『塵に訊け』(ジョン・ファンテ、栗原俊秀:訳、未知谷)の一節
朝になって目を覚ますと、もっと運動した方がいいなと思い、すぐに始めることにした。体のあちこちを曲げたり伸ばしたりした。それから歯を磨くと血の味がして、ピンクに染まった歯ブラシを眺め、こんな感じの広告を思い出した。外に出てコーヒーでも飲もうと決めた。
(P5)
冒頭に続く一節。
スランプでありながらも自我肥大化した小説家パンディーニの朝を描写したものだが、この何気ない一文に、アメリカらしさが詰まっている。それが「もっと運動した方がいいな」なのか、「ピンクに染まった歯ブラシ」なのか、「コーヒでも飲もう」なのかはわからない。それらはもはやアメリカ文化ならではのものではなく、ロンドンでも、パリでも、東京でもおかしくない。
でも、なぜかアメリカを強く感じてしまう。
(本を開く前に、『塵に訊け』がアメリカ小説であるということ知ってはいるけど)
そして「アメリカの小説を読みたかったんだな」って、わたしはすぐに『塵に訊け』の世界に入っていけたのだ。