さようなら、一人酒
先頃の健康診断で尿酸値が基準値を大幅に超えてしまい、受診が必要なレベルだと判定されてしまった。
独り身だし、別に健康になりたいわけでもないが、昨今の企業は健康管理までするようになっているので、放置してたら会社からいろいろ言われそうだから、とりあえず病院に行った。
医者は「別に太ってるわけでもないので原因は酒でしょうね」と言った。
確かにこの1年、飲酒の頻度が増えた。量はせいぜい1〜2缶だが、ほぼ毎日飲んでいた。
ここのところ公私ともども生活がうまくいっておらず、やけ酒のような飲み方をし続けた期間も、なかったわけではない。とはいえ、どちらかといえば習慣以上の意味はなく、ただなんとなく飲んでいただけのこと。
医者からは、薬は出たが、禁酒令は出ていない。ほどほどに、ということだろうが、量的には既にほどほどだから、頻度を減らすしかない。
そこで「人と会っているときと、旅に出ているときは飲んでもよい」というマイルールを立てて、普段は飲まないことに決めた。
これだけで結構、生活が変わった。
仕事終わり、帰ってきてから暇な時間が増えた。酒を飲めば、あとは眠気に任せるがままだったのが、酒を飲まないので普通の時間が延びた。そもそも、暇に耐えかねてやけ酒をあおったこともあったのだから、酒を飲まなきゃ時間が生まれるのは当然のことで、これは想定内。
もう一点、これは素直に驚いたのだが、一人で映画を見終わった後に外で飯を食う楽しみがなくなってしまった。
いくつかある行きつけの映画館で映画を見た後、これまでなら、近くの中華や定食屋で晩飯を食うことがよくあった。
しかし今にして思えば、あれは腹を満たすためではなく、ビールを一杯飲んで夜を楽しみたかったのだ。そんなに量を飲めるわけでもないし、周りの目も気になる性格なので、居酒屋のカウンターで一人晩酌はできたことがない。だから飯屋で飲むのが好きだった。
でも、もうキンキンに冷えたビールを一人で飲むこともないのなら、中華も定食も食べる必要がないような感じがして、まっすぐ駅に行くようになってしまった。晩飯も食わず、コンビニであたりめだけ買って、しがんで寝ることもしばしばある。
酒は好きでも嫌いでもないものだという認識だったけど、自分はこんなに酒が好きだったのかと、今さら気が付いた。酒のおかげで、ごはんも美味しく食べられていたのだろう。まあ医者に言わせれば、だからこそ酒を控えたほうがいいということで実に理にかなっている。
しかし生活の楽しみのある部分は間違いなく失われてしまった。
先日、会社の同僚と飲み会があり、久しぶりにビールを飲んだ。おいしかったけど、喪失感を埋めるような感動は特になかった。人と会っているときはそれどころじゃないからだろう。やはり一人で酒を飲むことに、価値があったのだ。
尿酸値の維持のための治療は長期化するらしい。生活習慣の「改善」とは言うが、宗旨替えみたいなものである。映画終わりのほろ酔いの時間が再び来ないのがとても悲しい。
そういえば、映画と酒のエッセイが積ん読になっていたのを思い出した。はたして読了になることは将来あるだろうか。
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