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【医療者の視点から】高額療養費制度の改悪で「アトピー治療」が続けられない未来が来る?!

高額療養費制度を見直し、自己負担額を引き上げようとの動きが出ています。

あまりSNS等で政治とかの話はしたくないのですが、こればかりは私が見てきているものを踏まえて言葉を発しなきゃいけないと思い、このnoteを書くことにしました。

今回あえて過激なタイトルにしたのですが、私の視点から言わせてもらえば、現状の制度ですら「その辺のクリニックで行われているアトピー治療」を経済的理由で諦めている患者はすでにいます。(詳細は後ほど)

できれば多くの人に読んでもらいたいので、「うわ、まじか…」とか「知らなかった、もっと多くの人に知ってもらわなきゃ」ってことがあれば積極的にシェア等で拡散してもらえると幸いです

1.高額療養費制度とは?


高額療養費について簡単に説明すると、下記のようになります。

高額療養費制度
医療費が高額になったときに、一定額を超えた自己負担分が払い戻される制度。

CatGPTより

要するに、どんなに高い治療を受けても、同じ月内(月はじめ~月末の間)であれば一定額以上にはならないって制度になります。
厳密には窓口では払うんですけど、そこからはみ出た分は後から戻ってくるといった感じです。

①現状の負担限度額


現状の負担額については下記の画像の通りになります。

現状の高額療養費制度の目安

外来で説明する際に患者さんの年収を聞くわけにはいかないので、実際の診察の中では「一般的には8万円くらいが上限でそこを超えた分は戻ってきますよ」と説明していました。

②今回の制度見直しで何が変わるのか


ずばり、自己負担の上限額を増やそうとしています
しかも、段階的に、なので今回で終わりじゃないです。

③いつから、どれくらい負担額が増えるのか

最短の予定は2025年8月、つまり今年の夏から。額は年収にもよりますが多くの人は8100円の増額、年収が高い人は最大3万7800円の増額となります。

…これ、月額ですからね?年間にしたらこの12倍です
月8100円増の人は年間10万円近く、月3万7800円増の人に至っては年間45万円以上の増額となります。

で、段階的って話をしたと思うんですけど、なんと

2027年の夏には8万8000円から最大で13万8000円にまで増えます

画像は毎日新聞さんより
25万→44万もえぐい。


2.高額療養費制度の見直しでなぜアトピー治療を諦めることになるのか?


高額療養費制度についてある程度理解していただけたでしょうか?
さて、ここまで読んでいただいた皆様の多くはこう思っているかと思われます。

「いや、たしかに大変だけど、アトピー治療ができなくなるってのはさすがに大げさが過ぎない???」

…大げさじゃないです。

なんなら現状の負担額ですら諦めている人が既にいます

アトピーだけじゃありません。
喘息も、蕁麻疹も、慢性副鼻腔炎もそうです。

高額療養費制度を使わなきゃいけない場面は想像以上にすぐそばにある、ということを頭の片隅においていただければと思います。

①高額な医療は入院を伴う手術やがん治療だけではない


高額療養費制度を使わなきゃいけない場面について、あなたはどんなイメージがありますか?

「ガンがみつかって手術や抗がん剤治療が必要になった」
「大きなけがをして高度な手術が必要になった」

おそらく、この辺のことをイメージされる方が多いと思います。
日常生活や仕事どころじゃないくらい健康を害した状態というか。

ですが、実際には「普通に社会生活を営み仕事もしながら」高額療養費制度の対象になるような治療を継続的に行っている人が多くいます

「ケガの治療や大きな手術で一時的に8万円」であれば貯金でどうにかなるかもしれません。
しかし、「この先、何十年と医療費として定期的にひと月で8万円必要になります」と言われたらどうですか?

さらに「ちょっと8000円値上げさせてよ!」と言われたらどうですか?

いやもうね…すごくすごく丸く穏やかに表現して激おこぷんぷん丸になりません?
私はなります。

②身近なクリニックでも高額な治療は行われている


花粉症でかかる耳鼻科、なんかちょっと痒くてかかった近所の皮膚科、ちょっと咳がでるなとかかった内科…あなたが普段ちょっとしたことでかかっているクリニックで高額な治療が行われていることは珍しくありません

実際、私が勤務していた個人クリニックでも、導入にあたって高額療養費制度の説明を必ず行うような治療を複数行っていました。すぐにパッと出てくるものだけでも5つ以上のものがあります。

もっとも、クリニックでの外来の場合、院内で高度なことをするわけではないので「3か月に1回、薬を処方したときに高額療養費制度の上限を超える」といった形のものが多いです。

年3回だったとしても限度額の引き上げは結構負担になりませんか?

少なくとも私は年1回の自動車税や固定資産税の値上げでも悲鳴を上げるので年3回の大型出費の金額が増えるとかいわれたら発狂します。

③高額療養費制度の対象となる治療の具体例


私が実際に見てきた高額な治療の1つとして「アトピー」「喘息」「蕁麻疹」「慢性副鼻腔炎」重症事例に使用する薬剤投与があります。

ここでの重症がどの程度かというと、「一般的な飲み薬や塗り薬を使用しても症状が強くて夜も眠れない」って状態です。

喘息なら「吸入しても咳が止まらなくて眠れない」、アトピーであれば「かゆくて眠れなくて毎日シーツや服に血がついてる」とかそんな感じ。

そんな状態から「夜ぐっすり眠れる」「服やシーツに血がつくほど掻くことはなくなる」と言った状態に持っていくための治療です。

これらには【デュピクセント】といわれる注射の薬剤を使用します。
デュピクセントは炎症を起こす原因物質をえいやと抑えて症状を抑えるって薬です(雑)。
細かい機序が気になる方は製薬会社のサイトで確認してください。

これがですね…高いんですよ。

1本【5万3659円】

で、この高いお薬、どれくらいの頻度で打つと思いますか?

【2週間に1回】です。
月に2本と仮定して、月額10万ちょっとになります。
まぁ実際には3割負担なので3万2000円程度。

毎月3万円の医療費、高いけど…このままでは高額療養費制度の対象外です。

そこで、この注射のいいところなんですけど、糖尿病の注射みたいに自分で打っていいんですよ。そして1回の処方で3か月分まで出せます。

なので、3か月に1回、3か月分の6本をまとめて処方します

この形をとることで「ひと月の間に窓口で払った金額」が8万円を超えます

高額療養費制度の基準は「ひと月の間に窓口でいくら支払ったか」なので、このケースであれば8万円からはみ出た分が後から還付されます

これによってひと月分ずつ処方するより月々の治療費を減らせるというわけです。

それでもまだ高いですけど…。(現状の制度ですら「その辺のクリニックで行われているアトピー治療」を経済的理由で諦めている患者はすでにいるというのはこういうことです)

④高額療養費制度の自己負担金引き上げによって諦めるケース


ここまでの話で「高額医療って案外身近なとこであるんだな」って感覚は得られたかなと思います。

では、2025年・2027年の自己負担上限額引き上げに伴ってどんな形で「治療中断」が起こりえるか考えたいと思います。

一番起こりえるのが、一人の被保険者が複数人を扶養していてそれぞれが高額医療を受けている事例になると思います。

被保険者に扶養家族がいる場合、上限の金額は全員合わせての金額での計算
となります。

つまり、夫・妻・高校卒業したの子の治療費の合計が15万円で、夫の年収から出される自己負担上限額が8万円場合、現状の制度であればこの家族は7万円還付されます。
しかし、2027年の夏で上限額が13万8000円にまで引き上げられた場合、還付される金額は1万2000円にまで減り、月の出費が5万8000円増えることになります。

この3人の疾患がすべて命に直結するものであれば別ですが、重症アトピーのようなものであった場合、「まぁ痒いだけで死ぬわけじゃないし」と治療を中断する可能性が大いにあり得ると思います。(かゆくて目を強くこすって失明とかあるからアトピーなめないでほしいけどね…)

他に起こりえる事例としては医療費補助が外れる年齢になったとたんに子供の治療が中断されるとか…。現在もあるけれど、ここまで大幅に引き上げられるともっと増えるんじゃないかなと思っています。

なにより、現状の金額ですら金銭面を理由に中断したり、そもそも案内しても患者さんがその気になってくれない場面がかなり多いので…。

おわりに


高額療養費制度の限度額引き上げが日常生活にも影響を及ぼす可能性があるってこと、なんとなくご理解いただけたでしょうか?

今後、アレルギーや自己免疫性疾患を中心に慢性疾患に関する高額な保険診療は様々な場面で増えてくることが予想されます。

せっかく社会活動に支障が出ない程度にまで症状を抑える医療技術はあるのに、一生懸命に働いている人が金銭的な理由でそれらの技術の恩恵が受けられないのは間違っていると私は思います。

また、ドライな言い方をすれば、医療福祉とは【国民に元気に活動してもらってお金をより効率よく稼いでもらうための投資】といった面があります

年々増大する医療費をどうにかして抑えたい国の意向はわかります。
しかし、今必死に働いて税金を納めている人のパフォーマンス向上や健康維持・健康寿命の延長に関わる部分のお金を削るというのは非常にセンスがないやり方だと思っています。

医療費を削るなとは言いません。
しかし、医療費の数字を減らすことばかり考えて、本来の目的を見失ってはいませんか?

現場に立っていた人間として、「この治療に税金が使われているのはいただけないな」と思うものも数多く見ています。

医療費削減策を考えている方々には、「税金を医療に投じている理由」をしっかり意識して、その理由に相応しくないところから削れるよう尽力していただきたいと思っています。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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にょろ | ガマンしない暮らし
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