【連載小説】青い志願兵 #29

前回へ 第一話へ 次回へ

第五章

青い志願兵の手記

 僕には今が何月だか分からない。でも僕は一九四五年だってことは知ってるんだ。僕は上官に戦争が終わったって聞かされた。上官が泣きながら負けたんだって言っていたのを僕は覚えている。なぜって僕も上官と同じくらい悲しかったから。それに僕が何より悲しかったのは戦争が終わったから僕の仕事もなくなったってことだった。上官は僕たちに向かって適当に出て行ってくれって言ったんだ。それで、バンコクって街までは朝鮮人の先輩と一緒に行ったんだけど、そこで僕と朝鮮人の先輩は別れることにしたんだ。先輩は僕に街中で見かけても声をかけるなって言ったんだ。僕たちは他人のふりをしなければいけないって言ったんだ。僕にその方が捕まる危険が少ないって言ったんだ。先輩にちょっと悲しい気持ちになりながらさようならって言ったら、先輩も僕に達者でなって言った。僕は先輩に言われた通りになるべく目立たないようにしていてけど、結局米兵に捕まったんだ。そして僕は“首実検”ってやつをやらされた。俘虜の人たちとの面通しってやつ。僕は先輩が教えてくれた通り知ってる俘虜の人がいても知らないふりをしたんだけど、僕を見た顔見知りの俘虜の人が僕を見てコクリと頷いたんだ。それで米兵が僕に“ユー、カモン”とか言って僕は捕まったんだ。

 僕は“戦犯”ってことになっていた。で、僕は刑務所に入れられたんだ。僕がいる刑務所の正確な場所は分からないけど僕が働いていたのとはまた違った国にある刑務所なんだ。僕は不思議な気持ちだった。僕は故郷にいる時は隣村にしか行ったことがなかったのに、もう二つの外国に行ったことがあるんだから。僕は本当に人生って不思議だなって考えてるんだ。外国の本が好きだったヒョンニンですら海外に行ったことがないのに僕はもう二つの海外の国に行ったんだからね。でも僕が家を出てからもうたくさん時間が経ったからもしかしたらヒョンニンも外国の一つや二つは行ってるかもしれないな。そんなことを考えると僕はヒョンニンにまた会うのが楽しみになってくるんだ。僕が行ったことのある外国の話とヒョンニンが行ったことのある外国の話をするんだ。僕はそれは絶対に楽しいに違いないって確信するんだ。

 僕は刑務所の生活は本当に辛いと思う。僕は何も悪いことをしていないのに毎日のように殴られたり蹴られたりしているんだから。食べ物も全然くれないから僕は今は痩せすぎなんだ。あとは大きな大きな太陽のせいですごく暑いのに裸足で外で運動させられるのが僕は本当に辛かった。僕は何度も倒れそうになったくらいだ。

 仕事場で一緒に働いていた朝鮮人の先輩と再会できた時僕はすごく嬉しかったけど、先輩はすごく悲しそうだった。僕は先輩にこの刑務所の人たちは本当に酷い人たちだ、悪い人たちだって言ったんだ。だって何も悪いことをしていない僕にこんなにもひどいことをするんだから。でも先輩が悲しそうな表情で僕にこう言ったんだ、僕たちも同じことをしていたじゃないかって。その時僕は気付いたんだ。やっと僕は気付いたんだ。俘虜の人たちからしたら僕も悪い人間だったんだって。だから僕はこうやって刑務所に入れられてるんだって。だから僕は戦犯なんだって。でも僕は、違うんだって叫びたい気持ちになったんだ。だって僕は仕事をしていただけだから。僕は真面目に熱心に仕事していただけなんだから。僕は俘虜の人たちを傷つけたいとか酷い目にあわせたいと思ったことは一度もなかったんだ。ただただ、僕はやるべき仕事をやっていただけだし、俘虜の人達が彼らがやるべき仕事をちゃんとできるようにちょっと酷いこともしたけど、それはそうしなければならなかったからなんだ。僕は、俘虜の人たちにとっては悪い人間かもしれないけど、それは謝りたいと思うんだけど、それでも悪い人間ではないってみんなに分かってほしくって、だから叫びたくなったんだ。でも叫ばなかったのは、叫んでもオンマにもヒョンニンにも僕の声は聞こえないってわかっていたからだ。僕は二人が勘違いしてなければいいんだけどと考える。僕が悪い人間なんだって勘違いしなければいいけどって考えるんだ。

 僕が持っていたヒョンニンが好きだった本は没収されてしまった。でもオンマがヒョンニンのために作った青い上着はとられなかったから僕が持っている。ここは暑すぎるから着れないことが僕は哀しかった。でもその青い上着を見ているとヒョンニンが身近に感じられて、オンマの匂いがするような気がして、僕は安らかな気分になるんだ。僕は暑さを我慢しながら上着を羽織ってこう考えるんだ、この青い、愚かな、哀しい志願兵の手記をヒョンニンがいつの日にか読むことがあるのだろうかって。ヒョンニンの本は没収されてしまって僕の手元にはないけれども、本当に気に入って何度も何度も読んだ大好きな文章を書くことにする。

「かりに今日おまえがいなくなってしまったとして、あの人たちのそばから遠ざかったとして、あの人たちは、おまえを失ったことで生じる空虚をどれほどに感じてくれるだろうか。どれほどの間、感じていてくれるだろうか。」

前回へ 第一話へ 次回へ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?