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まったく新しい着眼点 限定品:グレンモーレンジィ・フォレスト
■グレンモーレンジィの限定品
◇前回のまとめ
・グレンモーレンジィは「樽の魔術師」とも呼ばれ、ウッドフィニッシュ商品のパイオニア。
・よりチャレンジングなウッドフィニッシュ商品を開発するため、2010年からプライベート・エディション・シリーズを第10弾まで発売した。
・2020年から、新たに「物語シリーズ」という限定品を発売。
◇今回は
・2023年2月15日、物語シリーズ第三弾:フォレスト発売。
このフォレストの商品スペックが「そう来たか!」というものだったのでご紹介します!
■グレンモーレンジィ・フォレスト
◇公式コメント
松やジュニパーの香りを縁取る微かな薫香と深緑のユーカリ。
ビターオレンジの光が優しいオーク香のフィニッシュへと導きます。
森の中にいるような、みずみずしいボタニカルなアロマあふれるシングルモルトの誕生です。
A TALE OF THE FOREST | グレンモーレンジィ スペシャルサイト (mhdkk.com)
ふむふむ。森をイメージした味の設計なのだな!
◇商品スペック
ビル博士は、自宅近くの森の景色、音、香りにいつも魅了され、それらをウイスキーの中に表現することを常に想い描いていました。
そして何年も前に、古代のウイスキーメーカーたちが苔や倒木、ヘザーなど森にあるさまざまな燃料を使って大麦を乾燥させていたことを思い出し、さまざまな植物を使って穀物を乾燥させる実験を開始しました。
試行錯誤の結果、ヘザー、ジュニパーベリー、白樺の樹皮が最も芳しい香りと森を想起させる風味を与えることを発見。こうして乾燥させた大麦を使って、貴重なスピリッツを蒸留しました。
新作「グレンモーレンジィ フォレスト」が2月15日に発売/モーレンジファンは必飲! (barrel365.com)
な、な、なに~!!
製麦工程の麦芽の乾燥で『森のさまざまな植物』を使っただとぅ!!
■大麦麦芽とは?
モルトウイスキーでも、ビールでも、基本的には大麦麦芽を使います。
『大麦麦芽』は、収穫された大麦を、水に浸してちょっと発芽させてから、乾燥して「保存性」を高めたものです。
ちょっと発芽させているので麦「芽」という名前であり、発芽させることで麦芽内に、お酒づくりに必要な酵素ができるのです。
したがって、お酒づくりでは、生の大麦と大麦麦芽は、明確に「区別」しています。
ちなみに、ウイスキー検定では、以下のひっかけ問題が良く出てくるので要注意ですよ!
【設問】 大麦を英訳すると?
《ひっかけ回答》 malt: モルト
《正式回答》 barley:バーレイ
ちなみに、ウイスキー蒸溜所でも、ビール醸造所でも、大麦麦芽を自社でつくっているケースは少なく、基本的には専門の麦芽製造会社にスペックを指定して、購入することがほとんどです。
■湿った大麦の「乾燥方法」と『フェノール値』
麦芽をつくる際、水に浸して発芽させてから、湿っている大麦を乾燥させる必要があります。
古くは、スコットランド(特に木の少ないアイラ島)では、ピートと呼ばれる泥炭がその熱源として使われて来ました。
◇ピート
スコットランド北部の原野に多い野草や水生植物などが、炭化した泥炭のこと。
「ピート」とはなんですか? サントリーお客様センター (suntory.co.jp)
ピートを使って「湿った大麦」を乾燥させると、『独特の薫香』が麦芽に付きます。
それがウイスキーの個性を形づくる、大きな要素の1つとなるのです。
一般的に、麦芽につくピート香はppmというフェノール値で表され、ノンビート麦芽でつくるウイスキーでは、それが0に近づきます。
一方で、アイラ島のウイスキーでは、
・ボウモア12年=25ppm
・ラフロイグ10年=45ppm
・アードベッグ10年=55ppm
といったフェノール値となっています。
「麦芽のフェノール値=できあがるウイスキーのスモーキー感」は、完全に一致しているわけでなく、その後の製造工程により製品化されるウイスキーに残るスモーキー感は前後します。
ただ、ざっくり「フェノール値=スモーキー感」となるので、我々、ウイスキー愛好家にとっては、このフェノール値というものが気になるのです。
ピートで乾燥させていた熱源は、その後、より効率の良い熱源として石炭へ変わり、今は熱風を送り込むようになっています。
そのため、現在は「大麦を乾燥させる」という意味においては、ピートを使う必要はないです。
しかし、『狙ったウイスキーの味わい=スコーキーさを実現させる』という目的において、製麦の乾燥工程でピートを使用します。
(ずっとピートを焚いているわけでなく、より大麦が湿っている乾燥工程の前半にのみ使用することが、ほとんどです。)
■ピートの採取地の違いが与える「ウイスキーの個性」の違い
ピートの焚き加減が、麦芽のフェノール値、ひいてはできあがるウイスキーに違いを与えると書きました。
ただ、そのピート香の「大小」だけでなく、ピートを燃やした際に発する「香り自体」も、そのピートが「どの土地でとれたのか?」によって異なります。
例えば、強烈な個性で有名な「ラフロイグ」で使っているピートは、アイラ島の海に近い土地から採取されるため、その塩気的なものが麦芽につくと言われています。
一方で、同じアイラ島でも「ボウモア」で使っているピートは、アイラ島内の丘のような土地から採取されるそうで、ラフロイグほどは塩気を感じさせず、アイラ・モルトでは中庸的な味わいとされます。
さらに、安旨スモーキー・シングルモルトとして人気の東ハイランドの「アードモア」は、ハイランドの山の中のピートを使っているので、スモーキー感はありますが、塩気はなく、たき火のようなフレーバーを感じます。
このように、ピートの「採取地の違い」による麦芽のスモーキー感の「個性の違い」は、すでに注目されていて、国内外の蒸溜所が取り組みを始めています。
特に注目すべきは、北海道・厚岸蒸溜所です。
すでに自社製麦に着手し(通常は麦芽専門会社から麦芽を購入する)、そこで厚岸産のピートを使う計画だそうです。
大麦の生産から、熟成に使う樽のミズナラまで、オール厚岸の「厚岸オールスターズ」の誕生を目指しているそうなので、かなり近い将来に飲めそうですね。楽しみ!
■コロンブスの卵的発想、ビル・ラムズデン博士
ここで、話が戻って、グレンモーレンジィ・フォレストです。
(再掲)
古代のウイスキーメーカーたちが苔や倒木、ヘザーなど森にあるさまざまな燃料を使って大麦を乾燥させていたことを思い出し、さまざまな植物を使って穀物を乾燥
ピートの採取地が違うどころか、そもそも熱源となる「燃やすもの」に、森の「ボタニカル」も使用!!
これ、コロンブスの卵的な発想の転換です。
さすが、ラムズデン博士。
私チャーリーごときでは、まったく思いつきませんでした。
私も薄々、以下のように思っていました。
・アイラ島では、木が少ないので、ピートを生活全般の熱源にしていたことは頷ける。
・ただ、ウイスキー密造のメッカ「ハイランドの山奥=スペイサイド」などでは、もちろん木がいっぱいある。
・だから、ピートだけではなく、「薪」や「枯葉」なども、湿った大麦を乾燥させる熱源として使っていたんじゃないの?
そう思っていたので、「古代のウイスキーメーカーたちが苔や倒木、ヘザーなど森にあるさまざまな燃料を使って大麦を乾燥」は、メチャメチャわかる気がします。
だって、とにかく、とっとと湿った麦芽を乾燥させたいわけで、苔だろうが枯葉だろうが、「燃やせるものは、ジャンジャン燃やしていた」と思うのです。
■ピート以外も大麦乾燥に使うことでの多様性
現在のクラフトジン・ブームの理由の一つに「その土地ならではの色々なボタニカルが使用できる」ということが挙げられます。
同様に、今後、モルトウイスキーの原料となる大麦麦芽の乾燥に、「その土地ならでは」の熱源を加えることができるとしたら、とても面白いことになりそうですね。
(例えば、海際の蒸溜所なら、乾燥させた海藻を燃やしてみるとか)
妄想が止まりません・・・