業界のパイオニア『グレンフィディック』 ブレンディッド発売からのシングルモルト発売!
■ブレンディッド・ウイスキー事業に進出した初めてのモルト蒸溜会社「グレンディディック」
以前の記事の再掲です。
スコッチ・ウイスキー業界の川上への垂直統合。でも異端児が現れた!《グレンフィディック》|チャーリー / ウイスキー日記|note
ブレンディッド・ウイスキーが全盛となり、
・原酒を購入する、立場の強いブレンド会社=ウイスキーメーカー
・原酒を生産して納品する、立場の弱い原酒生産者=蒸溜所
という構図ができあがっていた時代。
グレンフィディック蒸溜所を擁するウィリアム・グランド&サンズ社は、「グランツ スタンド・ファスト」で、モルト原酒生産者側であるにも関わらず、自社でブレンディッド・ウイスキーを発売します。
おそらく、買い手であるブレンド会社(=ウイスキーメーカー)から、嫌がらせや取引中止などの厳しい反応もあったと思います。
この商品名の『GRANT’S STAND FAST』の「GRANT’S」は、「グラント家(がブレンドした)」ということですが、サブタイトルの「STAND FAST」は調べてみると、こんな意味がありました。
グラント家は、退かない/頑なに伝統を守る
ブレンディッド・ウイスキー事業へ進出するにあたり、創業者ウィリアム・グラントの不退転の心意気を感じる気がします。
(ちなみに、この「STAND FAST]はグラント家のモットーなのだそうです。)
そして、結果的に、このブレンディッド・ウイスキー「グランツ」は、そのコスパで成功をおさめるのです。
凄いぞ! ウィリアム・グラント&サンズ社!!
■ウィリアム・グランド&サンズ社がブレンディッド・ウイスキー「グランツ」を発売した背景
実は、グランツ発売の背景には、スコッチウイスキー業界を揺るがした大事件=「パティソン事件」が影響しています。
これについては次回ご紹介させていただきます!
■業界初のシングルモルト・ウイスキー「グレンディディック」
前置きが長くなりましたが、今回の本題に入ります。
1898年にブレンディッド・ウイスキー「グランツ スタンド・ファスト」を発売したウィリアム・グランド&サンズ社は、1963年に業界初のシングルモルト・ウイスキー「グレンフィディック」を発売します。
ん? なんか違和感ありますよね。
このシングルモルトを「初めて発売」って。
私も、そう思います。
実は、「ブレンディッド・ウイスキーも正式にウイスキーと認めます」と1909年に裁判所の判決が出てからは、スコッチウイスキー業界では、半世紀以上に渡って、流通する製品は「ブレンディッド・ウイスキーしか存在しない」状態となっていました。
なぜなら、消費者が、「コスパの良いブレンディッド・ウイスキーを求めていた」からです。
ウイスキー業界は、一気にブレンディッド・ウイスキーの時代へ雪崩込み、「ウイスキーといえば、ブレンディッド・ウイスキーしか存在しない」状態が半世紀以上続いたのです。
その「ウイスキー=ブレンディッド」の時代の中で、また家族経営ならではのフットワークの軽さを持つウィリアム・グラント&サンズ社が、斬新な商品=シングルモルト・ウイスキーを発売したのです!
■グレンフィディック ストレート・モルト
1963年にシングルモルト仕様の「グレンフィディック」を発売した時には、「シングルモルト」という単語すらありませんでした。
そして、発売時にターゲットのエリアを米国に設定していたこともあり、アメリカン・ウイスキーで用いられるフレーズ「ストレート・ウイスキー」に倣って、『ストレート・モルト』と名付けたそうです。
ただ、最初は、全然売れず。
業界でも、
と思われていたことでしょう。
しかし、次第に「時代」が、そして「消費者」が、それに追いつきます。
円やかなバランスの取れたブレンディド・ウイスキーしかない時代が続く中、個性的で「地酒的」な味わいのモルト・ウイスキーが再発見され、注目されるようになったのです。
『優等生ばかりでは、面白くない』ということだと思います。
(これ、サントリー名誉チーフブレンダー輿水精一さんが、NHKのプロフェッショナルで、ウイスキー原酒の熟成について語ったコメントのパクリです。)
そうなると、最初に発売されたシングルモルト・ウイスキー「グレンフィディック」は、その爽やかな酒質と相まって、時代を経るごとに徐々に売上を伸ばします。
そして、シングルモルト・ウイスキーの売上で、長く1位の座に君臨したのです。
ごく直近ではグレンリベットに僅差で抜かれたようですが、今もシングルモルト・ウイスキーでは、常にNo.1を争う人気銘柄となっています!
やっぱり、凄いぞ! ウィリアム・グラント&サンズ社!!
■個人的に思うこと
ウィリアム・グランド&サンズ社は、
ということが、一番有名です。
確かに、現在の世界的なモルトウイスキーのブームを目の当たりにし、その中でもトップクラスの販売ボリュームを誇るグレンフィディックの現状からは、その先見の明が素晴らしかったこと、またウイスキー業界に大きな文化をつくったことに、間違いはありません。
ただ、「経営」という視点で考えると、個人的には
ということの方が、勇気を必要としたと思うのです。
だって、ブレンド会社(ウイスキーメーカー)が牛耳っていた業界で、納入業者であるウィリアム・グランド&サンズ社が、自らブレンディッド・ウイスキーを発売することは、ある意味「賭け」にも近いチャレンジだったと思うのです。
「ウィリアム・グランド&サンズ、自社でブレンディッドを販売とか、ムカつくわー。うちらのブレンディッドが売れなくなるやん。 みんな! あそこから原酒を買うのはやめようぜ!!」
と、結託したブレンド会社側に、潰された可能性だってあったでしょう。
一方で、シングルモルトを発売したことは、ウイスキー文化への貢献に、非常に大きな意味を持ちますが、業界においては
程度の反応で、「お前、潰してやるわ!」というほどのコンフリクトではなかったと思います。
ウィリアム・グランド&サンズ社が、
のどちらが凄いかを議論してもしょうがないのですが、サラリーマンの身のチャーリーとしては、生産者が直販をはじめた「ブレンディッド・ウイスキーの発売」に凄さを感じるのでした。