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カスタマイズ商品が多いバーボン業界。そのバーボン、実は「日本限定品」の巻 《アーリー⑪》

■前回までのまとめ

・2021年6月、アサヒビールにより日本国内で販売されていたアーリータイムズ・イエローラベルが突如休売。(そのまま2022年6月、日本での取扱終了)
・なぜアサヒビールの取扱が終了してしまったのか?というと、商品の供給が追いついていないから。
・それは澱が発生した商品があって、その確認のため出荷を止めていたためと言われている。
・なぜ澱が発生したかというと、私チャリーの推測では、「米国での製造元が変わり、製造工程が変わったから」であり、特に「ろ過工程が変わったのではないか?」。
・そして、そもそもバーボン業界では、度々業界が再編されたために、バーボン・ブランドの売買が、盛んに行われてきた歴史と素地がある。
・そのバーボン・ブランドの売買の際には、買収後に蒸溜所が閉鎖されることも多かったので、『1蒸溜所で多ブランド生産』するケースが多い。

今回は『1蒸溜所で多ブランド生産』できるバーボン業界だからこそ、「商品毎のカシタマイズ製品がムチャクチャ多い」というお話です。


■ウイスキーのカスタマイズ製品

ウイスキーの定番品からカスタマイズされた商品としては、「数量限定品」「地域限定品」「復刻盤」などがあります。

◇数量限定品

エッセンス・オブ・サントリー シリーズ
THE ESSENCE of SUNTORY WHISKY サントリー

ニッカ ディスカバリー シリーズ
シングルモルト余市・シングルモルト宮城峡 アロマティックイースト|商品紹介|NIKKA WHISKY

ともに原酒づくりの多様性を表現している限定品です。


◇地域限定品

例えば、発売地域によってアルコール度数の異なる商品なんてものは結構あります。

◇ラフロイグ10年

《日本仕様》 750ml Alc.43%。
《海外仕様》 700ml Alc.40%

43%は元々のイギリスでのウイスキーの法律で定める最低瓶詰アルコール度数でした。(75ブリティッシュ・プルーフ)。
エクスポート・ストレングスとも呼ばれるようで、スコッチウイスキーの伝統的な最低アルコール度数です。

一方で、アメリカやEUは40%が法定の最低瓶詰度数です。
この前までEUに加盟していたイギリスも、法律上は、今はそれに倣っています。


◇復刻版

数量限定品の1種ですが、現在の商品は色々な味のマイナーチェンジを経て、その味になっているわけですが、「元々の方の味の方が良かった」というような声に答える形で発売になる商品です。

ザ・グレンリベット イリシットスチル
『ザ・グレンリベット12年 イリシット・スティル』2月15日(月)から数量限定発売 - お知らせ - ペルノ・リカール・ジャパン (pernod-ricard-japan.com)

このように、ウイスキーに限らず、飲料・食品には「色々な限定品」があると思います。

ただバーボンでは、群を抜いてカスタマイズ品が多いように感じます。
それは、「1蒸溜所・多ブランド生産」をしているので、「商品のカスタマイズが得意だから」ではないかと思います。

ヘブンヒル社のバーンハイム蒸溜所なんて、200以上のブランドをつくり分けているはずなので、1ブランドの中での味のカスタマイズなどは、楽勝なのではないかと思ってしまいます。


■日本限定商品が多いバーボン業界

このようにカスタマイズが得意なバーボンでは、「日本限定」の商品がたくさんあります。

◇I.W.Harper 12年

日本で古くから人気のあるバーボン「ハーパー」の12年モノ。

この12年ものは本国アメリカで1961年に発売となりましたが、当時、バーボンとしては異例の超熟モノとして人気を博しました。
(バーボンは、スコッチに比べ、「高温・乾燥」の環境下+「新樽」で熟成をさせるので、熟成が早く、10年以上といった長期熟成をさせることは、それまで一般的ではありませんでした。)

この12年は残念ながら現在の製造元:ディアジオ社より、原酒不足&包材不足(独特なゴージャスな瓶)により終売が発表され、2022年6月頃にメーカー出荷が終わっています。

ここで重要なポイント!
このI.W.Harper 12年、2022年の終売時にすでに本国アメリカでは存在していなかったんです!!
そう、いわば「日本限定商品」だったんです!


◇I.W.Harper ゴールドメダル

このゴールドメダルは、ハーパーのスタンダードボトルです。

(ハーパーのブランド・ヒストリーについてはまた別途でいつか記事化したいと思います。)

この日本でよく見かける定番バーボン「I.W.Harper ゴールドメダル」ですが、これも本国アメリカでは、かなり前から売っていません。
こちらも、いわば「日本限定商品」!

えっ!?
という声が聞こえて来そうですが、少し解説をします。


■1蒸溜所・多ブランド生産によるブランドの整理整頓

バーボン業界が、「業界の再編」、「再編時の蒸溜所の閉鎖」、「バーボン・ブランドの売買」による、『1蒸溜所・多ブランド生産』をするようになった、というのは、前回まで何話かに渡ってお話ししてきました。

その後、バーボン業界のトレンドが下がると、
「手持ちのブランドが多すぎて、整理整頓しないと、どうにもならんわ!」
という状況になってしまいます。
それが、ビッグ4が消滅する1980~2000年頃です。

元々、「I.W.Harperブランド」は、ビッグ4の一角:シェンリー社が所有していました。
そのシェンリー社は、アメリカのコングロマット企業に買収された後に、最終的に1987年にギネス社に売却され、現在のディアジオ社(ギネス社とグランドメトロポリタンが合併した会社)へと繋がります。

ギネス社は、1990年代半ばに、

I.W.Harperブランドは輸出専用(主に日本向け)にする!

という戦略を決め、アメリカでの販売を終了してしまったのです!

これは、下記に起因すると思われます。

・アメリカでのバーボン不況(※1)

・日本における販売量の大きさ

・日本に持ち込まれるハーパーの並行品対策(※2)

※1 ホワイト・レボリューションと呼ばれる1970年頃にはじまった米国のウォッカ・ブーム。1974年、米国でウォッカがバーボンを抜きました。

※2 当時、正規ルートでなく、米国現地で安く買ったハーパーを日本に持ち込んで高く売るという「海外並行品」が蔓延したそうです。


こんなわけで、我々が日本で良く目にするバーボン:I.W.Harperは、2000年頃以降は「日本でしか飲めないバーボン」となっていたわけです。(※3)

※3 アメリカでは現在、バーボン・ライウイスキーブームのため、2015年年、I.W.Harperが日本とはまた違う仕様で、米国内で発売になっています。さすが、カスタマイズが得意なバーボン業界ですね!


■そしてアーリータイムズ

実は、「I.W.Harper」とまったく同じような話があるんです!

しばらく前に日本終売になってしまった、ど定番バーボン

アーリータイムズ ・ イエローラベル
アーリータイムズ ・ ブラウンラベル

この2つとも、「日本限定商品」だったんです!!
簡単に言うと、本国アメリカでは販売されていないバーボン!

えええっ!?
という声が聞こて来そうです。
これについて次回、解説したいと思います。


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