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売るものがなくなっちゃうよ! 『ミルク&ハニー蒸溜所』
■ミルク&ハニー蒸溜所とは?
イスラエルにある蒸溜所で、頭文字をとって「M&H」というロゴがラベルに書かれていたりします!
もともとは、ITエンジニアのガル・カルクスタイン氏らが2012年に、イスラエル初となるモルトウイスキー蒸溜所として、首都テルアビブに設立。
そして、2014年に操業を開始しています。
ちなみに、印象的な「ミルク&ハニー」という蒸溜所名にした理由は、2つあります。
まず1つ目の理由は、ミルクとハニー(蜂蜜)が、イスラエルの名産品であることが挙げられます。
そして、メインの理由は2つ目で、旧約聖書に由来する名前だからです。
旧約聖書では『カナン』という土地が、「神がアブラハムの子孫に与えると約束した土地」であると書かれていて、『約束の地』とも呼ばれています。
このカナンの地は「地中海とヨルダン川・死海に挟まれた地域一帯」とされ、つまりは今のイスラエルの場所です。
そして、そこ(カナン=約束の土地=イスラエル)は、旧約聖書で『乳と蜜の流れる場所』と描写されているのです。
この「乳」と「蜜」から、ミルク&ハニー蒸溜所というネーミングが来ています。
そういう意味では、極めてイスラエルっぽいネーミングということになりますね。
そして、ユダヤ教の戒律である「カシュルート」に準じた製品づくりを行っているそうです。
カシュルート - Wikipedia
カシュルートはいわば食品法で、このカシュルート的にOKな食品をコーシャと呼びます。
カリュルートより、この「コーシャ」というフレーズの方が、耳にすることが多いのではないでしょうか?
■故ジム・スワン博士
故ジム・スワン博士を知っている方は、相当なウイスキー通かと思います。
超有名なウイスキー蒸溜所のコンサルタントで、2000年以降に新設された名だたる蒸溜所をコンサルしています。
有名なところでは、台湾のカバラン蒸溜所をコンサルティングしています。
カバランで使われている熟成樽で有名な、STR樽は、ジム・スワン博士の提案で採用している樽です。
◇STR樽
S = シェービング
T = トースティング
R = リ・チャーリング
赤ワインに使った樽を、削って(シェービング)、じっくり炙って(トースティング)、もう一度強く焼いた(リ・チャーリング)樽です。
進化するワイン樽熟成【第2回/全3回】 | WHISKY Magazine Japan
で、このジム・スワン博士は、このミルク&ハニー蒸溜所をコンサルしただけでなく、この蒸溜所の初代マスター・ディスティラーにも就任しちゃっています。
ジム・スワン博士のコンサルでは、つくりのメインの部分はオーセンティックなスコッチウイスキーの製法そのものなのですが、枝葉の部分はSTR樽の使用でわかるように色々と機動的に工夫を加えることが多いです。
そして、その土地ならではの熟成を重要視します。
ミルク&ハニー蒸溜所では、ワインづくりが盛んなイスラエルなだけにワイン樽を熟成につかっています。
そうなると、せっかくワイン樽があるのだから、ジム・スラン博士オススメの赤ワイン樽に加工を加えた、STR樽も使っています。
もちろん一般的なバーボン樽や、その他にラム樽なども使っていて、熟成樽の種類は豊富です。
■ミルク&ハニーの熟成
ジム・スワン博士が、「その土地の気候風土を宿した原酒」を大切にしていたので、ミルク&ハニー蒸溜所は、色々なところでの熟成を行っています。
現在は、蒸溜所のあるテルアビブの他に、死海、ネゲヴ砂漠、ガリラヤ湖、ユダヤ山脈と、イスラエル国内の5つの地域にウェアハウスを所有し、熟成を行っているそうです。(今後、もっと増えそうですね。)
ジム・スワン式にスコッチウイスキーに倣って空調などを全く使用しないので、その熟成環境の影響をモロに受けた原酒となっています。
(バーボンでは、ヒーターで庫内を暖めるなど、ウェアハウス内の温度調整をすることがあります。)
■本題の・・・
その5ケ所のウェアハウスの中で、スーパー特徴的なウェアハウスが、「死海」のほとりのウェアハウスです。
何が特徴的かというとコレ↓
エンジェルズ・シェア = 25% !!
ウイスキーは熟成中に蒸発して無くなってしまう分があります。
これをエンジェルズ・シェア(天使の分け前)と言いますが、ざっくりで日本の場合では、年間で3%程度の目減りです。
それが、25%とは!!
数年で中身が無くなっちゃうYO!
イスラエルの天使は飲み過ぎ!!
で、中身が無くなっては困るので、ある程度、熟成が進んだら、他の熟成庫へ移送するそうです。
■なんでそんなにエンジェルズ・シェアが高いの?
なぜ、エンジェルズ・シェアが25%にも達するのでしょうか?
・海抜-432mという世界で最も標高の低い湖=死海のほとり
・熟成している場所が、死海ほとりのホテルの屋上のようなところで、日中は季節によっては50度まで気温が上昇
・年間300日が晴天のイスラエルの中でも、盆地でムチャクチャ乾燥している
「低い標高」「高温」「乾燥」の3つの熟成環境が揃っての効果だと思います!
特に影響するのは、やはり「乾燥」です。
死海は、極度に乾燥した環境なので、流れ込んだ水が流れ出す川がなく、水が蒸発して塩分濃度が濃くなることで、生まれた塩湖です。
死海 - Wikipedia
それくらい、乾燥しているということですね!
このエンジェルズ・シェア25%の木樽熟成を経た原酒は、「死海」というおどろおどろしいワードと、「気温50度」という激しい環境からは想像もつかないような「まろやかさで深い熟成感」になったそうです。
ちなみに、真逆のエンジェルズ・シェアはこちら ↓
ハンパじゃないエンジェルズ・シェア 桜尾蒸留所《戸河内貯蔵庫》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)
◾️味わいは
その「まろやかさで深い熟成感」は、いわば「ミルキーでハニーな」味わいと言えるかも知れません。
死海のほとりに限らず、それぞれのウェアハウス毎でボトリングされた原酒を飲み比べてみたいものですね!
※タイトル写真は、死海の風景です。