『TITANE/チタン』新星ボディ・ホラームービーが描く、「不条理」とは
TITANE/チタン
監督
ジュリア・デュクルノー
脚本
ジュリア・デュクルノー
製作
ジャン=クリストフ・レイモンド
出演者
ヴァンサン・ランドン
アガト・ルセル
ギャランス・マリリエ
ライス・サラーマ
『ザ・フライ』(1986)や『クラッシュ』(1996)(どちらもデヴィッド・クローネンバーグ監督)など、ボディ・ホラー映画において主人公たちを襲う肉体的変容(=不条理)を描くのは常であるが、今作『TITANE/チタン』はその一連の流れに新風を吹きこんでくれる秀作だ。
まず、これはどのボディ・ホラー映画においても必須項目なのだが、主人公を襲う「不条理」がとても容赦ない。
お腹に宿る金属生命体の赤子(?)により裂ける腹部、肉体からしたたり落ちる石油のようなドス黒い液体。
おそらく観客の大半は生理的嫌悪感を催すに違いないであろうショック描写は、さすが『RAW』(2017)を撮った監督なだけあってとても見事だ。
だがこの作品の肝は、そのような「不条理」を観客に対する見せモノとして提示するだけでは留まらないところにある。
この世の理を超越し、新たなる生命体を宿した主人公アレクシア。
そんな彼女/彼(本作ではこの呼び方が必須であるので呼称させていただく)を単に被害者扱いせず、普遍的な愛の眼差しで「未来へのバトン」を繋ぐラストにはおもわず落涙した。
前述した通り、ボディ・ホラー映画において主人公が「不条理」下において残酷な末路を辿るのは一つの「型」ではあるが、この作品の登場人物を寛容に暖かく見届ける結末はこの作品特有の良さだろう。
主人公に襲いかかる災難を、ドライでダークなユーモアで描写する感覚も見事だ。