ピエールは焼き栗剥き名人。そして絵描き。らしい。
今日は朝からいい天気。
絵描きのピエールを誘って
セーヌ川のほとりで
焼き栗を食べよう。
ピエールはいつものように
いつもの場所で
よくわからないデッサンをしていた。
私は背後からそっと近寄って
「だーれだ!」とピエールに
目隠しをした。
ピエールは嬉しそうに
「あ、この声は、タナカサーン」と
答えてくれた。
ウフフ。
あぁ、ピエールよ。
「そんな絵ぇ描くヒマがあったら
私のために栗を剥いてくれ」
と、私は懇切丁寧にお願いし
袋いっぱいに入った焼き栗を
ピエールに差し出した。
もちろん栗は私の奢りだ。
ピエールは、
「チッ!」と舌打ちをしながら
渋々剥いてくれた。
でも、ピエールは剥くのが遅い。
私がリスレベルで
栗を頬張ってしまうから
「タナカ!早いよ!
ピエール、手がもうイタイよ!」
「タナカ!ピエール、まだひとつも
栗、食べてないヨ!」
と涙ぐむ。
泣き言を言うな、ピエールよ。
栗が食べられなくったって
いいじゃないか。
だったら私が栗を喉につまらせて
ゲフンゲフン言う前に
栗を剥いてみろってんですよ。
食べるが早いか
剥くが早いか
競争でもしようかぁぁ??
あぁ~ん???
ピエールは半分泣きながら
「タナカ・・・
この手は栗を剥くためにあるんじゃないヨ」
絵を描くためにあるんだヨ・・・」
とか言う。
えぇい、メンドクサイやつめ。
じゃぁ聞くが、ピエール。
キミは一度だって
私の絵を描いたことがあるのか??
「モナリザ」よりも美しく
「ヴィーナス」よりも妖艶に
私の絵を描いたことが
あーるーのー--かぁー----!!??
そう言うとピエールは
「もう!タナカのバカ!
もう二度と栗は剥いてあげないからぁぁ」
「モナリザでもヴィーナスでも
ないくせにぃー--!!」
と言って、
最後の栗をビュンと投げ、
私のおでこにぺちんと命中させて
エッフェル塔の方向へ
走っていった。
ヤレヤレ。
私が、ピエールが残していった
絵描き道具をどうしようかと
考えていたら
トム・クルーズがバイクでやってきた。
そして全て回収してくれた。
そしてバイクまんま
飛行機に乗って行って
二度と帰ってこなかった。
ピエールの画材はどこへ
行ったんだろう。
そうだ。頑張って働いて、
新しい画材を
ピエールに買って返そう。
ピエール、
ごめんね。・・・
私はおでこにめりこんだ
最後の栗をほおばりながら
そうつぶやいた。
・・・・
はい、すみません。
すべてタナカの妄想です。
私はセーヌ川に行ったこともないし
ピエールという絵描きも知りません。
あと、トム・クルーズは
知ってますけれど
会ったこともありません。
それでは
今週もおつかれさまでした。