アルカリ性を乗り越えろ! バーボン製造の工夫《サワーマッシュ製法②》
■バーボンの仕込み水は「硬水」&「アルカリ性」
前回までのまとめです。
バーボンの仕込み水である「ライムストーンウォーター」は、麦芽の糖化酵素が働きづらい「アルカリ性」なんです!
では、どのようにして、バーボン製造ではこの問題を解決しているのでしょうか?
■水質調整!?
以前に、お酒の製造における水質調整(水磨き)について記事化しました。
穀物のお酒には「仕込み水」が必要! そして『水磨き』とは?|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)
では、バーボンづくりではアルカリ性の水を、酸性へ水質調整(水磨き)をしているのでしょうか?
答えは、Noです!
そもそも、水質調整としてのバートナイズがはじまったのは、19世紀に入ってから(※1)なので、当然その頃にはすでにバーボンはつくられていました。
※1 Wikipedia 「Brewing methods」
醸造方法 - Wikipedia
なので、仕込み水自体のpHを変えているわけではありません。
■要はマッシュを酸っぱくすれば良い!
マッシュとは糖化工程で、「砕いた穀物」と「仕込み水(温水)」を混ぜ合わせたトロトロの『おかゆ状』の液体のことです。
(マッシュ・ポテトのマッシュも同じ意味。)
砕いた穀物も最初は固形物として認識できますが、混ぜ合わせながら適切な温度に保つことで、デンプンとタンパク質が分解されて徐々に液状になります。
というのが、ライムストーンウォーターを仕込み水に使っているバーボン蒸溜所各所の共通な悩みなわけです。
で、あればマッシュを、酸性へと酸っぱくすれば良いのです!
酸っぱくするには?
そう、酸っぱい液体をマッシュへぶち込めばよいのです!!
それらを入れるという手段も考えられますが、ウイスキーづくりではもっと身近に、簡単に、そして安く(というか本来は廃棄物)、手に入れられる「酸っぱい液体」があるのです!
■発酵で液体は酸性化する!
酵母による発酵によって、「糖分」を「アルコール&二酸化炭素」をつくると、液体のpH値は徐々に低下し、酸性化します。
それは、いくつか理由がありますが、一番の原因は
からです。
例えば、ウイスキーをつくる際、蒸溜する前のビール状のもの=モロミ(※3)は、pH 4前後です。
そして蒸溜後もこの酸性は維持される上、樽熟成においても有機酸は増加するため、ウイスキー製品自体も酸性となります。
酸度が高い商品では、pH 3程度にもなるそうです!(※4)
※4 ウイスキーコニサー資格認定試験教本2018上 P43
■《バーボン》マッシュを酸性化させるものの正体
引っ張りましたが、答えです。
アルカリ性の仕込み水「ライムストーンウォーター」を使っているバーボンの糖化工程では、何を使ってマッシュを酸性化させているのか?
で、入れるものは
バーボンは「ビアスチル」という連続式蒸溜機で蒸溜してからの、「ダブラー(orサンパー)」という連続式蒸溜機でさらに蒸溜する『連続式蒸溜機の二刀流』で、原酒をつくります。
具体的には、このビアスチルで蒸溜をおこなってアルコールを取り出した後に、スチルの底にたまって残っている
を使います。
これは蒸溜所にもよりますが、pH値 3.5~4.5のかなり酸度の高い液体です。
このかなり酸っぱい液体を、マッシュにぶっ込むことで、アルカリ性のマッシュを酸性化して、糖化酵素がイキイキと働ける環境を整えているのです!
■この方法のことを・・・
サワーマッシュ製法(すっぱいマッシュ製法)といいます。
硬水&アルカリ性の仕込み水「ライムストーンウォーター」を使用しているバートン業界独特の製法です。
ちなみに、ケンタッキー州の南隣り・テネシー州のテネシーウイスキーや、東隣り・ヴィージニア州でも同じく「サワーマッシュ製法」を用いています!
■次回は
サワーマッシュ製法について、詳細をマニアックに解説します。