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【昭和の地ウイスキー】なぜ一升瓶にウイスキーを詰めたのか?《一升瓶ウイスキー④》

■前回までのおさらい

◇昭和の地ウイスキー=一升瓶ウイスキー 
 が誕生した背景

・日本酒の酒蔵が、副業的にウイスキー製造に参入したケースがほとんど。

・なぜなら1974年をピークに日本酒が売れなくなってしまったから。

・第二次大戦後、日本酒には醸造用アルコールを添加することが一般的になっていたので、酒蔵側がスピリッツの取り扱いはお手のものだったことが背景にある。

ちなみに一升瓶ウイスキーは、

・低価格な商品が多い。

・現在の小規模蒸溜所がつくるクラフトウイスキーも地ウイスキーと呼ばれることがあるが、低価格戦略が基本路線である「昭和の地ウイスキー(=一升瓶ウイスキー)」とは、分けて考える必要がある。

日本酒の酒蔵がウイスキーづくりに参入した背景はわかりました。

それでは、なぜ一升瓶に詰めたのでしょうか?

だって、一升瓶にウイスキーが入っているって、ちょっと変ですよね・・・


■日本酒の酒蔵はなぜ一升瓶にウイスキーを詰めたのか?

いきなり答えです。

《答え》
ボトリング設備が、
『一升瓶用』しかなかったから。

ズコッ!
超シンプルな理由・・・

でもこれは酒類業界全般に言えることですが、

ボトリング設備はムチャクチャ高い
(※ 瓶用も、缶用も)

のです!!

そのため簡単には新規導入できないのです。


■ボトリング設備を新設するという判断はなかったのか?

本格的にウイスキーづくりへの参入を決意し、長期的な戦略の中で、ウイスキーづくりへの投資を惜しまないのであれば、ボトリング設備を新規導入するという選択肢もあったと思います。

しかし、昭和の地ウイスキー(=一升瓶ウイスキー)ブームの場合、

日本酒が売れなくなったから、
  流行りのウイスキーをつくるぞ!!

というのが、直接的な参入の理由です。

ただ、本格的な老舗のウイスキーメーカーに品質・宣伝はなかなか敵わないから、二級ウイスキー(※1)の規格で、価格で勝負だ!

このような戦略をとったケースが多かったようなのです。

 二級ウイスキーとは

1989年に廃止するまで、戦前から続いていた日本国内におけるウイスキーの等級制度。

何度も変更されてきましたが、1978年に改正された一升瓶ウイスキー全盛期の二級ウイスキーの定義は以下の通りです。

◇二級ウイスキー(1978年改正)

・ウイスキー原酒混和率 10~17%未満
 (あとはスピリッツをブレンド)

・Alc.37~39%

※    特級・一級ウイスキーより酒税が安くなるので、消費者に安く届けることができる。ビールでいうところの「新ジャンル=第三のビール」のイメージ。

この「低価格戦略」がベースとなっているので、ボトリング設備を含め、新たな大きい投資は戦略と合致しませんから、既存のボトリング設備を用いて「一升瓶」にウイスキーをボトリングするようになったのです!

また、「低価格戦略」のため配送コスト面では、ボトリング設備のあるところ(≒酒蔵)から近いところで販売するのが良いわけです。

そのため、その地域でのみ売られている「一升瓶ウイスキー」という存在となり、それが「地ウイスキー」と呼ばれるようになった由縁です。


■ボトリング設備は高い!

ボトリング設備が高いというのは、日本酒業界だけでなく、ウイスキー業界でも、ビール業界、ワイン業界でも一緒のことが言えます。

例えば、スコッチの老舗の名門蒸溜所でも、蒸溜所内にボトリング設備を持っていない蒸溜所の方が多いです。

そのため、例えばスコッチの2強「ディアジオ社」や「ペルノリカール社」では、傘下の蒸溜所や熟成庫から原酒のみを移動させて(この時はまだ樽詰めせずにタンクローリーでの移送がほとんど)、専用のボトリング設備で、効率的に瓶詰めを行っています。

逆に、スコッチの蒸溜所で、ボトリング設備がある場合は、

うちの蒸溜所にはボトリング設備がありますよ!

とアピールしています。

この「ボトリング設備がありますよ!」のアピールを聞いた時、私は最初
『それ当たり前でしょ』
と思いましたが、当たり前ではないのです。


■ビール醸造所の場合

ボトリング設備が高いのはビールも一緒です。

クラフトブルワリー、特に飲食店併設のブルーパブの場合は、

瓶ビール・缶ビールはなく、樽詰ビールのみ!

というケースも結構多いです。

そりゃ、つくり手としては、瓶ビールも缶ビールも売りたいところですが、大きな設備投資となります。

そのため、まずはつくったビールを確実に消費していくため、自社経営の飲食店向けの樽詰めだけでスタートすることも多いのです。

また、自社経営店舗だけではなく、知人の飲食店仲間に樽詰ビールを融通(販売)することも多いです。

これは、ビール・発泡酒(ウイスキーもワインもですが)の製造免許には、年間最低生産量が設定されているからです。
(何年も連続でその生産量を下回ると免許はく奪ということになります)

飲食店で「安定して一定量を消費」できる目途がたってから、瓶詰め・缶詰めの設備を後追いで導入する、という流れにはこういう背景があるのです。


■(おまけ)ビールの缶詰め施設

ちなみに、そのお高いボトリングの設備ですが、当然、ピンからキリまであります。

大手のビールメーカーの缶ビールは、賞味期限を充填後9ケ月としている場合が多いです。

ビール工場見学に行くと説明がありますが、大手メーカーの充填設備は、充填時に炭酸ガスを缶内に吹き付けて、酸素を追い出してからビールを詰めるという優れものです。
その結果、缶内に酸素がほぼ残らないので酸化による劣化が抑えられ、賞味期限が9ケ月と長めとなります。

一方で、小規模のクラフトブルワリーの場合は、缶詰めができたとしても「炭酸ガスで置換」までの充填設備ではないこともあります。

その場合は、例えば賞味期限が充填後3ケ月とかと短くなります。

この賞味期限の長短は、ビール品質の優劣とは関係なく、ボトリング設備の違いが、賞味期限の違いになっているのです。
(もちろん、原材料など他の理由で賞味期限が短くなることもあります)


■次回は

後半は話がボトリングへずれてしまいました。

次回は、日本酒の酒蔵が地ウイスキーづくりに参入できた「ボトリング設備を持っている」以外の理由について、ご紹介したいと思います。

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