『ゴムボートの外で』〈『ミルク・ブラッド・ヒート』収録〉(ダンディール・W・モニーズ、押野素子:訳、河出書房新社)の一節

私は舌を噛み、目の前で羽のように広がる血を眺めた。波間に浮かぶ、小さな赤い潮流。舌を噛んだその瞬間に、私は悟ったのだと思う。自分が九歳で、美しく、命に限りのある人間であるということを。神が見るのと同じように、私には自分たちの姿がはっきり見えた。海の底で子どもの形をした四つの石になるまで、ずっと沈んでいくのだ。
(p127)

○父と継母と暮らす少女のなかにある死への願望。海水浴の際、溺れながら彼女が見た風景。
青い海と白い波。そこに広がりつつある血の赤。
少女の哀しみが、音のない世界を求めて、深く深く沈んでいく。

死は、怖い。いつか必ず訪れる消滅のときを思うと、眠れなくなる。
でも、死の描写は、なぜ美しいのだろう。実際にはこんなものではないだろうが、それでも美しいものと錯覚してしまう。怖いのに、惹かれてしまう。
なぜだろうか。

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