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【ついにバブル崩壊】パティソン兄弟の2つの過ち《パティソン事件:③》
■パティソン事件とは
パティソン事件の記事の最終回です。
まずは、パティソン事件の概要から!
1899年。 パティソン事件(Pattison affair)が起こり、業界全体の危機を引き起こした。エジンバラのブレンダーのパティソン兄弟は、強気一方、相当あくどい商法で売り上げを伸ばしたが、資金繰りに窮して帳簿操作で切り抜けようとしたが倒産、多くの蒸溜所や関係会社が連鎖倒産に追い込まれた。兄弟は裁判で有罪となり服役刑に処せられた。
稲富博士のスコッチノート 第101章 バランタイン・ウイスキーの話-その2.バークレー・マッキンレーからハイラム・ウォーカー(スコットランド)の時代 (ballantines.ne.jp)
■パティソンズ社 不正への道
パティソンズ社の悪行として挙げられるのは、大きくは2点です。
①粉飾会計
②ウイスキー中味偽装
それぞれについて解説します。
◇粉飾会計
帳簿操作で、手持ちのウイスキー原酒の評価額を過大に計上して、借入を繰り返して、どうにか自転車操業をしていたそうです。
「ウチは、優良なウイスキー原酒をいっぱい持っているし、スコッチ業界も、俺の会社も絶好調なんで、この持っている原酒もバンバン値上がり予定ですわー。 笑いが止まりませんなー。 ウチに投資したら、ハイリターンを得られまっせ!」
こんな感じで、不正な粉飾会計をすることで利益が出ているように装った上で、資金集めを繰り返していたみたいです。
◇ウイスキー中味偽装
「安価なウイスキーに少量の高級スコッチウイスキーを混ぜて『ファイン・オールド・グレンリヴェット※』と表示し、27,000ポンド近くも利益を増やしていた」
パティソンズウイスキー-ウィキペディア (wikipedia.org)
これはどうも、パティソンズ社が破産して、半年間ほどその事業を再建や清算をするために実態調査をしていた際に、「お前これ、原酒の中身がおかしいやろ!」と判明したみたいです。
ウイスキーの中味偽装!
これはいけません!!
それにしても「粉飾会計」と「中味偽装」って今も昔も、悪者ワルモノがやることって変わっていないですね・・・
《補足》『ファイン・オールド・グレンリヴェット』について
Wikipedia英語版や他のいくつかのサイトでは、パティソンズ社が『ファイン・オールド・グレンリヴェット』の中身を偽装していたと記されています。
ただ、当時のパティソンズ社は、ザ・グレンリベット蒸溜所を所有していないですし、一方でグレンファークラス蒸溜所の半分を所有していました。
そして、同社の当時のメイン商品の1つが「オールド・ブレンディッド・グレンファークラス・グレンリヴェット」でした。
なんでもかんでも、「とりあえずグレンリヴェットという名前をつけておけ!」というのが当時の風潮でした。(詳しくは、下部に添付する過去記事をご確認ください。)
そのため、この中味偽装をされていたとされる『ファイン・オールド・グレンリヴェット』は、『ファイン・オールド・グレンファークラス・グレンリヴェット』の間違いではないか?というのが私の推測ですが、これ以上詳しい情報が見つけられないので、今後の宿題としたいと思います。
なんちゃって商品を正式排除! 唯一無二のザ・グレンリベット!|チャーリー / ウイスキー日記|note
■パティソンズ社 急転直下の破産
結局、不正な粉飾会計がバレはじめ、未払いを理由にDCLに口座を凍結されると急展開。
同社が粗悪な会計処理により利益を大幅に水増ししていたことが判明!
1898年12月初旬に莫大な負債を抱えて、ソッコーで破産しました。
実は、数か月前の1898年7月に、
・空前の利益を上げた決算を発表
・新ブランドのブレンディッド・ウイスキーの新発売を発表
・グレンファークラスとオルトモア蒸溜所の増設を発表
していたばかりで、まさに急転直下の破産でした。
破産から半年以上に渡って再建が試みられましたが事態は好転せず、破産手続きが本格的に始まった頃には、資産の2倍にのぼる負債を計上。
パティソン兄弟は詐欺と横領罪で1901年に投獄されたのです。
■パティソン事件(=バティソンズ社の破産)が与えた影響
バティソンズ社の破産で、大きく分けて2つの大きなインパクトがありました。
◇パティソンズ社に関わる業者の連鎖倒産
パティソンズ社に原酒を買ってもらっていたポットスチル蒸溜会社をはじめ、販売業者やブレンダーなど、同社に直接的な取引のある業者10社が連鎖倒産。
◇スコッチバブルの崩壊
1860年頃から「ブレンディッドウイスキー人気」&「フィロキセラによるワイン用ブドウの壊滅」により、ずっと好調だったスコッチ・ウイスキー市場が崩壊。
その結果、価格が低迷したため、パティソンズ社に直接関係しない販売業者やブレンダー、ポットスチル蒸溜会社も大打撃を受けました。
この後、50年以上に渡りスペイサイドで蒸溜所が開設されなかったほどでした。
■パティソンズ社の破綻がなくても
当時のスコッチ業界では、ブレンディッド・ウイスキー市場の拡大を背景に、以下のバブル状態となっていました。
・ブレンディッド・ウイスキーが売れまくり!
(フィロキセラの影響で、輸出も好調)
↓
・バブル的な原酒価格の高騰
(保有しているウイスキー原酒価格は、ドンドン上がり続けるぜ!)
↓
・過剰な蒸溜所開設
(将来値上がりするだろうから、原酒をジャンジャンつくろっと。)
(そして銀行も、ウイスキーバブルに乗っかり、信用貸しを行った。)
↓
・在庫数量が販売数量を大きく上回るアンバランス状態
(バブル状態。原酒価格が一度下落したら、好景気から一気に不況に陥る危うい状況。)
スコッチウイスキー業界時代が、このような状況だったので、パティソンズ社の倒産がなくてもバブルが崩壊していただろうことは間違いなさそうです。
ただ、あまりに象徴的な事件であり、ウイスキーバブルに乗っかった過剰生産に加え、
「粉飾会計」&「中身偽装」のダブルパンチ
だったので、悪い意味で歴史に名を刻んでしまったのがパティソンズ社の破産(=パティソン事件)なのです!
《参考文献》
スコッチウイスキーの歴史 国書刊行会:発行
ジョン・R・ヒューム、マイケル・S・モス 著