科学的実在論論争について、とりあえず読んでおけば良さそうなものセレクション2024(X'masエディション)
(※)この記事はあくまで趣味で素人が作成したものです。研究者でもなんでもないです。
個人的に、科学的実在論と反実在論の論争についてとりあえず読んでおいたらいい本・論文(日本語のみ)をピックアップします。
現時点で読んでないものも含みます。
随時更新可能性あり。
0.この論争 is 何?
めっちゃざっくり書きますが、哲学において、「何が本当の存在なのか?」という「存在論」の問いは、本質的なものでずっと論争が行われてきました。(いわゆるけいじじょうがく(形而上学)ってヤツです)
プラトンで言えば、「イデアこそ実在」というイデア論が有名ですが、その中では個物よりも普遍的なものが実在(イデア界)とされ、その投影が我々の世界です。それを敷衍すると数学的な対象すらも「実在」とみなされる立場があります。数字の1とか2とかが「実在」って思います?私は思いません。
まあそれはそれとして、その後、近代の西洋哲学においてはイマニュエル・カントが「超越論的観念論」とかいうイカツイ理論において、「我々は実在(物自体)なんてものは知り得ない。表象のみを知りうるのだ」という認識論的な立場を構築しました。こういう話は大盛り上がりして、実在論・反実在論・観念論という大まかなカテゴリーでいろんな人が対立してきました。
20世紀以降、量子力学などの物理学の発展、科学全盛の時代においては、科学哲学という分野においてそういった議論の延長線が行われています。そこでは「電子って本当に実在するの?」といったことに疑問を投げかける人たちがおり、当然ながら科学者的には「お前らマジ何言ってんの?」という反応の元、科学的実在論を肯定していこうという立場の人も多いので、この論争は激化(?)しています。
ということで、まぁそんな時代において、哲学は割と自然科学とも無関係な分野ではないと思っており、いろいろと調べると面白い状態にはなってます。
ということで、本や論文(日本語に限る)を紹介します。
1. 網羅的ブックガイド
日本国内の網羅的な文献リストとしては、2024年現在科学哲学会会長である伊勢田哲治によるものが最も網羅的なんじゃないかと思います。まあこのリストがあればこの記事いらないんじゃないかという話もありますが、論文などは含まれてないのでこの記事では他のものも紹介します。
このブックガイドは科学哲学全般(個別科学の哲学も含む)に関するものですので科学的実在論論争とは関係ないものも多くあります。
科学哲学日本語ブックガイド
2. この分野への一般書・主要な本
やっぱり入門としては戸田山和久のこの本だと思う。2000年以前、いままでの論争を概観できる。ただし戸田山自身は実在論側(なおかつ自然主義)なのでその立場からの論考・解説である。
ここから発展としては、2015年刊行のこの本。
辞書のように数々の論点が広範に網羅してある。辞書だと思ってます。
3. 学術論文などの紹介(時系列順)
本になっていないもので多様な論者がこの論争について扱っています。それらも非常に参考になるのでリストアップしました。時系列で読んでいくと議論の展開もわかりやすいです。
なお、私もまだ全て読めていないので、読んだかどうかは一応「既読」・「未読」と区別して書いています。
1995年(既読)
「形而上学的実在論は論駁されたか?」伊勢田哲治
ヒラリー・パトナムの「内在的実在論」は反実在論的な立場ですが、その議論の中で「形而上学的実在論」の批判があります。その議論の概要と、パトナムへの批判とそれへの反論という議論の応酬の過程についてまとめらています。
2005年(既読)
「科学的実在論はどこへ向かうのか」(伊勢田哲治)
「実体実在論」と「構造実在論」の批判的検討を通して、個別科学の哲学への傾倒が始まることを予測し、一部懸念なども表明されている。
2009年(既読)
「存在的構造実在論の妥当性」野内玲
存在的構造実在論についての紹介と論点、意義などについての論文
- ESR(認識的構造実在論)
- OSR(存在的構造実在論)
それぞれの区別についてもわかりやすいです。
2012年(未読)
「科学的知識と実在 : 科学的実在論の論争を通して」(野内玲)https://nagoya.repo.nii.ac.jp/records/15937
前掲論文の著者による博士論文です。
おそらく2012年までの議論はこの論文で網羅できるはずです。
2015年(既読)
再掲。本ですが、2015年までの論争内容についての本はこれです。
2016年(既読)
『形而上学の排除から復権まで : 哲学と数学・論理学の60年(<特集>「数学と論理学の60年」』(野家啓一)
2019年(未読)
「存在的構造実在論の概念的基礎と経験的根拠」(北村直彰、森田紘平)
2022年
「科学的理解の観点から見た有機電子論」(野村 聡)、既読
「科学的理解論」という近年の考え方を元に、物理や化学現象についての理論を理解しようとする試み。特に本論文では有機化学における「有機電子論」を対象にして、理論の役割について考察している。
鍵となる概念:Intelligibility
「くりこみ群におけるミニマルモデルに基づく局所的創発」(森田紘平)、未読
2024年:最近の動向
発売が明日(12/23)なので、最近の動向の議論はたぶんこの本です。
上記の2022年の科学的理解論に関する論文は創発現象(例:分子構造)について、その理解を必ずしも物理学に還元しない立場がありうることを論じるものである。となると、より還元主義的な立場からはこの「創発」というものをどう物理学的に扱うかが問題となっているのだろうと推測できる。本書はそれを扱うものであると思われる(目次を見る限り)。
その他:個別科学の哲学
個人的に興味があるのは、個別科学の哲学です。
量子力学の哲学
2011年(既読)
「量子力学の哲学――非実在性・非局所性・粒子と波の二重性」(森田 邦久)
2012年(未読)
「量子という謎 量子力学の哲学入門」
2018年「QBism:量子×ベイズ――量子情報時代の新解釈」(未読)
化学の哲学
(2023年)「哲学は化学を挑発する」落合 洋文 (既読)
なぜ化学は哲学の問題になるのか?を概観できる。
まだ本邦においてはあまり専門的に研究者がいない分野なので、今後の展開に期待したい。
「化学は物理学に還元可能だ」というのがノーマルな理解であると思うが、それに対して疑問を投げかける内容である。いわゆる物理主義への批判ともなり、科学的実在論論争にも一石を投じる内容と思われる。