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山屋のムーブで山麓の街にどう貢献するか

趣味で登山を始め、はまるとほぼ毎週末どこかの山に入るようになる。
一般登山道を歩くだけではなく、
ロープが必要になるような沢登りや岩登りもやり、
雪山にも入り、アイスクライミングをかじり、スキーにも手を出す。
登山のカテゴリーに入るアクティビティならとりあえず足を突っ込むのだ。
一年中山でなにかやっていることになる。
面白い山遊びがあると聞けば国内のみならず海外も含めて遠征もする。
旅行先はまず間違いなく山のあるところになる。
こうして世に言う『山屋』さんができあがる。

山屋の生活様式

仕事で山に入ることはないことを前提として、
いわゆる週末山屋(週末クライマー)というのはどういうライフスタイルか、ということを改めて考えてみれば
けっこうな勢いで社会不適合な生き方かもしれない。

以下は一例ではあるが…

日曜(祝日)、ともすれば日をまたぐような時間に帰宅し
次の山を考えながら道具を片付ける。
シーズンごとに行きたい山はすでに決まっているからあらかた予定は埋まっているが、そこは天候次第である。
週末の天気予報にやきもきしながら
山に入るのによさそうな気象条件になる山域を探る。
行きたい山、予定していた山がよさそうならそのまま決行、そうでないならサブプランを勘案し、行ける範囲で行ける山を決定する。
粘るときは直前まで粘る。

金曜の夜、仕事後に出発。
登山口最寄りの道の駅等で車中泊。
運転時間は山域にもよるが3時間から6時間程度までを目安に。
場合によっては2時間以下の仮眠しか取れないときもあるが、
それでも早出をするのが登山の基本。
寝れないことより山に入れない方が山屋にとっては痛い。
秋も深まる頃〜冬ともなれば日の出が遅くなるため、まだ暗いうちから出発。
当然のごとく世の中はまだコンビニ以外動き始めていない。
日中明るいうちはなるべく山中で活動していたいし、そもそも山屋ともなるとそれなりにやねこい登山活動をしているので行動時間が10時間以上とかザラ。
早い時間帯に出ないと明るいうちにこなすべき核心の行動予定がこなせない。
早く出るに越したことはない。
山中での泊まりを伴うのであれば下山は翌日の夕方以降。
日帰りだとしても休みはフルで山に入りたいので
下山後また移動して道の駅に泊まり、2日目の日帰り登山に備える。
下山後は帰りにまた長い運転が待っている。
当たり前だが休み明けの仕事には出ないと行けないので、
下山後できることと言えばせいぜい近場の風呂に入って、サービスエリアで食事するくらいだ。
どこかに宿泊するにしても、宿ですることは寝るだけ。

山麓の街での観光振興とマッチしない問題

上記したように、山屋はその活動時間の大部分を山中に当てるため、それ以外の時間はほぼ、移動時間である。
朝ゆっくり出発、など滅多なことではしない。
仕事後に自宅を出て山の最寄りの車中泊スポット(多くの場合は道の駅)へ移動、到着は夜中になることが多く、その上出発は早朝となる。
そんな滞在時間で都合よく使えるホテルや旅館がないため致し方ないところではあるが、車中泊ばかりとなる。

また、活動時間帯のほとんどが山中滞在のため、地元で何か買うとしたらコンビニ以外まず利用できる店がない。
山があるような地方となると、商店の営業時間がそもそも短い。営業時間は10時から17時まで、などと言われたら店が開いてる時間にいる場所はほぼ山中。
地元のいい感じのカフェやおしゃれなパン屋、雑貨屋、こだわりの蕎麦屋など調べてはみるのだが、こういった店は輪をかけて営業時間が短く11時〜15時とかだったりする。
その時間に店に行くために山行計画をゆるめに変更することを選択するかと言われると、ない。山屋は間違いなく自分のやりたい山をとる。
結果、麓の街でお金を使う機会もない。

余談だが、沢登りのアクティビティとして渓流釣りも始めたときは、地元の遊漁券販売店が夜にも朝にもやってなくて頭を悩ませていた。なんとかコンビニで手に入れていたが、そのために遠回りしてコンビニに寄るなどしていて正直面倒だった。最近はつりチケやフィッシュパスなどアプリでいつでもどこでも遊漁券が購入できるようになって大変ありがたい。

こうして、
山の麓の街のスローライフな営みが、山屋のストイックな山中活動時間とどうにもこうにも相容れ難く、
山屋は駐車スペースを利用するだけで何もお金を落とさない、麓の街から搾取する形になってしまうのである。

そして山屋が疎まれる存在に

山屋の行動様式で難しいところが、しょっちゅうやってくるくせになんの恩恵もない存在であるにとどまらず、ともすれば迷惑なところである。

例えば、車中泊エリアでありがちなのが、夜中にやってきておもむろに駐車場にテントを張ったかと思えば酒盛りを始めたりする人がいる。
最近は車中泊旅がメジャーなものとして認知されてきたからこそなおさら、この山屋の行動の異常さが際立っている。
テントを張る場所ではないし、夜中に騒ぎ始めるのも周囲に迷惑きわまりない。

また、目的のアクティビティが必ずしも一般登山道の『登山口』とされる場所から始まらないことも多い『バリエーション』と呼ばれる登山活動をやる山屋は、そのアクセス過程でも問題を生じさせることがよくある。林道の路肩の少し広いところに駐車して、工事関係車両が通行できなくなる、私有地に勝手に駐車する、本来立ち入り禁止のところ(ダムなど)を黙って通行する、などの迷惑行為となってしまう。
昨今ではSNSによりある山域や山行がバズって、一気に山屋の間で有名となり、ただでさえアクセスに問題がある場所に人気が集中して、問題が大きくなって表面化し、地元と大揉め、結果立入禁止がきつく言い渡される憂き目に遭うことさえあるのだ。

山屋は、自分たちの行動が自由の表現であり、山は誰か個人のものではなくみんなのものであり、それ故に自分自身のものでもあり、そして社会から開放される場所だと思いこんでいるフシがある。ある意味正しい。
だが、この社会を構成しているのは山屋だけではない。山屋の美学が拡大解釈され、山に入るための行動すべてが行き過ぎだ自由奔放になりがちなところがあるのではないか、と危惧している。

どうしたら少しでも貢献できるだろう

中にはいろいろともはや犯罪すれすれでちょろまかしているような人もいるのだが、そういった輩は山屋に限らずいる。そこはみんなで正すところとして。
あくまで、山屋の生活様式で、山屋に没頭しつつ貢献するには、という点を考えてみた。
せっかくその地域の山で遊ばせてもらっているのだ。山のみならず、その環境を有する土地に暮らす人たちにも可能な限り貢献したい気持ちはある。
だが、そう多くの需要があるわけでもないのに、山屋のために深夜早朝に営業をしろ、などとは思わない。双方に無理が生じない範囲でどうしたらいいだろう。

・・・
私に思いついたのは、使用料を払う、というものくらいしかなかった。
入山料、駐車料、岩場の管理費、トイレチップ、などなど。

先程書いた遊漁券の例もあるように、ITを活用しオンラインでできるようになれば非常に有効な手段ではないかと思う。
早朝から深夜まで、駐車場の管理人を常駐させる必要はない。
入山に当たってウェブやアプリから手続きしお金を払えるようにするのだ。

登山届も入山料の支払いも、駐車場代の支払いも、岩場の使用料の支払いも、オンラインで行う。無人でも管理可能にゲート式にするのもよいと思う。

バリエーション登山やローカルの岩場などのアプローチでは、明確な管理された駐車場がなく、なんとなくこのあたりに駐車可能、◯◯台くらい行ける、なんて場所が結構ある。そういう場所はシーズンや週末ともなると、だいたい無理やりなそこはもうアウトだろ、というところへの駐車が発生し、そこが行けるなら、とどんどんアウトな方向へ数珠のように駐車が続いている景色を見ることが割とある。せっかく来たのだからという諦めきれない気持ちはわかるのだが、ときには諦めが必要だと思う。
そういう場所にもアプリ等で管理が入れば、所定の台数の支払いが終了したらもう駐車できない、といったことが形だけでも入ればもう少し行儀が良くなるのではないかと思う。
だいたい駐車場のないエリアなんて、駐車可能な台数を越えるような人数が来てしまったらエリア自体キャパオーバーになっていまうので、無理くり駐車して入山したところで気持ちよく使用できる状況にないのは目に見えいている。
オーバーユースを防ぐ意味でも、有効だと思う。

スキーを始めて思ったこと

今年に入ってから山スキーをやりたくて、人生初のスキーを始めた。
もちろんゲレンデから始めたのだが、ゲレンデスキーというのは上手に運用すれば地域にとって大きな観光振興になっていると感じた。
インバウンド効果もあって、適切に価格改定やサービスの改善が行われていて、設備更新もされている。
雪山登山ばっかりやっていた身としては今までの生活様式から大きく変わったのに少々面食らったが、こうやって適切に対価を支払い楽しく遊ぶというのは正しい姿であるように感じた。
山には感謝しているし、山で遊べる環境が守られ長く遊べる場所として維持されるためになにかの形で対価を払いたい。

ローカルではなく、国だってきっともっと本腰を入れてできると思っている。
アメリカの国立公園なんてすごくきちんと管理していて、この自然を長く楽しもう、大事にしようというルールが徹底されているように思った。

海外クライミングはカルチャーが違う
日本より随分と朗らかにクライミングできる
差はどこにあるのか


山で遊ぶことが歓迎されるにはどうしたらいいか。環境へのインパクトを抑えて長く維持するためには負荷をどうコントロールするか。
遊び方が問われている。

その地域の人達にとって厄介者にならないように、少しでも貢献できるように。
ルールを守って気持ちよく。
双方が発展する形での山の遊び方、きっとあるはずなのだ。




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