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『岩井喜一郎と竹鶴政孝』 似通う3蒸溜所のポットスチル 《岩井と竹鶴④》
■前回からの続きです。
岩井と竹鶴の繋がりを追う4回目=最終回となります。
前回までのおさらいです。
◇竹鶴政孝
「大阪大学・醸造学部の先輩」であり、当時の「アルコールメーカー大手:摂津酒造・常務」の岩井喜一郎を頼って、摂津酒造に入社。
会社命で、スコットランドでウイスキー修行。
帰国後、ウイスキー参入計画が頓挫していたので、摂津酒造を退社。
アルバイトの後、壽屋(現・サントリー)の山崎蒸溜所・初代工場長に就任。
壽屋との10年契約の満了で、北海道・余市で大日本果汁(現・ニッカ)を創業。1936年、余市蒸溜所でウイスキーづくりを開始。
◇岩井喜一郎
竹鶴がいなくなったあとに摂津酒造を退社。
縁があって1945年に本坊酒造の顧問に就任。
同社の1949年のウイスキー事業参入の際のアドバイザー。
1960年、山梨県・石和工場でのウイスキー事業への本格参入に際しては、生産設備をプロデュースするなど、サポート。
◇繋がる3つの蒸溜所
1923年 サントリー 山崎蒸溜所
1936年 ニッカ 余市蒸溜所
1960年 本坊酒造 石和工場
(ウイスキー&ワイン)
今回はこの3つの蒸溜所の共通点について、解説してみたいと思います!
■似通う3つの蒸溜所のポットスチル
前述した3つの蒸溜所のポットスチルに、スポットライトを当ててみたいと思います。
◇1923年 サントリー 山崎蒸溜所
竹鶴が工場長として立ち上げた山崎蒸溜所の初代ポットスチル。
◇1936年 ニッカ 余市蒸溜所
竹鶴が独立して自身で立ち上げた余市蒸溜所の初代ポットスチル。
◇1960年 本坊酒造 石和工場
(ウイスキー&ワイン)
岩井が顧問として、竹鶴ノートを参考に立ち上げたマルスウイスキーの初代ポットスチル。
この3蒸溜所の初代のポットスチルは、はどれも『竹鶴ノート』(竹鶴のスコットランドでの研修報告)の情報がベースとなっているのです!
ということは・・・
その形状が似ているのです!!
■サントリー山崎蒸溜所
山崎蒸溜所では、2013年にポットスチルを4基(初溜2基/再溜2基)を増設しています。
(見学コースで一番よく見かける「初溜6基/再溜6基=計12基」が並んでいる部屋とは、違う部屋に増設されました。)
その増設されたスチルは「開業当時のスチルの形状に似せている」と言われています。
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※下記のウイスキーマガジンの記事から転載
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※下記のウイスキーマガジンの記事から転載
山崎蒸溜所 新蒸溜釜発表会 | WHISKY Magazine Japan
特に初溜器が、「三角錐」みたい特徴的ですよね!
■ニッカ余市蒸溜所
こちらが現在の余市蒸溜所のポットスチルです。
竹鶴さんの実家が、日本酒の酒蔵だったので、ポットスチルに「しめ縄」をしているのが、珍しい光景です。
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このスチルの中で、(見えにくいですが)「真ん中の小さいポットスチル」と、その「右側のポットスチル」の『2器』を合わせて見比べてみると、さっきの山崎蒸溜所に増設されたスチルと形状が、かなり似ていますよね。(右側のスチル↓が、サイトグラス=窓みたいなヤツがあるので初溜器)
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■マルス駒ヶ岳蒸溜所
摂津酒造で竹鶴の上司だった岩井が、本坊酒造に移ってからプロデュースしたポットスチルがこちらです!
(今も駒ヶ岳蒸溜所の入口に飾られています!)
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この右側のポットスチルの形状(三角錐みたい)が、上記の山崎や余市にある初溜器と、似ていますよね。
また、左側のスチルも山崎や余市のものと似ています。
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初代ポットスチル(再溜器)
※ 下記の読売新聞 名言巡礼から転載
名言巡礼 鳥井信治郎の言葉 大阪府島本町 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
そして、駒ヶ岳蒸溜所では、ポットスチルの入替がありましが、入替後も以前からのポットスチルの形状を、基本的には踏襲しています。
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(左側:再溜器 / 右側:初溜器)
■(おまけ)スコットランド:ロングモーン蒸溜所
竹鶴はスコットランドでは何ケ所かの蒸溜所で修行していますが、ポットスチルについては最初に修行したスペイサイドのロングモーン蒸溜所のものを参考にしたと言われています。
そのロングモーン蒸溜所のポットスチルがこちら↓
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【特集】ロングモーン蒸留所(Longmorn)|場所・歴史・製法・ボトルの種類と味わい|ウイスキーラウンドアップ (whisky-roundup.com)
山崎・余市・駒ヶ岳の初代ポットスチル(2器=1対)のうちの、再溜器に似ていますよね!
■なんかロマンのある話
こうして一気通貫に比べて見てみると、竹鶴ノートがそのデザインのベースとなっているポットスチルは「なんとなーく」似ていますよね。
ただ、マニアな観点から言えば、ラインアームの角度(マニアックすぎてスミマセン)とかが違ったりするので、
「全然、違うぞ!」
という声も聞こえてきそうです。
ただ、日本のウイスキー史を振り返りながら、こんな感じでポットスチルの形状を確認して見ると、
連綿と引き継がれる
「ジャパニーズウイスキーの系譜」
といった感じで、何かロマンがありますよね。
以上で、岩井と竹鶴についての4話の終了です。
お付き合い、ありがとうございました!