文学にも通じているという事は…つまるところ…古今東西のあらゆる性的なやり取り…もっと言えばベッドでの言葉責めのツボやらを聞き齧ってるようなものだ…相当、やらしい、はずだ」

「いやいやいやいやまさかっ。てゆうか爺様!それな!全国の文学少女に失礼っす!!ちょっ、全国の文学少女に謝りなさいよ!! 」

ディミトリの文句を無視してザレンは続けた。

「そこでだ。お前に大切な注意点を授ける」

「え、これ、注意点が出る流れっすか?」

「マーヤが本気になってお前に抱かれようとすると…ちょいちょい、まるで手練れの高級○婦のような、とても処女とは思えない、とてつもない技巧の、極めて大胆な大技を仕掛けてくる事があるだろう」

「え、え、えっ…?まさかぁ!だから爺様、言っていいことと悪い事が」

「そうするとお前みたいな若い男はな、大体、びびる。喜ぶどころか、ものすごく、びびる」

「は、はぁ」

「びびりにびびって、『処女だというのは嘘なんじゃないか』とか『一体この技は俺以外のどんな男に教えてもらったんだ』とか、情けない事を疑心暗鬼に疑いひたすらに劣等感を感じ始める。時には『この女、非処女に違いない、俺を騙したな』といきなりいきり立つ奴まで居る。だがな…違うんだよ。マーヤは誰に教えて貰ったわけでもなく、本当に恋愛小説を聞きかじってなんとなくマネしただけでそれが出来るタイプの勘のいい女なんだ」

「…」

「なのにお前がたとえ冗談のつもりでも不安げな顔で半笑いで『こんな技、一体どんな男に習ったんですかい』とか『なんだか娼〇みたいな技ですねえ、変な店で働いたことでもあるんですかい』なんて一言でも言ってみろ、マーヤはびっくり仰天して深く深く傷ついて、今後一生、その、すばらしやらしえげつない素敵な大技を永久に封印してしまうぞ!」

「いやもう爺様ホント勘弁してくださいよ、そんなフカシは止めて下さいよ」

「いいから聞けって。だからな、とんでもなくいやらしい想定外の大技を仕掛けられても、絶対に冗談でも純潔を疑うような言葉は禁句だぞ?いらん疑いをかけるのは止めるのだ。心を無にしてひたすら大喜びで全身全霊でマヌケ面晒して大声で喘ぎまくれ!それがいい男の努めだ、解ったか」

「…」(アホだこの爺さん…)

ディミトリは頭を抱えて言葉を失った。

「…そして!そしてもし!もしもお前が!!」

「なんですかこの話まだ続くんですかい!」

「お前がもし、マーヤがちょいちょい仕掛けてくる大技を!!決して否定せず!1ミリも引かず!貞節を疑うそぶりなど見せず!ひたすら大喜びで素直に男だてらにあえぎまくって全身全霊で喜びを表現し、あいつがいんらんな姿を見せれば見せるほどにくり返し褒めちぎれば!」

ザレン爺はついに書き物机の椅子から立ち上がって、大きなぴかぴかの机にもたれかかっているディミトリの所へつかつかと歩いて近づいた。

しかもザレン爺は立っているディミトリにちょっと非常識なくらい距離を詰めて来た。葉巻くさい脂っこい大柄の爺いのでかい面がディミトリの目前にじりじりと迫ってくる。

「きっとあいつは…とんでもない、いやらし・けしからん、ど・すけべな本性をエスカレートさせてくるはずだ…!だからな、あいつが、貞淑な妻でありながらデュラス街区の歴史に残る最高のどいんら○女に仕上がるかどうかは、お前との!最初の晩がカギなんだ!ディミトリィッ!!気張れよ!」

ザレン爺は立ったままディミトリの背中をバアンと叩いて叩いた手と腕を背中から外さずそのままグッと力を込めてディミトリに抱きつくようにしてディミトリの肩をガッチリと抱き、更にだめ押しにもう一方の手でディミトリの胸板をバンバン叩いて励ました。

「…」

(訳の分からんフカシ入れてくるのもたいがいにせえよ…マーヤ様に失礼だろ…そして…さっきまで爺様の話を全部本当のことだろうと思って一生懸命聞いていたけど...俺…俺…バカだった…)

もう25時は回っただろうか。26時近いかもしれない。深夜も深夜、薄暗いランプの灯りだけのザレン爺の書斎。ディミトリは葉巻くさい脂ぎった爺にバンバン叩かれながらうんざりしていた。

次の話


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