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友と生きる

 つぶやきの続きとなるだろうか。
 娘の高校受験の少し前から親しく話す様になった友人。
 彼女のことは私が今の仕事を始めた頃からの顔見知りというか、お店に来店するお客様としては知っていた。
 だが、それ以上でも以下でもない関係。
 その関係が変わったのは私のダブルワーク先の先輩としていたのが彼女で、優しく仕事を教えてくれて話していくうちに仲良くなったのが始まり。
 それからは会う度話しが合って、仲良くしてもらっていたのだか、ダブルワークを私が辞めてからも変わらず仲良くしてくれていた。
 私に病気が見つかり、長期で休職した後も気遣った優しい言葉をよくかけてくれていた、温かい人だ。
 そんな彼女の様子がおかしいと思い始めたのは一年近く前が最初。
 元々スマートで綺麗な彼女がますます痩せたと感じたあの頃。
   「痩せた?」
 そう尋ねた私に
   「そうかな? 少し忙しくしてるからかな?」
 とそう答えた彼女に
   「元から細いんだからこれ以上痩せなくていいよ」
 と笑いながら返した私に彼女も笑っていた。
 だが彼女は益々痩せていった。

 それからしばらくしてお店で見かけた彼女の様子は変わり過ぎていて、一瞬彼女だと気づかなかった。
 私はどう声をかけたらいいのか戸惑いを隠せなかった。
 深く帽子を被り、いつもオシャレなスタイルをしていた筈がジャージの様なゆったりした格好になっていた。
 そして何より顔色が悪すぎた。
   「体調悪い?」
 そう尋ねた私に
   「...うん、ちょっとね」
 とそれだけ答えて帰っていく彼女にそれ以上声をかけられなかった。
 それと同時に頭の中をよぎったのは自分と同じ病。
 でもまさかそんな筈はない、そう自問自答したが答えはでなかった。

 あれから数ヶ月程が経ち、久しぶりの彼女はあの日よりは少し元気そうだ。
 格好だって以前の様だ。
 私は勇気を出して声をかける。
   「久しぶりだけど、今日は前よりは元気そうだね」
 明るく軽めの声でそう発した私の言葉に思っていたより大きく反応を示した彼女。
   「あ、分かってた? やっぱり」
 と、その言葉で確定した。
 おそらく『癌』だと。
 目と目があった瞬間、彼女の瞳の端にキラリと涙が光り、彼女が慌てて指先で拭う。
   「体調はどう?」
 逆に聞かれて
   「うん、まあまあかな? やっと最後の抗がん剤終わったばっかり」
 そう答えた私に
   「そっか、大変だったね。 でも治療できてよかったね。 私は取ることさえできなかったから...」
 と自嘲気味に言う彼女。
   「え? 嘘でしょう?」
 慌てて聞き返す私に
   「ホントだよ。 今は延命治療中」
 だと小さく笑う。
 言葉を失くす私を気遣ってだろう、彼女は
   「でも、大丈夫。 まだこうして買い物だってできるし、やりたい事やれてるから」
 なんて言うのだ。
   「そっか...そうだね...」
 陳腐な言葉しか返せなかった。
   「気づいてくれてありがとう。 また買い物来るし、よろしくね」
 そう言って笑う彼女の瞳は潤んではいたが、強く輝いていた。
   「うん、もちろん。 こちらこそずっといつまでだってよろしくだからね」
 と努めて明るく笑って返した。
   「ありがとう。 じゃあまたね」
 そう言ってその場を去って行く彼女の後ろ姿をしばらく黙って見ていた。

 自分の命の先が見えている今を受け入れるのはきっとどれほどの、ものすごい力が必要だっただろう。
 でも彼女はきちんと自分と向き合い、生きている今を受け入れていた。
 清々しい程洗練とした彼女のこれからの人生を私も共に生きたいと思った。
 私もどこまで頑張れるか分からないけれど、彼女より少しでも長く、きちんと生き抜いたとアチラで再会した時に誇らしく言える様に生きよう。
 まだまだ生きて、生き抜いてね。
 陰ながら応援しているよ、友よ。
 共に生きよう、どこまでも、貪欲に。

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