四肢障害の君が17歳を迎えて
飼い始めて間もなく、「生まれつきのもんやから、この子は体も弱いかもしれへんで。」と母から言われたことを覚えている。ブリーダーのもとで生まれた時から右脚がなく、売り物にならないからと手放され、獣医さんから引き取って帰ったとき、初めて抱っこした子犬の君が可愛くて可愛くてたまらなかった。以来、ダックスにとって県民病ならぬ"犬民病"であるヘルニアはもちろん、先天性の病気があるかもしれないからと、食事やサプリメントも、体重・毛艶・鼻の色を見ながら入念にケアをしてきた。特に体重は、上手く歩けない君にとって負担が大きくならないよう、ずっと気にかけてきた。
君は窓際にある高めのソファに飛び乗って、外を眺めるのが好きだった。野良猫が来たら興奮し、人が来たら構って欲しくて吠え倒すのが君の日課だった。でも小学生の私は、ヘルニアはとても痛くて、さらに歩けなくなるということを知り、君がそのソファに立って登らないよう、ソファの上に物を置いてそれを防いだ。君を守っているつもりだったけど、大好きな場所がなくなってしまった君はどう感じていたのかな。
右脚がないので散歩に行っても胸を地面に着いてしまう君は、成長期の走りたい盛りでも抱っこをされて散歩に行った。唯一、深い雪が積もった日だけは地面で胸を傷つけずに走れて、君はとても喜んで一生懸命走り回って遊んだ。それなのに、中学生になった私は毎日の部活で忙しくなり、雪が積もっていても外で遊ばせてやることはなくなった。今でも雪が積もるたびに思い出して、後悔しているよ。
小学生の頃の私は、学校から帰ってもずっと一人でテレビを見たり宿題をしていた。なんとなくむなしく、憂鬱だった。今ならはっきりわかるけど、毎日一人で寂しかった。君が来てから、学校から帰ると遊びに誘ってきて、宿題が出来なくて困るほどだった。おもちゃをとってきては私を誘って、ひとしきり2人で遊ぶと疲れて私のお腹の上で寝た。そのうち、私は中学生になった。部活や塾に通うようになり、小学生の私がそうだったように、君は私の帰りを1人で待つようになった。
生まれてすぐに他の家族と離され、獣医さんに引き取られた君は、うちに来るまでずっとゲージに1人だったと聞いた。小学生ながらに、私たち家族が君を幸せにしないと、と思っていたよ。寂しがりやで、ずっと誰かに抱っこされていないと気が済まない君は、今でも毎日母さんの膝の上で寝ているね。
そんな君が17歳になり、県から長寿犬として表彰されるらしい。すごいな。大したもんだ。毎日外を眺めて楽しんでいたその眼はもう見えなくなり、雪の上を走り回っていた頃のような元気ももうない。でも、その3本の脚で水を飲みに行き、布団に潜り込んで気持ちよさそうにねむる。その姿を見るとなんだか涙が出そうなくらいに幸せな気持ちになる。私たちが君を幸せにできているかというのは分からないけれど、私は帰省して君に会うたびに安心と幸せを感じているよ。
17年前、家族になってくれてありがとう。
17年間、家族でいてくれてありがとう。
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