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バーボン業界の多ブランド生産~原酒づくりのスタイルの違い~《アーリー⑨》

■前回までのまとめ

・2021年6月、アサヒビールにより日本国内で販売されていたアーリータイムズ・イエローラベルが突如休売。(そのまま2022年6月、日本での取扱終了)
・なぜアサヒビールの取扱が終了してしまったのか?というと、商品の供給が追いついていないから。

・それは澱が発生した商品があって、その確認のため出荷を止めていたためと言われている。

・なぜ澱が発生したかというと、私チャリーの推測では、「米国での製造元が変わり、製造工程が変わったから」であり、特に「ろ過工程が変わったのではないか?」。
・そして、そもそもバーボン業界では、度々業界が再編されたために、バーボン・ブランドの売買が、盛んに行われてきた歴史と素地がある。

今回は、バーボン・ブランドの売買が盛んに行われたことによってもたらされたバーボン業界の特徴、『1蒸溜所で多ブランド生産』についてご紹介したいと思います。


■バーボンでは、1蒸溜所からつくられる銘柄数が圧倒的に多い

バーボン業界では「1蒸溜所で製造するブランド数が、べらぼうに多い」のが特徴のひとつです。

◇バートン1792蒸溜所(サゼラック社)
アーリータイムズ(2020年~)/ ベリー・オールドバートン / ケンタッキー・ジェントルマン / トムムーア / 1972 / ケンタッキータバーン / クレメンタイン etc.
◇バッファロートレース蒸溜所(サゼラック社)
バッファロートレース / ブラントン / サゼラック・ライ / イーグルレア / エンシャントエイジ / ジョージ・T・スタッグ / オールドテイラー / W.Lウェラー etc.
◇ヘブンヒル・バーンハイム蒸溜所(ヘブンヒル社)
ヘブンヒル / エライジャ・クレイグ / エヴァン・ウィリアムズ / ヘンリー・マッケンナ / オールド・フィッツジェラルド etc.
◇ジムビーム・クレアモント蒸溜所(ビームサントリー社)
ジムビーム / オールドクロウ / オールドグランダッド / ノブクリーク / ブッカーズ / ベイカーズ / ベイゼルヘイデン etc.

中小蒸溜所のバーボン・ブランドが、何度にもわたる業界再編により、大手メーカーへ売却されることが繰り返されたので、上位企業へブランドが集中したということは前述の通りです。

そして、バーボン業界では、売却されたブランドをつくっていた元々の中小蒸溜所を、ブランド売買後に閉鎖してきた歴史があるのです!
買収した側の大手メーカーの蒸溜所で、そのブランドを「買収時に入手したレシピ」に則って生産するケースが多かったので、1つの蒸溜所で製造するブランドが非常に多いのです。

ちなみに、メーカーズマーク・フォアローゼス・ワイルドターキーなどは、スコッチのシングルモルトのように、蒸溜所名=商品名で、1ブランド(とその派生品)しかつくっていませんが、バーボンの有名蒸溜所の中ではわりと稀なケースです。


■バーボンの「1蒸溜所・多ブランド生産」は、スコッチと異なる文化

スコッチ業界で、買収と同時に「ブランド名&レシピだけもらったら、後はこっちでつくるから、蒸溜所を閉鎖しますね」と、バーボン業界のようにドラスティックに蒸溜所を閉鎖する事例は、最近ではほとんど聞きません。

それは、バーボンとスコッチの

『原酒づくりのスタイルの違い』
『ブレンドに対する文化の違い』

から来ていると思います。
今回は、前者について解説します!


■バーボンVSスコッチ 原酒づくりのスタイルの違い

ウイスキーの原酒づくりへの「スタイル=考え方の違い」を確認します。

◇バーボンの原酒づくり
・短期熟成
(暑いし、乾燥しているし、新樽だからからすぐに熟成)
  → スタンダード品で4年程度の熟成

・最大の差別化ポイントは製法
(マッシュビル※1、木炭ろ過をするか 等)
  → 品質は属人的な傾向

▼マッシュビル(≒レシピ)や製法を教えてもらえば、他の蒸溜所でもその原酒をつくることができる

※1:バーボンをつくる際に使用する穀物の比率のこと。
バーボンは51%以上のコーンを使用しますが、100%ということはありません。(逆にいうと、コーン100%ではお酒はつくれません)
コーンに加え、「大麦麦芽」「ライ麦芽」「小麦麦芽」などを使用するので、その使用比率によって味わいが異なります。


◇スコッチの原酒づくり
・長期熟成
(寒いし、湿潤だし、基本的に中古樽だからゆっくり熟成)
  → スタンダード品でも12年程度の熟成 ※2

・最大の差別化ポイントは木樽熟成
  → 酒質は気候風土に委ねられる傾向

▼その場所に、その蒸溜所があるから、その原酒をつくることができる

※2:シングルモルトの場合。
(ただし、最近はノンエイジのシングルモルトも増えている)また、スタンダードのブレンディッド・スコッチに使う原酒はもっと短い熟成ですが、それでもバーボンよりは長期間の熟成。


■気候風土が織り成すお酒 スコッチウイスキー

このように、ウイスキー原酒をつくる際に、長期熟成かつ、熟成期間中に気候風土が原酒の酒質に大きく影響するスコッチでは、多くの蒸溜所を保有することが、原酒のバリエーションに直結し、それが強力な武器となります。
それ故、スコッチ業界では買収案件において、「ウイスキーブランド&レシピ」だけ入手して、蒸溜所を閉鎖するということはあまりないのだと思います。

ただし過去には、スコッチ業界全体がダウントレンド※で、生産量を調整するため買収後に「やむなく閉鎖」ということはありました。ただその時でも、「買収と同時」というケースほぼないと思います。
(※トレンドの波は数十年おきに何度もあったので、その度にダウントレンドを経験してきました。)

また、シングルモルト・ウイスキー人気の今、モルト蒸溜所は「ブレンディッド・ウイスキー用の原酒づくり」という役割だけにとどまりません。
そのモルト蒸溜所でつくられる原酒だけで「シングルモルト・ウイスキー」として、付加価値を付けて売ることができるようになっているので、なおさら買収と同時に閉鎖する理由がないのです。


■つくり手がつくり上げるお酒 バーボン

逆に、バーボン原酒をつくる際は、「短期熟成」、「ケンタッキー州内はどこも高温乾燥という似通った気候」ということもあり、酒質に対して気候風土よりもマッシュビルなどの製法が影響する割合が高くなります。
(バーボンでは、熟成庫内にヒーターを入れて室温の調整をすることがあります。これもスコッチとは異なり文化です。)

そうなると、多くの蒸溜所を持つよりは、1つの巨大な蒸溜所で集中して生産する方が、効率が良くります。

こういった原酒づくりのスタイルの違いは、バーボン業界で買収があると蒸溜所の統廃合が進む傾向の、一翼を担っていると思います。


■まとめ

上位企業へのブランド集中

買収後の蒸溜所の閉鎖

この2つが、バーボン業界の特徴である『1蒸溜所で多ブランド生産』をもたらしました。

そして、「買収後の蒸溜所の閉鎖」はバーボン独特の文化なのですが、それは

原酒づくりのスタイルの違い

ブレンドに対する文化の違い

から来ている。

今回は前者の「原酒づくりのスタイルの違い」を説明したので、次回は後者の「ブレンドに対する文化の違い」を説明します!

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