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綺麗なバーボンの仕込み水。でも困った問題が!?《サワーマッシュ製法①》
■バーボンの仕込み水は硬水!
前回まで、穀物でつくるお酒の仕込み水の硬度(軟水・硬水)についてお話ししました。
・日本のお酒づくり(日本酒/ビール/ウイスキー)では「軟水仕込み」を目にすることがほとんどですが、実は硬水でも美味しいお酒をつくることができる。
・「硬水仕込み」の代表選手がアメリカンウイスキーのバーボンである。
・バーボンの仕込み水は、ライムストーンウォーターを呼ばれる、石灰岩層で磨かれた超綺麗な硬水。
・ライムストーンからカルシウムなどのミネラルが溶け出すので、硬度が約300mg/L以上まで高くなる。
そして、この超綺麗な硬水である「ライムストーンウォーター」には『ちょっと困った問題がある』というのが、今回のお話です。
■液体の酸度・アルカリ度
酸度・アルカリ度とは、小学校の理科の時間にやった、「リトマス紙の色が変わるかどうか?」のあの実験です。
◇液体に・・・
青色リトマス紙に付け、赤色に変わる
→ 酸性(~pH7)
赤色リトマス紙に付け、青色に変わる
→ アルカリ性(pH7~)
どちらのリトマス紙も色が変わらない
→ 中性(pH7)
酸・アルカリの度合い(強さ)を表すのが、pHと呼ばれる数値です!
今回、調べていてこの「pH」について衝撃的な事実に気がつきました。
pH = 呼び方:ピーエッチ
※ 昔はペーハーという読み方が一般的でした。
ピーエッチ!! 今、初めて知りました!
私の世代は、完全にペーハーでしたね。
酸性・中性・アルカリ性って?pHって? – 石鹸百科 (live-science.com)
話を戻して、pH7を中性として、それ未満が酸性、それより大きければアルカリ性となります。
そしてpH7よりも「値が小さければ小さいほど酸度が高く」なり、「値が大きければ大きいほどアルカリ度が高く」なります。
■pH値
◇pH値
水溶液(=液体)中の水素イオン濃度を表す数値
◇酸性(~pH7)
《特徴》酸っぱい味のするもの!
・レモン汁、食酢、胃液 とか
◇アルカリ性(pH7~)
《特徴①》苦みやアクのような舌を刺激する味。
・草木を燃やした後にできる灰を水に溶かした灰汁(アク)
《特徴②》ぬるぬるとした感触。
・石鹸水
アルカリという言葉自体が、元々アラビア語で「食物の灰」を意味するそうです!
このアルとは、アラビア語で「THE」のことです。
ちなみに、アルコールのアルも同じくアラビア語の「THE」のことで、同じ語源です。
昔のアラブ世界で、蒸溜技術をはじめとして、錬金術に関係した液体関連の研究が進んでいたことの証だと思います。
■代表的なpHの例
◇代表的なpH
《酸性》
・胃液 1.5~2
・レモン汁 2~3
・食酢 3程度
・ワイン 3~4
・ビール 5程度
・コーヒー 5程度
《アルカリ性》
・血液 7.4
・涙 8.2
・海水 8.4
・石鹸水 10~11
・石灰水 12程度
◇ライムストーンウォーター(石灰岩水)
・pH 7以上(アルカリ性)の場合がほとんど!
バーボンの仕込み水は超綺麗だけど、「アルカリ性」なので問題が生じるのです!
(pH 12の石灰水と、pH 7以上のライムストーンウォーター(石灰岩水)は別物です。詳しくは前回記事をご確認下さい!)
それはどういう問題でしょうか?
■穀物のお酒に必要な糖化工程
フルーツが原料のお酒はすでにフルーツに糖分がありますから、糖化工程は必要ありません。一方で、穀物が原料のお酒では、糖分がないため、穀物に含まれるデンプンから糖分を作る必要があります。それが糖化工程です。
糖化工程で、穀物の「デンプンを糖分」へ変換します。その際に糖化酵素という「酵素」の働きを活用します。
この「糖化酵素」が、西洋と東洋では異なります!
◇西洋
麦芽(発芽した麦)による糖化酵素
※ 発芽していない麦(大麦・ライ麦etc.)には糖化酵素はない
◇東洋
麹菌(カビ)による糖化酵素
このように
・穀物を原料にしたお酒をつくる場合、糖化工程が必ず必要
・西洋と東洋では、伝統的に使ってきた糖化酵素が異なる
という事実があります。
■脱線しますがウイスキーと焼酎の違い
このように、「ウイスキー」と「木樽熟成させた麦焼酎」との製法上の一番の違いは、「糖化酵素の違い」と言うことができるのです。(もちろん他にも違いはありますが)
麦焼酎を木樽熟成させても、
「モルトウイスキー」とは呼べない。
米焼酎や泡盛を木樽熟成させて
「ライスウイスキー」とは呼べない。
その最大の理由が「糖化酵素(麦芽or麹)」の違いです。
ちなみに、アメリカでは「ウイスキー」というものの法定義に、「麦芽酵素を必ず使用」が明記されていないです。(スコッチなどでは明記されている)
近年の日本産ウイスキーの人気とともに、木樽熟させた焼酎を「日本のウイスキー」として販売するケースが、アメリカを中心に海外で多数発生しました。
日本洋酒酒造組合で2021年に「ジャパニーズウイスキーの定義」が制定されましたが、その制定を大きく後押しした要因の1つだと思います。
自主基準|日本洋酒酒造組合(公式ホームページ) (yoshu.or.jp)
一方で日本の酒税法では、ウイスキーの定義に「麦芽酵素の使用」が明記されていませんが、他国にはない『焼酎』の法定義があります。
そのため『焼酎』を『ウイスキー』として売ることはできません。
ただ、「輸入したウイスキーor自社製造のウイスキー」と「焼酎or泡盛」をブレンドして『国産ウイスキー』として販売することは、法律上では可能です。
実際にそういう商品もありますが、これについては、またいつか記事化したいと思います。
■糖化工程でのpH値
フルーツのお酒では、果汁からそのままお酒をつくりますから仕込み水は不要です。
一方で、穀物のお酒は、砕いた穀物に仕込み水を投入します。
ビールやウイスキーの場合は、砕いた麦芽に仕込み水を投入して、麦芽の中に含まれる糖化酵素に活躍してもらって、「デンプン→糖」の糖化を進めます。
◇麦芽の糖化酵素が最もよく働くpH値
・pH 5.4~5.6(酸性)
◇ライムストーンウォーター(バーボンの仕込み水)のpH値
・pH 7以上(アルカリ性)
ライムストーンウォーターは、麦芽の糖化酵素が働きづらい「アルカリ性」なのです!
■どうするバーボン!?
このように、石灰岩で磨かれた超綺麗な仕込み水を使っているバーボンですが、この水は「糖化酵素が働きにくいアルカリ性」なのです!
どうするバーボン!?
次回に続きます。