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スパイダーマンの次は仮面ライダー。
「はい、さわやか三組株式会社、タナカでございます。」
すました声で電話を取ると相手は隣の席のタカシくんだった。
タカシくんはこの時間、自然豊かな隣町に営業に行っているはず。
結果報告かしらね?
「タナカサぁん。えと、ご成約いただきました・・・
んと、後からLINEします・・・」
笑ってるんだか泣いてるんだか、とにかく歯切れの悪いタカシくん。
あら、何かあったわね?
ワクワクしながら(なんかごめん)タカシくんからのLINEを待った。
ピロリロリ。タカシくんからのLINEだ。
・・・・・・・・
訪問先の玄関でご婦人と談笑していたときのこと。
何やら後ろ首から背中にかけてムズムズする。
『暑いし、汗が流れたかな?』と思いながら。何気に背中あたりを
触ると何かがいる!
これは明らかにオレの背肉ではない。ジョリジョリしてる!
緊張をご婦人に悟られることのないように営業スマイルを崩さず
丁寧にご挨拶をし、おいとましたオレ。
慌てて駐車場に戻り、スラックスからワイシャツを引っ張り出して
バタバタしてみたけど何もいないようだ。
いや、待て。これは罠かもしれない。近くの公衆トイレに行こう。
公衆トイレの個室に入ったが、ハエの軍団が・・・ムリ。失神しそう。
こうなったらコンビニのトイレだ。
コンビニまでの道中、急に右肩あたりで何かが跳ねてムズムズする。
「うわうわうわうわうわ!!!」
悲鳴をあげながら恐るおそる右肩を摘まむと、ワイシャツ越しに
絶対にオレの肉ではないジョリジョリしたものが!!
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ・・・・」
出川か??というくらいにヤバイを連呼した。
やっとコンビニに到着し、一目散にトイレに向かう。
店員からの「いらっしゃいませ~」を背中で聞きながら
「オレにも何かがいらっしゃいますって~。ひぃ~~!!」
心の中で叫びながらトイレに駆け込んだ。
そしてワイシャツを脱ぎ、肌着一枚になったオレの右肩にいたのは
「銀色に鈍く光るバッタ」だった。しかもそこそこ大きい。
「ん~うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」声にならない叫びをあげ
右肩にいるバッタにデコピンをくらわした。
バッタはトイレの床に着地。
片足を上げ踏みつぶそうとした瞬間、
このバッタの仲間たちが集団でオレを襲ってきたらどうする?
「お礼参りじゃ~!」て、すごい集団で襲ってきたらどうする?
想像しただけで震える。
そんなオレの気も知らず、銀色に鈍く光るバッタは
ピョンとドアの下の隙間からどこかへ行ってしまった。
店内に行ったのか?
まぁいい。とにかくオレの視界からは消えた。
トイレを出て、何食わぬ顔をして缶コーヒーを買った。
ついでに店員に
「この店内には銀色に鈍く光るバッタがいるかもしれません」
と教えてやった。すると店員はさして気に留めるふうでもなく
「あ、そうですか」と言っただけだった。
自然豊かな地域のコンビニ店員にはいつものことなのかもしれない。
・・・・・・・・・・・
要約するとこんな感じ。
なんとも壮大な『タカシくんの夏休み昆虫記』みたいな長文だった。
しかも短時間でよくここまで物語仕立てにできるもんだなぁ。
さすが表現者。言葉を操るのがうまい。
タカシくんのノウミソにちょっとだけ嫉妬した私。
いや、待て。冷静になろう。
銀色に鈍く光るバッタ?見たことないぞ。新種か?
ぜひ虫かごに入れて持って帰ってきて欲しかったぞ!
それにタカシくんは「そこそこ大きなバッタ」って言ってたけど、
絶対に三センチにも満たないただの茶色いバッタだったと思うよ?
虫嫌いは大げさに言うもんねぇ。クスクス。
毒蜘蛛、銀色に鈍く光るバッタ、その次はきっと
カマキリ婦人に襲われるんだろうな。ちょっとだけ楽しみだ。
(今、私はものすごく悪い顔してニヤニヤしています)