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ウイスキー蒸溜所は、建てたら終わりじゃないんです!
■ウイスキービジネスの設備投資
ウイスキー生産のための設備投資の話の4話目(最終回)です!
<ざっくり投資金額規模感>
◇モルトウイスキー蒸溜所の新規開設
(ポットスチル2基)
約15~20億円
↓
うち「ポットスチル1基 2.5億円」
(通常2基なので5億円)
◇グレーンウイスキー蒸溜所の新規開設
(連続式蒸溜機一式)
約80~100奥円
蒸溜所(=生産設備)をつくったら終わりではなく、熟成庫が必要となります。
◇ウイスキーの熟成庫1棟
(サントリー近江エージングセラーの場合)
約60億円
ウイスキーづくりへの設備投資は、蒸溜所(生産設備)をつくったら終わりではなく、熟成庫も追加で必要になる上に高い!
なぜなら、
「重さ」「地震」に耐えられる頑丈な倉庫でないとならない。
↓
ウイスキーの熟成庫(ウェアハウス)は、
通常の倉庫よりも高い!
ここまでが前回までのお話です。
今回はその「ウイスキー熟成庫」について、もう少し掘り下げて考えることから始めてみたいと思います!
■最初のうちは蒸溜所の片隅で・・・
どこの蒸溜所も、開設してから最初のうちは蒸溜所内の建屋の片隅で熟成させます。
そしてスペースがなくなると、蒸溜所の敷地内に、蒸溜棟(生産棟)とは別で熟成庫(ウェアハウス)を建設することが多いです。
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(ウェアハウス)
ダンネージ式/輪木積み(=スコッチウイスキーの伝統的な保管方法)で貯蔵しています。
■そして巨大なラック式熟成庫へ
そして、そこさえも手狭になると、蒸溜所の敷地とは別のところに、より巨大な「集中熟成庫」を建てます。
こうした集中熟成庫の場合、ストックする樽の数もハンパじゃなく多くなります。
そうなると、ウイスキーの熟成でよく見かけるダンネージ式(=輪木式)ではなく、ラック式(=物流センターの倉庫みたいな感じ)となり、徹底した在庫管理が行われるようになるのです。
◇ラック式の熟成庫ってこんな感じ
サントリーの白州蒸溜所には、大型のラック式の熟成庫(ウェアハウス)が、18棟あります。
JWIC-ジャパニーズウイスキーインフォメーションセンター
その白州蒸溜所の熟成庫はこんな感じです。
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ラック式は、こんな感じ↑で本棚に樽が収まっている感じで貯蔵されています。
そしてもう少し引いた位置から、全体を見渡すと、こんな感じです↓
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上から下まで樽だらけ!
そして、もはや突き当りが見えないくらい、ずっっと奥まで樽だらけ!!
なんかアマゾンの物流倉庫を彷彿とさせるというか、天空の城ラピュタの内部というか、とにかく巨大な空間ですね。
このような巨大な熟成庫が、白州の森の景観に溶け込むように、広大な白州蒸溜所の敷地内にいくつも点在しています。
■熟成庫は建て増しが必要!
繰り返しになりますが熟成庫へストックする樽の数は、蒸溜所が生産を続けるなら、(途中で商品化して使ってしまう分ももちろんありますが)基本的には増え続けます。
つまり、ウイスキー市場が堅調に推移している場合、
熟成庫(ウェアハウス)を、
建て増し続けなければいけない
のです。
この事実は蒸溜所を開設する時には、あまり気づかない(開設でテンションが上がっているので、追加投資まで考える余裕がない)ことも多いようです。
クラフト蒸溜所の経営者さんからは、
熟成庫を建て増し続ける
継続投資が必要だなんて、
聞いてないよー!!
(ダチョウ倶楽部風)
なんて声を聞くこともあります。
■熟成庫だけない! 追加の設備投資
熟成庫の増設が、カタマリとしては定期的に必要になる大きな設備投資です。
ただ、その他にも「品質=香味の向上」などに向けて、各社が投資を行っています!
◇ニッカ
〈2019年発表〉
熟成庫を2棟増設 & 生産設備の増強
= 65億円
ニッカウヰスキー、国内2拠点でウイスキー増産/65億円投資 | 設備投資ジャーナル (setsubitoushi-journal.com)
◇キリン
〈2019年発表〉
熟成庫の大型化 & 生産設備の増強
= 80億円
キリン/80億円投資、富士御殿場蒸溜所のウイスキー生産設備を増強 | 流通ニュース (ryutsuu.biz)
◇サントリー
〈2013年導入〉
山崎蒸溜所 ポットスチル4基増設
= 10億円
〈2014年導入〉
白州蒸溜所 ポットスチル4基増設
= 10億円
〈2019年発表〉
近江エージングセラーに熟成庫を1棟・増設
= 60億円
〈2022年発表〉
知多にカフェスチル(連続式蒸溜機)の増設
= 100億円
〈2023年発表〉
山崎・白州の品質向上への投資
& 見学設備などの新設
= 100億円
サントリー ウイスキー事業100周年 品質向上へ100億円投資 「山崎」「白州」魅力伝える (shokuhin.net)
各社、相当な投資金額です!!
■美味しいものをつくるために
熟成庫の建て増しだったり、品質向上のための投資だったり、すべては「将来により美味しいウイスキー」を届けるための投資ですよね。
こういった追加の投資も考えると、ウイスキーづくりって、「パッとつくって儲かる!」タイプのビジネスではないことがよくわかります。
■ウイスキービジネスは長期スパン
ウイスキービジネスは、長期スパンで「投資回収」や「品質向上」を考えないといけないわけですね!
だって、今日、蒸溜したニューメイクが樽に詰められ、10年・20年、はたまた50年の熟成を経て商品化される時には、その原酒を蒸溜した技師はもうその会社にはいないのですから。
逆に言うと、今の長期熟成原酒は、もう現役を引退している先人がつくった原酒です。
そう考えると長期熟成のウイスキーを飲む時には、「美味いぜ!」とクイッと飲んでしまうのではなく、それをつくった人に少しだけ思いを馳せて飲んでみようと思う、今日この頃です。