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なんちゃって商品を正式排除! 唯一無二のザ・グレンリベット!
■ザ・グレンリベットとは?
ザ・グレンリベットは、スコッチウイスキーの聖地スペイサイド・エリアでつくられているウイスキーです。
いくつかの点において、超有名です。
◆グレンリベットのすごいぞ!ポイント
① 政府公認第1号:蒸溜所
② シングルモルトウイスキー:売上トップクラス
③ モルトウイスキー原酒:生産能力トップクラス
④ 唯一無二の存在「THE」グレンリベット!
それぞれについて解説したいと思います。
■政府公認第1号:蒸溜所
ザ・グレンリベットは、元々は密造酒として、
・スコットランド北部の「山が多いハイランド地方」の、
・その中でも「山奥のスペイサイド地方=スペイ川を遡ったエリア」の、
・さらに入りこんだ「グレンリベット=リベット谷=スペイ川上流の支流であるリベット川沿い」で、
つくられていたウイスキーです。
税金を取り立てる役人が来られないような、超山奥で、ひっそりつくっていたわけです。
でも「ひっそり」と言っても、密造酒時代からブイブイいわせていたようで、創業者:ジョージ・スミスのつくるグレンリベットは、
「あの密造酒、マジ美味いんだけど」
とスコットランド中で当時から有名でした。
密造酒なのに、当時のスコットランド王ジョージ4世(本来は密造を取り締まる政府側のトップ)が、1822年にこっそり、このザ・グレンリベット蒸溜所に行っちゃったくらいです。
その時飲んだ「ザ・グレンリベットが超うまかったから」かどうかわかりませんが、ジョージ4世は、訪問の翌年1823年に酒税法を改正します。
この改正では徴税方針の大転換があり、
「密造酒禁止!! ハイランドの密造者を見つけたらバシっと課税!」
の方針から、
「税金を割と安くするんで、みんな密造なんてやめて、政府登録の公認蒸溜所になりなよ!」
という方針へ大きく様変わりしました。
そして、1824年に政府公認の第1号蒸溜所になったのが、ジョージ・スミスのグレンリベット蒸溜所だったわけです。
ジョージ・スミスは、密造酒仲間から「お前、政府側に寝返ったな。この裏切り者!」と襲われることもあったそうで、常に銃を携行。その銃は、ザ・グレンリベット蒸溜所で展示されているそうです。
このジョージ・スミスの判断は正しく、新税制によって、その後、密造は激減します。
この1824年だけでも、マッカランやカードゥなど有名な蒸溜所が公認蒸溜所としてスタートしています。(公認になっただけで、その前から密造酒はつくっていました。)
その中でも、グレンリベットが、最初の登録になれたのは、密造酒側のドンとして、政権側とパイプがあったんでしょうね、多分。王様が来るくらいだから。
あと、個人的にいつも違和感を覚えるのは「政府公認第1号」と言われていますが、その前からウイスキーへの課税はあって、ローランドの蒸溜所(ひょっとしたらハイランドの一部の蒸溜所も?)では、1824年より前からきちんと政府公認の登録蒸溜所がありました。
なので、ザ・グレンリベットも、1823年に改正された新酒税法の施行後の「政府公認第1号」というのが正しいのだと思います。
ちなみに、スコットランドでは1644年にアクアヴィテ(ウイスキー)に初課税されています。最初に納税した蒸溜所はどこなんでしょうか?
これは昔すぎて、その蒸溜所名は文献に残っていないようです。。
■シングルモルトウイスキー:売上トップクラス
シングルモルトウイスキーの売上では、いつも「グレンフィディック」と「ザ・グレンリベット」がトップを争っています。
基本的には通年でみると「グレンフィディック」が1位なことが多いみたいです。
ただ、単月や、ある程度の期間に区切ってみたり、直近(2015年以降?)では「ザ・グレンリベット」が上回る時があるようです。
いずれにせよ、爆売れしています!
■モルトウイスキー原酒:生産能力トップクラス
モルトウイスキー:年間製造能力(2019年)
① ザ・グレンリベット 2,100L
② マッカラン 1,500L
少し前のデータですみません。マッカランには新蒸溜棟ができていますので、2022年では、ひょっとしたらマッカランの方が上かも知れません。
これを見ると「ザ・グレンリベットも、マッカランもこんなにつくっているのに、日本国内で品薄じゃん!」と思われるかも知れません。
シングルモルトが人気で品薄ということもありますが、ザ・グレンリベットやマッカランは、ブレンディッド・ウイスキーの原酒として、何種類・何十種類がブレンドされる「原酒のひとつ」として使われることが多いのです。
シングルモルトは人気ですが、世界で流通するウイスキーの9割以上はブレンディッド・ウイスキーです。
そして、ブレンディッド・ウイスキーでは、「少量の割合」でも異なる原酒をブレンドすると味わいが大きく変わるそうです。
それ故、ザ・グレンリベットやマッカランは、スペイサイドを代表する華やかなフレーバーのモルト原酒ですから、ブレンディッド・ウイスキー用原酒として重宝されるわけです。
■真似すんなや!《ザ・グレンリベットの場合》
その著名なザ・グレンリベットですが、有名であるがゆえに、ちょっと困った問題が出てきます。
スペイサイドにある蒸溜所が、その有名な「グレンリベット」という名前にあやかろうと、「〇〇〇・グレンリベット」的な蒸溜所名をつけるところが、数多く出てきてしまったのです。
例えば、
・ロングモーン・グレンリベット蒸溜所
・ブレイズ・オブ・グレンリベット蒸溜所
などなど。
うちは「グレンリベット」ではなくて、「〇〇〇・グレンリベット」なので、セーフでしょ!?
という見解だと思いますが、当のグレンリベットとしては面白くありません。
裁判となり、グレンリベット側の勝訴となります。
上記の蒸溜所はそれぞれ蒸溜所名からグレンリベットの文字を削除することとなります。
・ロングモーン・グレンリベット蒸溜所
→ ロングモーン蒸溜所
・ブレイズ・オブ・グレンリベット蒸溜所
→ ブレイヴァル蒸溜所
ちなみに、ニッカ創業者の竹鶴政孝さんの著書「ウイスキーと私」の中に、
私はローゼスではグレンリベット(Glenlivet)蒸留所で、おもに実習をさかね、
ニッカウヰスキー発行
という記載がありますが、ザ・グレンリベット蒸溜所とローゼスの町は離れています。
つまりこれはロングモーン・グレンリベットのことで、すなわちロングモーン蒸溜所のことです。
私の知識として、竹鶴さんは、「ロングモーン」「ヘーゼルバーン」「ボーネス」の3ケ所の蒸溜所で修行したという認識があったので、最初にこの「ゲレンリベット蒸留所」の記載を見かけた時には混乱しました。
一方で、裁判後に本家本元のグレンリベットは、定冠詞THEをつけることを許され、
THE GLENLIVET
と表記するようになったのです!
■真似すんなや!《番外編:ビールの場合》
この「他人の名前にあやかろう」とするのは、古今東西、非常にあるあるのパターンです。
同じ大麦のお酒で言えば、ビールでも有名な事例があります。
現在、日本で飲まれているビールの大部分は、ピルスナータイプです。
いつもの「濁りのないゴールド色」で、「下面発酵」でつくるビールのひとつです。
日本だけでなく、ドイツやアメリカでもこのタイプが多いです。
(イングランド、スコットランド、アイルランド、ベルギーなどは上面発酵のエールタイプのビールが基本。)
この「濁りのないゴールド色」のビールは、1842年、チェコのピルゼンでヨーゼフ・グロルという醸造家がつくったのが最初です。
これは「狙ってつくった」わけでなく、今までの濃色ビールよりも断トツで『クリアなゴールド色のビール』が「たまたま」できちゃった!という流れなのですが(詳細は省略)、このピルゼンでつくられるビールは、「ピルスナービール」と呼ばれるようになります。
この画期的なピルスナービールがビール業界を席巻すると、さっそく、ピルゼン以外でも「ピルスナー」を名乗るビールが誕生。
ピルゼン市民醸造所は1898年と1912年に「ピルゼン以外でつくったビールを、ピルスナーと呼ぶのは違法だ!」と裁判を起こします。
結果的には、グレンリベットのように、判決で「明確にダメ!」とはならなかったものの、「ピルゼンで醸造されたと誤解されないようにしなければならない」というフワっとした判決が出ました。
ただ、ピルゼン以外の醸造所では「また訴えられたらやべーな」と考え
PILSNER
→ PILS「E」NER とEを入れてみたり、
→ 「PILS」という表記に変える。
という対応をするようになり、現在にいたります。
■やっぱりすごいザ・グレンリベット
ザ・グレンリベットにしても、ピルスナービールにしても、本家本元が断トツに「美味い」から便乗しようとする人達が現れるわけです。
そしてその「ザ・グレンリベット」「ピルスナービール=銘柄はピルスナー・ウルケル(ウルケルとは元祖の意味)」ともに、今日もウイスキー業界・ビール業界のそれぞれで、業界トップレベルの「味の評価」と「売上」を誇ります。
それにしてもザ・グレンリベットの「THE」って、格好良いですね。
私の名前も、「ザ・チャーリー」にしようかな。