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スコッチの最低熟成期間の法規定は「第一次世界大戦」が原因!?
■ジャパニーズウイスキーの定義
日本洋酒酒造組合から、2021年2月に「ジャパニーズウイスキー」の定義が発表されました。
これは「ウイスキー」の定義ではりません。ある一定の基準を満たしているウイスキーを「ジャパニーズウイスキー」としてアピールできるようにするために、ウイスキー業界が取り決めた内容です。
ワインの「国産ワイン」と「日本ワイン」の違いと、同じ感じです。
日本ワインと国産ワインの違いを知っていますか? | エノテカ - ワインの読み物 (enoteca.co.jp)
さて、そのジャパニーズウイスキーの定義です。
◇ジャパニーズウイスキーの定義(抜粋&要約)
・原材料は、麦芽、穀類、日本国内で採水された水に限る。(麦芽は必ず使用)
・糖化、発酵、蒸留は、日本国内の蒸留所で行う。(蒸留の最高Alc. 95 度未満)
・700L以下の木製樽に詰め、 3 年以上日本国内において貯蔵。
・日本国内において容器詰め。(充填時の最低Alc.40 度以上)
自主基準|日本洋酒酒造組合(公式ホームページ) (yoshu.or.jp)
これは基本的にはスコットランドにおけるウイスキーの法定義を踏襲した内容となっています。
そして、「スコットランドのウイスキーの法定義」は、ワールドスタンダードとなっていて、世界各国で急増するクラフトを含めたウイスキー蒸溜所でも、(その国でウイスキーの定義があろうがなかろうが)基本的には「スコッチウイスキーの定義」に準じたスペックのウイスキーづくりを行っていることがほとんどです。
その中で今回から取り上げたいのが、「木樽熟成期間は3年以上」という規定です。これはアイリッシュウイスキー、カナディアンウイスキーでも同様の「3年」となっています。
この規定が、どのような背景から、いつ制定されたのかについて、何話かに渡って解説してみたいと思います。
■スコッチの3年熟成の誕生
この「スコッチウイスキーの熟成期間=3年以上」の規定は、1916年に、英国において法律で制定されました。
でも実は、その前年の1915年に「スコッチウイスキーの熟成期間=2年以上」が制定されていて、それが初めての法的な最低熟成期間の制定ということになります。
「熟成期間は2年間!」と決めたすぐ1年後に、もう1年 熟成期間が延びたということですね。
そして、この時期にはある大きな出来事がありました。
1914年にはじまった第一次世界大戦です!
実は、第一次世界大戦が、このスコッチの最低熟成期間の制定に大きく関わっています。
■アメリカにおける禁酒法
禁酒法は、アメリカ合衆国で、1920年~1933年まで施行されていました。
・つくっちゃダメ
・運んじゃダメ
・売っちゃダメ
という法律でしたが、
・手元にあるお酒は飲んでOK
・医療用のお酒は飲んでOK(←養命酒じゃないんだから何じゃそりゃ)
といういわゆるザル法だった上、
・アル・カポネをはじめギャングが大活躍してお酒を密輸・密売!
・ギャングがはびこることで、治安が大幅に悪化!
・飲むなと言われると飲みたくなるので、禁酒法前よりお酒消費量が増えた!
という、超ダメダメな法律でした。
アメリカでは19世紀後半~20世紀前半にかけて、各地で禁酒法制定の声が上がっていました。
アメリカが国全体の法律として禁酒法が施行されたのが1920年からですが、それより前から州レベルでは禁酒法が制定されていて、その結果が全土での禁酒法の施行ということです。
なので、逆に言うとアメリカでは、今でも禁酒法が施行されているエリアは多いのです。
「アメリカ人=ガバガバとビールやバーボンを飲む」という勝手なイメージがあるから意外ですよね。
この禁酒のレベルも色々あって、「レストランはダメだけど、ゴルフ場はOK」とか、「ウイスキーはダメだけど、ビールはOK」とか、〇か×かという二択でなく、色々なパターンがあります。
そして、今も禁酒法が施行されている地域で、ある意味一番有名な郡が、テネシー州のムーア郡です。
なぜならここには、あのジャックダニエル蒸溜所があるからです!!
そのため、ジャックダニエル蒸溜所では、試飲ができないのだとか!
Oh! NO!!
郡によっては禁酒法以前に創業した業者に配慮し製造を認めていることもある。
ジャックダニエルの本社と蒸留所があるテネシー州ムーア郡は販売が禁止されているため、蒸留所の見学ツアーで試飲ができない。ただしテネシー州法の例外規定として、併設された売店では、ツアーに参加した観光客向けとして少量の販売が認められている。
■イギリスにおける禁酒法
禁酒法というと、このアメリカ全土での禁酒法が有名すぎるので、他がかすんでしまうのですが、アメリカだけではなく、他の国や地域でも導入されていた(今もされている)事例があります。
それこそスコットランドでも導入されていた都市があるのです!
プルトニー蒸溜所で有名なスコットランド北部のウィックでは、1925~1947年まで禁酒法が制定されていました。
ウィックは、ニシン漁で有名な港町です。
ニシンが大量に獲れたどー!
と船が港に寄港して、海の男達が陸に上がれば、ムチャクチャ飲みそうですよね!?
なんか、日本の昔の港町でもありそうな流れ。
で、ウィックではお酒(主にスコッチ)が超大量に消費され、酔っ払いばかりになってしまったので、禁酒法が制定されたそうです。
プルトニー蒸溜所を訪ねて【前半/全2回】 | WHISKY Magazine Japan
ウィックに限らずイギリス国内では、19世紀後半~20世紀前半に禁酒法を主唱する人が多くいました。
それだけ当時、お酒が日常に入り込むとともに、「飲み過ぎ」が問題となっていたわけですね。
やっぱり適正飲酒が大切!!
■イギリスにおける禁酒法主唱の急先鋒
それが、第一次世界大戦の頃に首相を務めた政治家ロイド・ジョージです。(在任1916〜1922)
この「ロイド・ジョージ vs ウイスキー業界」のバトルが、ウイスキーの最低熟成期間の制定へと繋がっていくのです!
次回へ続きます。