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バーボン業界の多ブランド生産~ブレンドに対する文化の違い~《アーリー⑩》

■前回までのまとめ

・2021年6月、アサヒビールにより日本国内で販売されていたアーリータイムズ・イエローラベルが突如休売。(そのまま2022年6月、日本での取扱終了)
・なぜアサヒビールの取扱が終了してしまったのか?というと、商品の供給が追いついていないから。
・それは澱が発生した商品があって、その確認のため出荷を止めていたためと言われている。
・なぜ澱が発生したかというと、私チャリーの推測では、「米国での製造元が変わり、製造工程が変わったから」であり、特に「ろ過工程が変わったのではないか?」。
・そして、そもそもバーボン業界では、度々業界が再編されたために、バーボン・ブランドの売買が、盛んに行われてきた歴史と素地がある。
・そのバーボン・ブランドの売買では、買収後に蒸溜所が閉鎖されることも多かったので、『1蒸溜所で多ブランド生産』するケースが多い。
ブランドの買収後すぐに蒸溜所が閉鎖されるのはスコッチにはあまりなく、バーボン業界の独特の文化
・買収後すぐに蒸溜所が閉鎖されるのは、「原酒づくりのスタイルの違い」「ブレンドに対する文化の違い」から来ており、前回前者をご紹介。

今回はバーボンとスコッチの「ブレンドに対する文化の違い」についてご案内します。


■バーボン業界の「ブレンド」に対する考え方

バーボンでは、ブレンディット・スコッチのように、「多くの蒸溜所の原酒をブランドする」というケースはほとんどなく、1蒸溜所でつくった原酒のみから、そのバーボン・ブランドを生産しています。
(前述した通り、マッシュビルなどを変えることで、多彩な種類の原酒をつくり分けてはいますが。)

「1つの蒸溜所の原酒のみを使用」しているという点では、バーボンというものはスコッチ的視点では、『シングルモルト・ウイスキー的である』と言えるでしょう。
つまり、異なる蒸溜所の原酒を混ぜ合わせる「ブレンディッド・バーボン」なるものは基本的には存在せず、どのバーボンも「シングルバーボン・ウイスキー」と言うことができるわけです。


■ブレンディッド・ウイスキーのブランド売買

一方で、スコッチ業界。
スコッチウイスキー全体を見渡した場合、未だに流通量の大半をブレンディッド・ウイスキーが占めています。

そのスコッチの「ブレンディッド・ウイスキー」では、バーボンと同様、「ブランド売買」が行われて来ました。

それは、ブレンディッド・スコッチの場合、ブランドを売却しても、そもそもウイスキー原酒は、自社以外を含めた色々な蒸溜所と売買をして入手してブレンドしている文化なので、ブランド権とともに「ブレンドレシピ」を入手できれば、味の再現が可能だからです。


■シングルモルト・ウイスキーのブランド売買

しかし、シングルモルト・ウイスキーのブランドとなると、スコッチのブレンディッドやバーボンのように、「ブランド名だけ」を売買することができません。
大きく2つの理由が挙げられます。

◇    理由①
シングルモルト・ウイスキーの場合、言葉の定義として
「1つの蒸溜所でつくられた原酒のみを使用」しなければならず、
「蒸溜所名とシングルモルト・ウイスキー・ブランド名」はセット
になっているので、ブランド名だけの売買はできないから。

例えばラフロイグ蒸溜所が、同じアイラ島内のラガヴーリン蒸溜所の「ラガヴーリン」というシングルモルト・ウイスキー・ブランドを買収したと仮定します。
では、ラフロイグ蒸溜所で、ラガヴーリンというシングルモルト・ウイスキーをつくることはできるのでしょうか?

答えは否。

言葉の定義として、ラガヴーリン蒸溜所でつくるモルトウイスキーだからこそ、「ラガヴーリン」と名乗ることができるわけです。
たとえ買収でシングルモルト・ウイスキーのブランド名とともに、レシピや製法も入手し、それに則ってラフロイグ蒸溜所でラガヴーリンをつくったとしても、それは「ラガヴーリン風のラフロイグ」であって、ラガヴーリンとは名乗ることができないのです。


◇    理由②
モルトウイスキーを製造するにあたっては、気候風土の影響をもろに受けるので、その土地でないと、同じ酒質の原酒をつくることができないから。

この解説は前回記事の「バーボンとスコッチの原酒づくりのスタイルの違い」と被るので、今回は具体例をご紹介します。

再び、「ラフロイグ蒸溜所」&「ラガヴーリン蒸溜所」です。
この2つの蒸溜所は同じアイラ島の南岸の海沿いにあり、2マイル(=3kmちょい)しか離れていません。
その昔、ラガヴーリン蒸溜所を所有していたピーター・マッキーさん(ブレンディッド・スコッチのホワイトホースの生みの親)が、お隣のラフロイグ蒸溜所にブチ切れたことがあります。
(この話、ムチャクチャ面白いので、詳細はいつか記事化したいと思います。)

ブチ切れマッキーさんは、
「うちの方がお前んトコよりもデカい会社なんだから、なめんなよー! 同じウイスキーをつくって、ぶっ潰してやるー!!」
と、ラガヴーリン蒸溜所内に、ラフロイグそっくり蒸溜所(正式名:モルトミル蒸溜所/1908~1962年)を建設します。

そして、わざわざラフロイグ蒸溜所からスタッフも引き抜いて、生産開始!
できあがったモルトウイスキーの味わいは・・・

「これ、ラフロイグと全然違うじゃん!」
というものだったそうです。

このように、この3kmくらいしか離れておらず、同じ海岸沿い立地にも関わらず、「同じ味わい」をつくり出すことができないわけです。
もっと距離の離れた蒸溜所では、ますます「同じ酒質のモルトウイスキー」をつくることは困難ということになります。

逆に言うと、その土地でしかつくることのできない「地酒」であるからこそ、シングルモルト・ウイスキーとしての「個性」が際立ち、それこそがシングルモルトの『魅力』なのだと思います!


■まとめ(バーボン/スコッチ 比較)

◇原酒づくりのスタイルの違い
・バーボン:短期熟成、製法によるつくり分け
  ⇒ 買収後の蒸溜所集約:可能

・スコッチ:長期熟成、気候風土によりつくり分け
  ⇒ 買収後の蒸溜所集約:不可能
◇ブレンドに対する文化の違い
 ・バーボン:単一蒸溜所の原酒のみ
 (でも製法を入手できれば他の蒸溜所でもつくることが可能)
  ⇒ 買収後の蒸溜所集約:可能

・ブレンディッド・スコッチ:複数蒸溜所のモルト原酒&グレーン原酒をブレンド
 (レシピを入手できれば原酒を購入することで再現可能)
  ⇒ ブランド買収と蒸溜所集約とは別問題

・シングルモルト・スコッチ:単一蒸溜所の原酒のみをブレンド
 (言葉の定義として他の蒸溜所ではつくることができない / 酒質の観点から他の土地ではつくることができない)
  ⇒ 買収後の蒸溜所集約:不可能

上記理由から「ブランド買収後の蒸溜所の閉鎖・集約」はバーボン業界独特の文化であり、
それが「1蒸溜所・多ブランド生産」となり、

バーボン・ブランド売買の商慣習が根付いている中で、アーリータイムズは、ブラウンフォーマンからサゼラックへ売却され、

売却とともにつくり手が変わり、
結果、アーリータイムズ・イエローラベルの酒質が変わった(のではないか?)、

というのが私チャーリーの推測です。

次回は、バーボンの「1蒸溜所・多ブランド生産」がもたらせた、「バーボンはカスタマイズ製品が多い」について解説します!

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