余白が語る現代アメリカの危険性 『シビルウォー アメリカ最後の日』
監督
アレックス・ガーランド
脚本
アレックス・ガーランド
出演者
キルスティン・ダンスト
ヴァグネル・モウラ
スティーヴン・ヘンダーソン
ケイリー・スピーニー他
〈ストーリー〉
連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。「国民の皆さん、我々は歴史的勝利に近づいている——」。(公式YouTube予告編より)
非常に示唆に富んだ現代的な映画だった。
連邦政府から19の州が離脱した近未来のアメリカを舞台に、政府軍とテキサス、カリフォルニア同盟の西部軍との内戦を描く。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は決して政治的イデオロギーについて観客に問う映画ではない。劇中、内戦の理由は全く明らかにされないし、何か登場人物の口を借りて政治的な肩入れをするような語り方もほとんどしていない(戦争映画の歴史的傑作である『プライベート・ライアン』でもアメリカ賛美的な部分から抜け出せていなかったのだから、これはなかなか秀逸だと思う)。
その余白で語られているのは現代のアメリカという国が持つ潜在的な危険性だ。
戦争映画と一種のロードムービー的な側面を併せ持つ本作だが、登場人物がアメリカ国内の戦場で直面するのは血塗られた黙示録的世界そのものだ。
右・左派が団結するほど危険で暴力的なポピュリズム・ファシズム政権の台頭はアメリカ社会の現実を皮肉にもこの上なく反映している。
そしてそのような世界に残った者は
──生存性バイアスをもった安全圏にいる(と思っているだけの)一部の国民、非人道的な暴力装置と化した国民と、レイシストだけ──
というのはなかなか絶句するものがある。
VFXを駆使しているが実景と見紛うばかりのシーンの数々(特殊な小型カメラDJI Ronin 4D 6-kを用いている)には脱帽だったし、画角が計算し尽くされたある種カリカチュアされたシーンも示唆に富んでいて見事だった。
音楽使いも特異的で、例を挙げればキリがないが、最たるものとして伝説的なHip-HopグループDe La Soulの1stアルバム "3 Feet High and Rising "からのクラシックソング・"Say No Go"使いがとても印象的だ。一見ミスマッチでキャッチーなフックがこの映画のテーマと共鳴する。
「行かないと言え、行かないと断れ、そっちへ行くな。」
非常に真面目な映画ですが、現代アメリカ社会を皮肉る、意地悪だが絶対に見る価値ありの傑作でした!
おすすめです!!!
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